メッシを彷彿とさせる三笘の天才技 “神がかった4タッチ”から生まれた衝撃の先制弾
ネヴィルら往年の名選手をも興奮させた
2月14日、バレンタインデーの夜に1試合だけ行われたプレミアリーグ戦のハーフタイムのことだった。記者室に戻った筆者の顔を見ると、英国人の記者たちがまるで合言葉のようにこの言葉を唱えた。
記者室の大型モニターを見上げると、元マンチェスター・ユナイテッド主将のガリー・ネヴィルが「What a touch!」と、地元記者たちが筆者に語りかけた言葉と同じフレーズをまず口にして、ブライトンの先制点の解説を始めた。
さらにホテルに戻ってこの試合のハイライトを見ると、ネヴィルとのコンビでスカイスポーツの解説を務める元リバプール副主将のジェイミー・キャラガーが叫ぶように実況していた。「見てくれ、これを! まるでメッシのようだ。決して軽々しくそう言っているんじゃない。これはまさに純粋な天才の技だ」と。
凍えるような夜だった。しかし筆者は興奮して全く寒さを感じなかった。この極寒のバレンタインデーの夜、三笘薫がとんでもないゴールを決めた。
これまでに幾度となくトッププレーヤーのスーパーゴールを現場で目撃してきたはずの、フットボール漬けの地元記者たちが心底感嘆していた。ネヴィルやキャラガーといった往年の名選手をも興奮させた。いや、沸騰させたと言っても過言ではない。英国中が三笘のゴールにただただ魅了された。
あんなゴールを決められるのは天才しかいない。スティーブン・ジェラードとともに2000年代のリバプールを支えたキャラガーが思わず口にしたのは、リオネル・メッシの名前だった。近年のプレミアリーグであのようなゴールを決められるとしたら、モハメド・サラーただ1人か。筆者の頭の中には自分と同年代の天才、今は亡きディエゴ・マラドーナの名前が浮かんだ。
フットボールでは、どんなに練習を積んでも、どうにもならないのがボールタッチの能力だと言われる。これだけはまさに天分で、ほんのわずかでも力加減を間違えば、どこに転がっていくのか予測がつかない丸いボールを足でコントロールする才能。速さや強さは鍛錬で身に付く。ところがボールタッチの感覚だけは教えて身に付くものではないという。しかもプロが蹴るボールの強さと速さは尋常ではない。
格上チェルシーの戦意を奪った三笘のクオリティ
三笘の右脇を並走するチャロバーは、この華麗なファーストタッチの瞬間、本能的にボールに寄った。つまり三笘のほう、左側に体を振った。ところが完璧にボールを足元に収めた三笘は、そこからさらに素晴らしいタッチを立て続けに2度繰り出してボールをコントロールし、寄せてきたチャロバーをかわした。この2回のタッチも右足だった。
逆をつかれた25歳センターバックが必死についていこうと方向転換して追いすがったが、見事なボールコントロールで右側のスペースに抜け出した三笘はチェルシーゴールの右隅へ、これまた右足のインサイドで狙い澄ましたベンドボールを蹴った。ファーストタッチから“トン・ト・トン、ズドン”という軽やかなリズムとともに。
チェルシーの190センチGKフィリップ・ヨルゲンセンが横っ飛びして、長い左腕を懸命に伸ばして微かにボールに触れた。しかし抵抗もそこまでだった。三笘の蹴ったボールが右隅のゴールネットを揺らし、衝撃的なゴールが決まった。
この後ブライトンは進境著しいヤンクバ・ミンテが前半38分、そして後半18分にもゴールを決めて2点を加点し、ホームとはいえ、強敵チェルシーをなんと3-0で撃破した。
けれども、前週のFA杯でブライトンに1-2で惜敗したチェルシーが、来季の欧州チャンピオンズリーグ出場権を獲得するため“4位を死守するぞ”とリベンジにやってきたリーグ戦でここまでの完敗を喫したのは、やはり三笘の天才的なゴールの影響が大である。観る者全てを魅了した日本代表MFのクオリティが、こんなゴールを決める選手がいるチームには敵わないとでも言わんばかりに、格上であるはずの敵の戦意を奪ってしまったのだ。