選手ファーストへ舵を切り始めた野球界 「球数制限」議論から、考えるきっかけに
「継投」が注目された今夏の甲子園
履正社の初優勝で幕を閉じた101回目の夏の高校野球。少しずつだが、変化を感じられる夏でもあった 【写真は共同】
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大会日程を見ても今は準々決勝、準決勝後にそれぞれ1日の休養日が設定されている。3連投、4連投といった事態はよほどの天候不順でない限り起こらない。1993年夏からは医師による投手関節機能検診も実施されている。そしてこの4月から「投手の障害予防に関する有識者会議」の議論も始まった。全国高等学校野球連盟(高野連)が何も手を打っていないかと言ったら、それは明確に違う。
投手陣のレベルは底上げが進んだ。テクノロジー、先進的な理論を取り入れているからだろう。選手を追い込み、淘汰(とうた)する指導手法のチームは結果が出なくなったし、そもそも親と選手から選ばれない。甲子園は猛練習を生き残ったオンリーワンでなく、「ほどよい練習で成長した普通の投手」が活躍する場となった。
140キロ以上の速球は珍しいものでなくなり、ケガが怖くなるような荒っぽいフォームで投げる選手も減った。効率的なフォーム習得で才能をスポイルせず、複数の投手をそろえたチームが今大会も結果を出している。
選手に無理をさせず、良い状態で登板させる姿勢がチームの強化にもつながる。プロや強豪大学に進む逸材がスポイルされるリスクも減る。全国的な強豪校ほど、そういう発想を持っている。
多数のファンが選手の酷使に「NO!」
また、「これからも昨年の金足農・吉田輝星投手のような『熱投』が見たい」という設問に対しては53%が「いいえ」だった。
高校生の必死に投げる姿を応援したくなるのは当然のファン心理だが、限界に近い状態での投球が大きなリスクであることも事実。高校野球ファンの多くは「選手がつぶれる姿は見たくない」という冷静な受け止めがある。
明るい兆しを感じる一方で、選手の健康、安全を保つ取り組みがもう不要と言うつもりはない。今回の取材で、慶應義塾高前監督の上田誠氏は、入学時点で既に負傷を抱えた選手が多い実態を明かしていた。小学生、中学生年代から選手たちがケガなくプレーできるようにする取り組みが必要だ。
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首都大学野球連盟では既に球数、連投に関するガイドラインが設定されている。古城隆利・日本体育大監督が説明する連盟とチームの取り組みは、球界全体のモデルケースとなりうるものだった。また日体大、筑波大などは教員志望者が多く、OBの多くは高校野球に指導者として返ってくる。今後の広がりにも期待したい。
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小宮山悟氏、黒田博樹氏が述べるように適切な指導、技術の習得で選手の投球障害を防ぐ余地も間違いなくある。投球障害の要因は複合的で、議論を単純化しないことは大切だ。
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