23年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

昨季4位の熊本よりも昇格組いわきの評価が高いワケ 3人のエキスパートによるJ2展望座談会

飯尾篤史

昨季の天皇杯を制した甲府は、点取り屋のP・ウタカを獲得するなど戦力を整えた。ただし、懸念材料はACL参戦による負担増だ 【(C)J.LEAGUE】

 J2を知り尽くす3人のエキスパート、水戸ホーリーホックを丹念に取材する佐藤拓也氏、FC町田ゼルビアに密着する郡司聡氏、J2全体をまんべんなくカバーする土屋雅史氏による、2023年シーズンのJ2展望座談会。Aクラス、Bクラスについて評価していただいた前編に続き、後編では残りのBクラスとCクラスについて分析してもらった。サプライズを起こすチームは? そして残留争いの行方は?

甲府はACL参戦がハンデとなるか

──ここからは、BクラスとCクラスを中心に見ていきましょう。まずは全員がBクラスに入れているジェフユナイテッド千葉(昨季10位)とヴァンフォーレ甲府(昨季18位)から、それぞれの印象をお願いします。

●Aクラス予想(※並び順は北から)
佐藤:仙台、水戸、町田、清水、岡山、徳島、長崎

郡司:仙台、山形、町田、清水、磐田、徳島、大分

土屋:仙台、山形、東京V、清水、磐田、岡山、大分

●Bクラス予想(※並び順は北から)
佐藤:山形、いわき、千葉、東京V、甲府、金沢、磐田、大分

郡司:秋田、いわき、栃木、千葉、東京V、甲府、岡山、長崎

土屋:秋田、水戸、千葉、町田、甲府、徳島、長崎、熊本

土屋 昨シーズンの千葉は守備が安定していた一方で、得点力不足に苦しんでいましたが、そこに呉屋大翔(←大分トリニータ)が入りました。19年シーズンにV・ファーレン長崎で22得点を挙げた爆発力を、彼が再び見せつけられるかでしょうね。さらに田邉秀斗を残留させられたのも大きい。新井一耀、鈴木大輔らと組む質の高い3バックを維持できますし、攻守のバランスは非常に良さそうですよ。

 小林慶行監督も就任1年目ですけど、現役時代からいろんなことを知的に考えられる人というイメージがありますし、すごくいいサッカーをやってくれそうな期待感があります。

──甲府はどうでしょう?

土屋 懸念は、9月からACLの戦いが入ってくることですね。J1昇格争いの佳境と重なりますから、ACL組とリーグ戦組にチームを分けざるを得ない状況が生まれるかもしれない。そうしたマネジメントの難しさはあるでしょう。ただ、最前線にピーター・ウタカ(←京都サンガF.C.)が加わりましたからね。J2であれば20点取ってもおかしくないストライカーですから、彼がすべての問題を解決してしまう可能性はありますよ。

──郡司さんはいかがですか?

郡司 千葉の最終ラインから、安定感のあるチャン・ミンギュを町田が引き抜いてしまったのはあるんですが(苦笑)、レギュラーメンバー、特に田口泰士と熊谷アンドリューのダブルボランチがフル稼働できれば、そこそこやれると思います。ただ、3バックをベースに可変システムにチャレンジしているようで、それに選手たちがどこまでポジティブに取り組んでいけるか。毎年のように期待されながら、不安定なメンタリティが足かせとなって裏切られることも多いので、上位に推すのはちょっとためらわれましたね。でも我慢志向が強かったユン・ジョンファン前体制からの反動が良い方向に作用すれば、プレーオフ圏争いには絡んでくるかもしれません。

 甲府はやはりACL参戦がハンデだと思いますし、1年目の篠田善之監督も清水エスパルスなどで長くコーチをやられてきましたが、監督としてのアップデートを忘れていなければいいなと。基本的に「強度、走力、スタミナ」のサッカーですが、ただ割り切ったときの甲府は強いですからね。それで結果がついてくれば乗っていく可能性もあるとは思います。

佐藤 千葉に関しては、鈴木健仁さんがGMになって初めての監督交代。まさに肝いりで小林監督を就任させて、これでやっとやりたかったサッカーができると思うんです。個人的にも注目していた小林監督がどういうサッカーをするのか楽しみでもありますが、ただ去年までのユン・ジョンファン監督のやり方に慣れてきた選手たちが、可変システムという新しいスタイルに対応できるかというのは、1つ気がかりな点ではありますね。

 一方で甲府の場合は、なによりも天皇杯に優勝できてよかった。あの賞金がなければ、このオフに結構主力が抜けていただろうし、長谷川元希をはじめとした中心選手をしっかり残せたのは、たとえACLという負担が増えたとはいえ、大きかったと思います。

土屋 ちなみに甲府の篠田監督は地元出身で、現役時代には前身の甲府サッカークラブでもプレーしていますからね。クラブとしても強力にバックアップしていくんじゃないですか。

J3王者いわきはAクラス入りも?

強度と推進力に振り切ったサッカーで、昨季のJ3を制したいわき。チーム得点王の有田も残留し、J2初年度に旋風を巻き起こす可能性も 【(C)J.LEAGUE】

──なるほど、満を持して感があるわけですね。次にブラウブリッツ秋田(昨季12位)といわきFC(昨季はJ3の1位)ですが、こちらも2人ずつがBクラスに推しています。まず佐藤さんから、いわきをBクラスに入れた理由をお願いします。

佐藤 J3で優勝したチームがJ2で快進撃を見せるというのは、もう定番の流れになっていますからね。その傾向からいけば、Bクラス、あるいはAクラスまで行ってもおかしくありません。クラブとしての明確なスタンス、スタイルを持っているからこそのブレない強さがあると思いますし、フィジカルを生かしてゴールに向かってくるいわきのようなチームに、J2のクラブは結構弱かったりもしますからね。主力もそんなに抜けていないので、去年のベースを持ってJ2に上がって来られるのは強みかなと。

──一方で、秋田はCクラスにしていますね。

佐藤 稲葉修土(→FC町田ゼルビア)、千田海人(→東京ヴェルディ)と、中軸が抜けてしまいましたから。特に稲葉の穴をどう埋めるかは大きなポイントで、福島ユナイテッドから加入した諸岡裕人あたりがキーマンになるんじゃないかと見ています。

郡司 僕はいわきも秋田もBクラスにしていて、まずいわきから言うと、やはりあの強度とフィジカル、縦へのスピード感、推進力に振り切ったサッカーには、きっとどこも面食らうと思うんですね。10位前後は狙えると見ています。あとは村主博正監督、小林亮コーチ、武田治郎GKコーチと、かつての町田で相馬直樹監督(現大宮アルディージャ監督)を支えた“チーム相馬”の面々に頑張ってほしいという想いも込めて(笑)。

 秋田に関しては、なんだかんだ言っても“徹底”に振り切ったチームというのは強いんじゃないかと。ただ、吉田謙体制4年目で、さすがにその堅守速攻に徹したサッカーも厳しくなってきそうで、Bクラスでも下の方、もしかしたら過去一番苦しむシーズンになるんじゃないかというのが、僕の見立てです。もっとボールを動かして、楽しいサッカーがしたいという欲求が選手の方に出てきて、そこに引っ張られてパワーバランスが崩れてしまう危険性もありますから。とはいえ吉田監督のことだから、スタイルをさらに徹底させて、今年も強いチームを作ってきそうな気も、一方ではしています。

──土屋さんは秋田をBクラス、いわきはCクラスにしていますね。

土屋 いわきは去年の試合をそこまで見られていないので、正直評価が難しいところもあるんですが、それでも山下優人、有田稜という軸の2人が残ったのはすごく大きいでしょうね。昨年末に田村雄三GM(就任は今年1月)に話を聞いたんですが、言っていることがまったくブレていなくて、信念の強さを感じました。強化スタッフや監督も務めて、創設時からクラブにいる人ですけど、もう7年ぐらいずっと「魂の息吹くフットボール」を掲げていて。クラブとしての考え方がしっかりしているので、Bクラス寄りのCクラスというイメージ。少なくとも降格は絶対にないと思っています。

 秋田とはこの2年、一緒に仕事をさせてもらって、選手のキャリアを掘り起こすインタビューを25人くらいやったんですね。もちろん試合もすべて見ているんですが、このクラブも“秋田スタイル”という明確なフィロソフィーを持っていて、それに合った選手を連れてくるし、獲得の際もまずはそれをきちんと説明するらしいんです。今年も河野貴志(←ギラヴァンツ北九州)や諸岡など、昨シーズンのJ3で結果を出した選手を獲っています。確かに主力の半分くらいは抜けましたけど、目指すサッカーの徹底度はまったく変わらないと思いますね。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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