連載:高校野球の「球数制限」を考える

医師として野球を見続ける馬見塚氏の考え 「球数制限」は対症療法、根本治療が必要

大島和人
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球数制限は投手の障害予防の手法のひとつ。その他の要素も含めて議論をしないと投球障害は防げない 【写真は共同】

 我々は「科学的」「現代的」という言葉を安易に使うが、専門家はより深く問題を掘り下げて考えている。馬見塚尚孝医師は川崎市内に「ベースボール&スポーツクリニック」を開業し、過去にコーチとして中高大の指導に関わった経験も持つ。今回は障害を予防する手法と、球数制限の是非、そして野球界の未来像を彼に語ってもらった。

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「球数制限ありき」の議論になってはいないか?

馬見塚医師は、投球障害予防に対しての医学的なアプローチだけでなく、子どもたちの「自立心」を育む野球指導についても話してくれた 【撮影:スリーライト】

――今回は球数制限についてお話を聞きに来ました。

 球数制限には二つの捉え方があります。ひとつは「投球数制限のルール化」で、もうひとつは「選手や指導者が自ら予防のために制限すること」です。

――投球障害の起こるメカニズムについて説明をお願いします。

 同じことを繰り返して起きる障害を「過労性障害」と言います。投球障害もその一つです。この過労性障害のメカニズムは、医学より工学の世界でよく研究されています。S-N曲線というものがあって、過労性障害は回数と力の大きさの両方の影響で破損していくのです。

――身長190センチで、163キロの速球を投げる佐々木朗希投手(大船渡高)と、「普通の高校生」では1回あたりの負荷がそもそも違うということですか?

 はい。さらに言うと、例えば、160キロを投げることができる佐々木投手が140キロで投げるときは投球強度が小さくても、全力投球で120キロの投手が120キロで投げると、リスクは高くなりますね。100%の投球強度はリスクなのです。
 回数を議論するときは、必ず力の大きさを議論しなければいけません。そして力の大きさは方向が関係する。投手の動作でいうと、投球フォームです。力の大きさを考えるときは、一緒にフォームを考えなければいけません。

――投球数以外の要素が絡んでくるということですね。

 合わせて5つの要素が過労性障害に関係すると言われています。回数、力の大きさ、フォームの3つの次に、4つ目の「コンディション」も考えないといけません。例えば暑い時期と寒い時期、疲労した状態と楽な状態では「100球の意味」が違います。
 5つ目が「個体差」です。肘が未熟な状態か、成熟しているか、背が高くて腕が長いのか、背が低くて腕が短いのか、といった要素ですね。
 5つの要素の中で、投球数は他人が評価できます。成熟の度合いは僕らが検査したり、成長速度曲線を作ったりして評価できます。投球強度もスピードガンやトラックマン、ラプソードといった機材で評価できる時代になってきています。投球フォームもかなりしっかり評価できる時代になってきています。

――投球フォームは技術的な知見が必要だと思いますが、どう評価するのですか?
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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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