選手ファーストへ舵を切り始めた野球界
「球数制限」議論から、考えるきっかけに

「継投」が注目された今夏の甲子園

履正社の初優勝で幕を閉じた101回目の夏の高校野球。少しずつだが、変化を感じられる夏でもあった
履正社の初優勝で幕を閉じた101回目の夏の高校野球。少しずつだが、変化を感じられる夏でもあった【写真は共同】

 劇的な動きではないし、まだ変化は不十分かもしれない。しかし夏の甲子園大会は少しずつ変化している。徐々に選手を守る方向へ向かっている。そう感じた第101回全国高等学校野球選手権大会だった。

 前回の第100回大会を振り返ると、金足農業の吉田輝星(現・北海道日本ハム)が、決勝戦まで6試合連続で先発。計50イニング、881球の“奮投”を見せた。一方で高校野球の大きなトレンドは、複数投手の戦力化だ。履正社は清水大成、岩崎峻典の2枚を使い分けて今大会を制した。ドラフト1位指名が濃厚な奥川恭伸(星稜)も2回戦、準々決勝の先発を回避した。


 大会日程を見ても今は準々決勝、準決勝後にそれぞれ1日の休養日が設定されている。3連投、4連投といった事態はよほどの天候不順でない限り起こらない。1993年夏からは医師による投手関節機能検診も実施されている。そしてこの4月から「投手の障害予防に関する有識者会議」の議論も始まった。全国高等学校野球連盟(高野連)が何も手を打っていないかと言ったら、それは明確に違う。


 投手陣のレベルは底上げが進んだ。テクノロジー、先進的な理論を取り入れているからだろう。選手を追い込み、淘汰(とうた)する指導手法のチームは結果が出なくなったし、そもそも親と選手から選ばれない。甲子園は猛練習を生き残ったオンリーワンでなく、「ほどよい練習で成長した普通の投手」が活躍する場となった。


 140キロ以上の速球は珍しいものでなくなり、ケガが怖くなるような荒っぽいフォームで投げる選手も減った。効率的なフォーム習得で才能をスポイルせず、複数の投手をそろえたチームが今大会も結果を出している。


 選手に無理をさせず、良い状態で登板させる姿勢がチームの強化にもつながる。プロや強豪大学に進む逸材がスポイルされるリスクも減る。全国的な強豪校ほど、そういう発想を持っている。

多数のファンが選手の酷使に「NO!」

 ファンからも連投、酷使に対して今は批判的な意思表示が目立つ。今回スポーツナビが行ったアンケート(8月12日〜17日)では佐々木朗希(大船渡)の岩手県大会決勝における登板回避に対して、読者の約70%が賛成の意思を示した。


 また、「これからも昨年の金足農・吉田輝星投手のような『熱投』が見たい」という設問に対しては53%が「いいえ」だった。


 高校生の必死に投げる姿を応援したくなるのは当然のファン心理だが、限界に近い状態での投球が大きなリスクであることも事実。高校野球ファンの多くは「選手がつぶれる姿は見たくない」という冷静な受け止めがある。


 明るい兆しを感じる一方で、選手の健康、安全を保つ取り組みがもう不要と言うつもりはない。今回の取材で、慶應義塾高前監督の上田誠氏は、入学時点で既に負傷を抱えた選手が多い実態を明かしていた。小学生、中学生年代から選手たちがケガなくプレーできるようにする取り組みが必要だ。

 今回の連載では球数制限に対して識者のさまざまな意見があった。上田氏は自らの経験と、他のカテゴリーに与える影響を考えた上で、その導入を訴えていた。沖縄水産のエースとして活躍し、その後野手へ転向した大野倫氏が述べるように球数制限には「指導者を守る」意味合いもある。


 首都大学野球連盟では既に球数、連投に関するガイドラインが設定されている。古城隆利・日本体育大監督が説明する連盟とチームの取り組みは、球界全体のモデルケースとなりうるものだった。また日体大、筑波大などは教員志望者が多く、OBの多くは高校野球に指導者として返ってくる。今後の広がりにも期待したい。

 高嶋仁・智辯和歌山前監督は「問題の根源は違うところにある」という観点から日常のトレーニング、連投などの改善を訴えていた。


 小宮山悟氏、黒田博樹氏が述べるように適切な指導、技術の習得で選手の投球障害を防ぐ余地も間違いなくある。投球障害の要因は複合的で、議論を単純化しないことは大切だ。

 野球医学の専門家である馬見塚尚孝氏は「対症療法より根本治療が重要」という発想から、球数制限の導入に反対していた。

大島和人
大島和人

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都町田市に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。バスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、バレーなどの現場にも小まめに足を運び、試合観戦数は毎年300試合を超える。日本を実はサッカーだけでなくバスケ強国であるスペイン、バレー王国・ブラジルのような球技大国にすることが一生の夢で、“球技ライター”を自称している。

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