現地発! プレミア日本人の週刊リポート(毎週水曜更新)

メッシを彷彿とさせる三笘の天才技 “神がかった4タッチ”から生まれた衝撃の先制弾

森昌利

前週のFA杯での逆転弾に続いて、2月14日のプレミアで先制ゴールを奪った三笘。高度な技巧を駆使した一撃で、2週連続チェルシー撃破の立役者に 【Photo by Bryn Lennon/Getty Images】

 2月14日(現地時間)、ブライトンは前週のFA杯に続いてチェルシーと対戦し、3-0で会心の勝利を飾った。圧巻だったのが、前半27分に生まれた三笘薫の先制ゴール。GKからのロングフィードを完璧なトラップで収めると、素早く、絶妙なタッチでボールを動かしてマークを剥がし、右足インサイドのコントロールショットで敵GKを破った。三笘自身も「クオリティの面では今季最高のゴール」と語ったスーパーゴールは、英国内に大きな衝撃をもたらした。

ネヴィルら往年の名選手をも興奮させた

「What a touch!」(なんてタッチだ!)

 2月14日、バレンタインデーの夜に1試合だけ行われたプレミアリーグ戦のハーフタイムのことだった。記者室に戻った筆者の顔を見ると、英国人の記者たちがまるで合言葉のようにこの言葉を唱えた。

 記者室の大型モニターを見上げると、元マンチェスター・ユナイテッド主将のガリー・ネヴィルが「What a touch!」と、地元記者たちが筆者に語りかけた言葉と同じフレーズをまず口にして、ブライトンの先制点の解説を始めた。

 さらにホテルに戻ってこの試合のハイライトを見ると、ネヴィルとのコンビでスカイスポーツの解説を務める元リバプール副主将のジェイミー・キャラガーが叫ぶように実況していた。「見てくれ、これを! まるでメッシのようだ。決して軽々しくそう言っているんじゃない。これはまさに純粋な天才の技だ」と。

 凍えるような夜だった。しかし筆者は興奮して全く寒さを感じなかった。この極寒のバレンタインデーの夜、三笘薫がとんでもないゴールを決めた。

 これまでに幾度となくトッププレーヤーのスーパーゴールを現場で目撃してきたはずの、フットボール漬けの地元記者たちが心底感嘆していた。ネヴィルやキャラガーといった往年の名選手をも興奮させた。いや、沸騰させたと言っても過言ではない。英国中が三笘のゴールにただただ魅了された。

 あんなゴールを決められるのは天才しかいない。スティーブン・ジェラードとともに2000年代のリバプールを支えたキャラガーが思わず口にしたのは、リオネル・メッシの名前だった。近年のプレミアリーグであのようなゴールを決められるとしたら、モハメド・サラーただ1人か。筆者の頭の中には自分と同年代の天才、今は亡きディエゴ・マラドーナの名前が浮かんだ。

 フットボールでは、どんなに練習を積んでも、どうにもならないのがボールタッチの能力だと言われる。これだけはまさに天分で、ほんのわずかでも力加減を間違えば、どこに転がっていくのか予測がつかない丸いボールを足でコントロールする才能。速さや強さは鍛錬で身に付く。ところがボールタッチの感覚だけは教えて身に付くものではないという。しかもプロが蹴るボールの強さと速さは尋常ではない。

格上チェルシーの戦意を奪った三笘のクオリティ

三笘のスキルの高さが凝縮されたゴールは、メッシやマラドーナを連想させた 【Photo by Mike Hewitt/Getty Images】

 ゴールキーパーのバルト・フェルブルッヘンが最後方からズドンと蹴って前線にフィードしたボールだった。無論のこと強いロングボールだった。しかも後ろから自分の頭を越えてくるボール。それをチェルシーの身体能力抜群の25歳センターバック、トレヴォ・チャロバーと競り合いながら、三笘はまさに神業というしかない右足のファーストタッチを決めて、この難しい限りのボールを足元にすんなりと収めた。

 三笘の右脇を並走するチャロバーは、この華麗なファーストタッチの瞬間、本能的にボールに寄った。つまり三笘のほう、左側に体を振った。ところが完璧にボールを足元に収めた三笘は、そこからさらに素晴らしいタッチを立て続けに2度繰り出してボールをコントロールし、寄せてきたチャロバーをかわした。この2回のタッチも右足だった。

 逆をつかれた25歳センターバックが必死についていこうと方向転換して追いすがったが、見事なボールコントロールで右側のスペースに抜け出した三笘はチェルシーゴールの右隅へ、これまた右足のインサイドで狙い澄ましたベンドボールを蹴った。ファーストタッチから“トン・ト・トン、ズドン”という軽やかなリズムとともに。

 チェルシーの190センチGKフィリップ・ヨルゲンセンが横っ飛びして、長い左腕を懸命に伸ばして微かにボールに触れた。しかし抵抗もそこまでだった。三笘の蹴ったボールが右隅のゴールネットを揺らし、衝撃的なゴールが決まった。

 この後ブライトンは進境著しいヤンクバ・ミンテが前半38分、そして後半18分にもゴールを決めて2点を加点し、ホームとはいえ、強敵チェルシーをなんと3-0で撃破した。

 けれども、前週のFA杯でブライトンに1-2で惜敗したチェルシーが、来季の欧州チャンピオンズリーグ出場権を獲得するため“4位を死守するぞ”とリベンジにやってきたリーグ戦でここまでの完敗を喫したのは、やはり三笘の天才的なゴールの影響が大である。観る者全てを魅了した日本代表MFのクオリティが、こんなゴールを決める選手がいるチームには敵わないとでも言わんばかりに、格上であるはずの敵の戦意を奪ってしまったのだ。

1/2ページ

著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント