連載:高校野球の「球数制限」を考える

選手ファーストへ舵を切り始めた野球界 「球数制限」議論から、考えるきっかけに

大島和人

真の「選手ファースト」に向けて活発な議論を

星稜・奥川(写真)や大船渡・佐々木のような才能のある選手をどう守っていくか、指導者も組織もファンも、そして選手も議論し、考えることが重要だ 【写真は共同】

 確かに球数制限を仮に導入したとしても、「ルールを守ったから十分」とはならない。選手が自分の特徴、コンディションを把握し、それを指導者に伝える――。そんなカルチャーが構築されてはじめて、プレイヤーズファーストの環境となる。

 大切なのは指導者が正しい知識を身につけ、それを現場に落とし込むことだ。ただし高校野球の監督は大半が教員で、教務で生徒と向かう日々を送っている。彼らがプライベートを犠牲にして、野球に打ち込んでいる現状にも目を向けるべきだ。たとえ選手のメリットがあるとしても、高校野球の監督に過剰な負荷をかけることは好ましくない。セミナーなどの機会は必要だが、ライフ・ワーク・バランスへの配慮も必要だ。

 この企画のインタビューで登場した識者がそろって口にしていた提案は「日程の緩和」だった。都道府県大会を見れば神奈川、千葉、愛知、大阪などは出場チームが多く、どうしても終盤戦の日程が過密になる。教育機関として授業や試験期間への配慮は必要だが、もし可能なら大会のスタートを6月に早め、試合間隔を拡げたほうがいいのではないか。

 全国大会についても同様で、試合間隔をさらに拡大できれば選手のコンディションは維持できる。

 もちろん大会期間が長期化すれば運営コストは上がり、そこに関わるスタッフの拘束時間も伸びる。甲子園球場について言えば、阪神タイガースにしわ寄せがいく。夏の甲子園大会終了後に開催される国際大会、高野連が主催する軟式の全国大会も考慮するべきだ。

 しかし、夏の大会は今大会も複数日でチケット完売を記録するなど、興行的に見れば大盛況。高野連は他の競技団体と違って経済的な余裕、さらに稼ぐポテンシャルがある。「稼いで選手に還元する」という発想があっていい。

 開催地の分散は一つのアイディアだ。一方で甲子園球場はまさに高校野球の「聖地」で、選手やファンの思い入れも強烈だ。アクセスも素晴らしく、施設としてプレー環境の維持、観客の誘導といった「ノウハウ」も持っている。

 読者アンケートでも「夏の高校野球は全試合甲子園で開催しなくてもいい」という設問に対しては反対が過半数を超えた。「甲子園の魅力」「大会日程の緩和」のどちらを選ぶか、人によって意見が分かれる部分だろう。簡単に白黒をつけられないジレンマはある。

 とはいえ、こういった議論自体が運営サイドと指導者に「考えるきっかけ」を与えている現状はまずポジティブだ。酷使に対する批判が強まっていることも、ある種の抑止にもなるだろう。選手を投球障害から守り、彼らが幸せな野球人生を送る後押しをするカルチャーは生まれつつある。

 高野連の有識者会議がどのような結論を出そうと、それは最低線で、才能を守り育てるのは本人と指導者の努力だ。最終的には当事者が自分のできることに焦点を当て、努力を重ねるしかない。

(企画構成:株式会社スリーライト)

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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