- 西尾典文
- 2019年8月15日(木) 16:00
スカウト「奥川に今さら驚くことは…」

熱戦が続いている夏の甲子園。ドラフト候補という観点で見ると、やはり圧倒的なナンバーワンは奥川恭伸(星稜/石川)になるだろう。
初戦は旭川大(北北海道)を相手に被安打3、1四球、9奪三振で完封勝利。ストレートの最速は153キロをマークし、全く危なげないピッチングを披露してみせた。選抜後には右肩の張りを訴えて実戦登板から遠ざかった時期もあったが、石川大会ではストレートの最速が158キロにまで達するなど、夏に向けてしっかり調子を上げてきた印象を受ける。
奥川が1回戦で投じた球数はわずか94球で、そのうち約66%となる62球がストレート。変化球はスライダーとチェンジアップしか使っていない。緩急をつけるカーブと決め球として使えるフォークは封印したまま、旭川大打線を封じ込めたのは、「すごい」という他ない。スピード、コントロール、変化球など長所はいくつもあるが、全てのボールが実戦的でストライクゾーンで勝負できることが何よりも大きい。石川大会でも準々決勝の遊学館戦では109球で13奪三振、決勝の小松大谷戦でも114球で14奪三振をマークしているが、球数が少なくても三振を奪えるというのがその証明だ。
プロからの評価はもはや不動のものとなっている。ある球団のスカウトからは「これくらい投げられて当たり前だと思っているので、今さら驚くことは何もない」というコメントも聞かれたが、最大級の賛辞と言えるだろう。その完成度は近年の高校生投手の中でもナンバーワンと呼べるレベルであり、1年目から一軍の戦力になる可能性は高い。
霞ヶ浦・鈴木は「外れ1位」?

投手でもう一人、上位指名に入ってくる可能性があるのが鈴木寛人(霞ヶ浦/茨城)だ。
1回戦では履正社(大阪)の強力打線に打ち込まれ、3回途中7失点で早々に降板したが、ストレートの最速は148キロをマーク。潜在能力の高さは十分に見せた。
鈴木の良さはその欠点の少ないフォームにある。まず左足を上げて軸足一本で立った時の立ち姿が素晴らしい。そこから十分な歩幅でステップし、下半身主導で楽に上から腕を振ることができるのだ。186センチの長身で体の近くで縦に腕が振れるため、ボールの角度も申し分ない。まだまだ下半身の強さ、粘りがなく、力むと高めに浮くのは課題だが、変化球のレベルも高く、素材の良さは間違いなく一級品だ。
イメージとしては先日見事な一軍デビューを飾った梅津晃大(中日)に重なる。広島の苑田聡彦スカウト統括部長も「外れ1位、あるんじゃないですかね」と語っており、そのスケールの大きさに注目している球団も多いだろう。
選抜からの連続出場組で成長を見せたのは?
選抜から連続出場となる投手では前佑囲斗(津田学園/三重)、飯塚脩人(習志野/千葉)、池田陽佑(智弁和歌山/和歌山)の三人が春から大きく成長した姿を見せた。
前はオーバースローでありながら体の使い方が横回転する印象だったが、下半身の安定感が増してその悪癖が小さくなったことが大きい。長所は指先の感覚の良さ。ストレートのスピードは140キロ前後がアベレージだが、指のかかりが良く、打者の手元で勢いが落ちないのだ。2回戦では履正社打線につかまったが、それでも随所に力のあるストレートを投げ込み、良さは十分に見せた。
飯塚も春の時点ではとにかく無駄な動きが大きく、スピードはあっても粗さばかりが目立ったが、この夏はテークバックの動きが小さくなり、ストレートの球筋も見違えるように安定してきた。ストレートの印象が強いが、沖縄尚学(沖縄)戦で奪った8三振の決め球はストレート1個、スライダー4個、フォーク2個、チェンジアップ1個と、あらゆるボールを決め球として使えるのも長所。ピンチに強いメンタルも魅力で、プロでもリリーフ投手として面白い存在となるだろう。
池田も選抜では140キロ程度だったストレートが、140キロ台後半までスピードアップした。投げ終わった後に少し一塁側に体が流れるのは気になるが、体重移動がスムーズになったことで馬力が生きるようになった印象を受ける。特に素晴らしいのが右打者のアウトローに決まるストレート。ただ速いだけでなく精度も高く、120キロ台後半の横に滑るスライダーとのコンビネーションは見事だ。米子東戦では8回を98球でまとめているように、試合を作る能力が高いのも魅力だ。