23年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

昨季4位の熊本よりも昇格組いわきの評価が高いワケ 3人のエキスパートによるJ2展望座談会

飯尾篤史

群馬は閉塞感を打破できるか?

課題の攻撃陣に上積みがなかった群馬。座談会メンバーがそろって高く評価する岡本など、質の高い若手タレントはいるが…… 【(C)J.LEAGUE】

──ここまで触れていない4チーム、群馬(昨季20位)、大宮(昨季19位)、レノファ山口(昨季16位)、そして昇格組の藤枝MYFC(昨季はJ3の2位)は、みなさんそろってCクラスに入れています。まずは群馬からいきましょうか。

佐藤 僕は群馬に対して、そんなに弱いチームだというイメージがなくて。相手の良さをしっかりつぶして、自分のたちの良さを出すという“組長”大槻毅監督の色がすごく出ているチームだと思っています。そこに、今年は佐藤亮(←北九州)のような個の不足を補える選手が入ってきたので、おそらく去年よりも強くなりそうですが、とはいえ他とのチーム力の比較で、Bクラスに入るのは難しいと判断しました。

郡司 さすがに求心力も乏しそうで、戦術的な幅も少ない大槻体制では限界があるんじゃないでしょうか。去年に町田が対戦したときも、チーム全体に流れる閉塞感のようなものを感じましたし。

土屋 僕は地元のJクラブなので、常に応援はしていますよ。ただ去年はまず、シュート数がリーグ最下位と、そもそもチャンスメイク自体ができなかった。にもかかわらず、今年も攻撃陣がブラッシュアップされている印象がないんですね。

 大槻さんがこの規模のクラブを率いるのは、おそらく昨シーズンが初めてだったと思うんですが、そこで1年間体感したものを2年目にどう生かしてくるかは、楽しみな部分ではあります。去年に関しては、経験豊富な細貝萌が怪我で途中離脱してしまったのも痛かったですからね。このチームの肝は、やはり前橋育英出身の細貝、前橋商出身の岩上祐三のダブルボランチだと思うので、彼らがシーズンを通してフル稼働すれば、軸は保てるのかなと。Bクラスまで上がるのはちょっと難しいでしょうが、ただ良い若手もいるんですよ、右サイドバックの岡本一真っていう。

佐藤 郡司 そうそう、いいよね、岡本。

土屋 あ、そこは2人とも食い付いてくれるんですね(笑)。1対1に強くて、守備も堅いし、昨シーズン終盤はとても高卒ルーキーとは思えない主力感を出していました。彼がどこにも引き抜かれずに残ってくれたのは、すごく大きいですね。

──では、藤枝はどうでしょう?

郡司 どちらかというとボール保持型のチームですよね。そういうチームは、秋田やいわきみたいなチームと比べると、J2での1年目は勝ち点を稼ぎにくいかもしれませんね。ただ、上のカテゴリーでやれる高揚感とかフレッシュ感のある序盤戦のうちに、ある程度ポイントを拾えれば、なんとか残留も見えてくるのかなと思いますけど。

佐藤 同感ですね。守備の練度という部分で、J3とJ2では大きく違うので、まずそこで苦しむんじゃないかなと。その一方で、須藤大輔監督のもとで自分たちのスタイルというものがしっかり確立されているし、それに合った選手を獲ってくるクラブ力もあるので、もしかしたら面白いことをやってのけるかもしれませんね。

土屋 J2のほとんどのクラブが藤枝と対戦したことがないので、“未知数感”のある最初の10試合ぐらいでどれだけ勝ち点を取れるかだと思いますし、そこで自分たちの掲げる「究極のエンターテインメントサッカー」をしっかり見せられれば、ある程度は走れるんじゃないかと。13得点・8アシストの横山暁之とか、昨シーズンのJ3で数字を残しているアタッカーも多いですから、やはり攻撃面にはかなりの自信を持って乗り込んでくると思いますよ。あとは静岡ダービーが2カード(対清水、対磐田)ありますから、そこも楽しみにしたいですね。

大宮の陣容に感じる「編成の齟齬」

J2生活も6年目を迎え、緩やかに戦力が低下している大宮。はたして、相馬監督のやりたいサッカーと現陣容は合致しているのか 【(C)J.LEAGUE】

──次に山口ですが、佐藤さん、Cクラス評価の理由を教えてください。

佐藤 昨シーズンは個で面白い選手が多いなっていう印象があって、水戸との対戦で見るのが楽しみだったんです。ところがこのオフに、橋本健人(→横浜FC)、沼田駿也(→町田)、田中渉(→モンテディオ山形)と、そういったタレントがことごとく抜けてしまった。もちろん補強もしていますが、実績重視というか、若くて伸びしろのある選手が少なくて、チームとしてちょっと手詰まり感があるような気がするんです。

郡司 確かに、空気感的には昨シーズンの琉球に近くて、そろそろ降格するんじゃないかっていう“危険枠”に入れざるを得ません。“維新劇場”と呼ばれるホームでの強さが存分に発揮されれば、なんとかなるかもしれませんが、「そろそろ」という匂いを強く感じてしまいますね。

土屋 去年の山口って、左サイドのアタック数がリーグ1位なんですね。でも、そこから橋本、沼田駿也、高井和馬(→横浜FC)が全員抜けて、ストロングポイントがなくなってしまった。加えて、岸田和人と島屋八徳の退団で、J3からJ2に昇格したシーズン(15年)を知る選手もいなくなった。これは地元のテレビ局の方がおっしゃっていたように、「1つの物語が終わった」ことを意味するのかもしれませんね。そして、昨シーズン限りで引退した渡部博文キャプテンが、そのままクラブの社長に就任。過渡期に入った印象がすごく強いんです。去年のJ2でも最後まで色が見えなかったというか、「レノファってこういうサッカーだよね」っていうのが、外から見ていて非常に分かりにくかった。

──一時は攻撃的なチームという印象がありましたけどね。

土屋 霜田正浩さん(現松本山雅FC監督)が攻撃的なサッカーをやって、渡邉晋さん(現山形コーチ)が守備の整備をして、そして現在の名塚善寛監督が上手く攻守のバランスを取りながら……といった分かりやすい流れはあるんですが、逆にそれで、徐々に色が薄まってしまったのかもしれないですね。

──では、いよいよ最後の1チーム、大宮です。土屋さん、どうなんですか、今年の大宮は。

土屋 J2に長くいるチームの抗えない流れだと思うんですが、やっぱり緩やかに戦力が低下してきていますよね。この中にJ1でバリバリ主力を張れる選手がどれくらいいるかと言われたら、正直数えるほどしかいない。しかも、今いる選手たちの多くは、前監督の霜田さんがやりたかったサッカーで集められたわけで、編成の齟齬というか、現在の相馬直樹監督のスタイルに合っているかどうかは疑問なんです。

 今年は浦上仁騎(←甲府)がユース時代を過ごした大宮に、それこそ10年ぶりくらいに戻ってきましたけど、柴山昌也、小島幹敏、山﨑倫など、アカデミーからは着実に若手が上がってきているので、そういった選手たちのクラブ愛みたいなものに賭けるというか、彼らアカデミー出身者をもっと大事にしてもいいんじゃないかと思っています。

佐藤 戦力が落ちてきているのは間違いないですし、それ以前に「クラブとしてやりたいサッカーって本当にそれなの?」っていう疑問がすごくあります。だからアカデミーから上がってきた選手たちもフィットしなくて、すぐに出て行ってしまうんです。このオフには21歳のアタッカー、髙田颯也が徳島ヴォルティスに期限付き移籍しましたが、あれだけの逸材を育て切れない現状を、「育成クラブ」と謳っているのであればなおさら、真摯に受け止めなきゃいけないと思いますね。

 まずは、本当に今のサッカーで行くのかっていう基本的な部分を、もう一度チームとして確認すること。そこに迷いがあるままだと、今シーズンも間違いなく苦しむことになりますよ。

郡司 かつて町田を18年に4位という高みに導いてくれた相馬直樹監督には本当に頑張ってほしいです。ただ、鹿島アントラーズで相馬監督の下でプレーした三竿健斗(現サンタ・クララ)が、21年シーズンのホーム最終戦での挨拶で「球際や切り替えとかサッカーの初歩的なことだけを追求してもタイトルを獲り続けるチームには、僕はなれないと思います」って話して波紋を呼びましたけど、そういったハレーションを起こしやすいのが、相馬さんのサッカー。先ほど編成の齟齬という話がありましたが、そうしたサッカーをやるのであれば、それを表現できる選手を要所、要所に入れていかなきゃいけないんです。現陣容を考えれば、もしかしたらヘッドコーチの原崎政人さんが率いた方が、力を発揮できるかもしれません。

 とはいえ、本当に厳しい状況になれば夏の補強でなんとかリカバーするでしょう。それだけの予算規模はあるはずなので、最終的にJ2残留はなんとか果たすんじゃないかと見ています。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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佐藤拓也(さとう・たくや)

2003年、日本ジャーナリスト専門学校卒業とともに横浜FCのオフィシャルライターに就任。04年秋、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊に携わり、フリーライターへ転身。その後、サッカー専門誌を中心に寄稿。04年から水戸ホーリーホックを追い続け、12年に有料webサイト『デイリーホーリーホック』を立ち上げ、メインライターを務める。オフィシャル刊行物の制作にも携わる。

郡司聡(ぐんじ・さとし)

編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』編集部を経て、フリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『EL GOLAZO』や『サッカーダイジェスト』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』の編集長を務める。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド)。

土屋雅史(つちや・まさし)

群馬県出身。高崎高3年時にインターハイでベスト8に入り、大会優秀選手に選出される。2003年に株式会社ジェイ・スポーツへ入社。サッカー情報番組『Foot!』やJリーグ中継のディレクター、プロデューサーを務めた。当時の年間観戦試合数は現場、TV中継を含めて1000試合に迫ることもあったという。21年にジェイ・スポーツを退社し、フリーに。現在もJリーグや高校サッカーを中心に、精力的に取材活動を続けている。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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