連載:高校野球の「球数制限」を考える

野球を科学する早大・小宮山悟監督の考え 小中学生に「正しい投げ方」は教えられない

前田恵
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小宮山監督は野球教室で全国の少年たちと交流してきたこともあり、「子どもたちの体を守らなければ」という思いが強い 【撮影:熊谷仁男】

 日本高等学校野球連盟、通称高野連がこの春から設けている「投手の障害予防に関する有識者会議」。委員の一人が、千葉ロッテマリーンズやMLBのメッツなどで活躍し、現在は母校・早稲田大の監督を務める小宮山悟氏だ。あらゆるレベルで投げたピッチャーとして、そして指導者としての豊富な経験から、彼の導き出す方向は?

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万人にあてはまる「正解」は存在しない

――球数制限問題については、いくつか素朴な疑問があります。まず、これは高校時代の2年4カ月だけ考えればよい問題なのでしょうか?

 それはもちろん、違います。私も有識者会議で言いました。「たまたま高校生が酷使されている部分がフォーカスされているけれども、実はその前の段階で将来を顧みず、無理をして投げてしまうことも多い。そこをなんとかしなければならないのではないですか」とね。人間の体はどんどん成長していく。その成長が止まって初めて、骨格が形成されるわけです。ところが骨格が形成される前に無理をして、体のあちこちにゆがみが起きている子どもたちがいる。それを知っているはずの大人が、その子の可能性や将来を無視して、目の前の勝負にすべてを賭けさせるのは責任問題だと思います。

――今回は高野連が設けた有識者会議ですから高校世代の話になっていますが、本来はその前の世代から考えなければいけないことなのですね。

 子どもたちの成長段階で、ある程度方向付けさえできれば、高校野球も良い方向に進むでしょう。しかし、そこで難しいのは球数制限にしてもなんにしても、アベレージを誰がいつ、どうやって決めるのか。私も早稲田の監督に就任する前、野球教室などで全国各地の小中学生を見てきました。土地柄や個人差により、同じ中学生でも幼い子もいれば、大人びた体格の子もいる。すべての子どもに合う“正解”はおそらく存在しません。とはいえ、どこかで組織のトップが線を引くことによって、それがやがてはルールとなり、皆が納得する流れができるはずです。

――すでにアメリカでは2014年、各世代の球数や休養日を細かく定めたガイドライン「ピッチスマート」が導入されています。あれは参考になりますか?

 日本の野球とは一緒にできないですね。アメリカでは少年少女時代、野球に特化せず複数の競技スポーツを趣味の延長のような形で行っています。日本の場合、中学生レベルで専門職として野球に取り組んでいるという違いがありますね。そこは同じに考えてはいけないと思います。

――日本野球の事情に合わせたガイドラインを作らなければならない、と?

 例えばリトルリーグやポニーリーグは、すでに球数制限を導入していますよね。まずはそれぞれの団体が医師の意見を取り入れながら作っていけばいいと思います。組織同士で連携することも必要かもしれませんが、基本的に取り組み方も違い、それぞれの色がありますから。サッカー界のように、一つのピラミッドでガイドラインは作れないのではないでしょうか。
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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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