23年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

昨季4位の熊本よりも昇格組いわきの評価が高いワケ 3人のエキスパートによるJ2展望座談会

飯尾篤史

「なんか嫌だな」と思わせる金沢の存在感

BクラスとCクラスのボーダーライン上という評価だった金沢。就任7年目の柳下監督は、長期政権によるマンネリズムを打破できるか 【(C)J.LEAGUE】

──続いて、それぞれ1人ずつがBクラスに入れているツエーゲン金沢(昨季14位)、栃木SC(昨季17位)、ロアッソ熊本(昨季5位)を見ていきましょう。まずは佐藤さんが推す金沢から。

佐藤 金沢にしては珍しく、今年は実績のある選手を各ポジションに獲っていて、これまでの若手を鍛えて育てるというスタイルから脱却したような印象を受けます。ヤンツーさん(柳下正明監督の愛称)のアグレッシブなサッカーが劇的に変わることはないと思いますが、そういった個の能力の高い選手が入ることによって生まれる化学反応に期待しています。昨シーズンから久藤清一さんがコーチとして入って戦術の幅が広がったんですが、そこに選手個々の経験値が加わることで、もっといろんなことができるようになるんじゃないかと思いますね。

郡司 僕も金沢はBクラスに入れようか、最後まで栃木と迷ったんですが、ヤンツー体制も7年目の長期政権で、マンネリズムによる弊害がどう出るかは気になるところです。編成の部分で刺激を入れようとしているんでしょうが、上積みという点で、最終的には栃木を上にした感じですね。

土屋 BクラスなのかCクラスなのか、確かに金沢は迷いますよね。ただ、僕は“大いなる柳下軍団”って呼びたくて(笑)、とにかく基準がはっきりしているというか、選手に求めているものが一定なんです。その基準があるから、選手たちも目の前の結果に一喜一憂しない。

 戦力的に見ても、今年は中盤に石原崇兆(←ベガルタ仙台)、加藤潤也(←ザスパクサツ群馬)、奥田晃也(←長崎)という実力者が加わりましたし、それから小島雅也(←群馬)なんかも戻ってきた。金沢って、一度外に出てから戻ってくる選手が多いんですが、それも柳下さんのサッカーに魅力があるからだと思うんです。相手に「なんか嫌だな」って思わせるというか、いつのシーズンも常に存在感のあるチームですよね。

──郡司さん、栃木についてもう少し詳しく語ってもらえますか?

郡司 ここもどちらかというと、強度に振り切ったようなチームなんですけど、去年の終盤戦では、髙萩洋次郎や谷内田哲平(→京都)を中心に、個のクオリティやボール保持から相手を崩すアプローチをプラスアルファするサッカーにトライしていて、それが少しずつ形になっていくのが見えました。こういうチームが、段階を踏みながら上に行ってほしいという希望も込みのBクラスです。

佐藤 僕が栃木をCクラスにしたのは、補強面で肩透かしをくらったというか、これで大丈夫かなという不安があったからなんです。昨シーズンまでの栃木のキープレイヤーは、谷内田、カルロス・グティエレス(→町田)、鈴木海音(→ジュビロ磐田)、黒﨑隼人あたりだったんですが、そこから黒﨑以外の3人が抜けた穴を埋め切れていないような印象があって。

 先ほど郡司さんがおっしゃったように、守備の強度で勝負していたチームからポゼッション志向を高めた攻撃的なチームに変化していこうとするなら、ある程度のリスクを背負う必要があると思うんですが、その覚悟がクラブとしてちょっと見えてこない。結局、対戦相手として一番嫌なのは、佐藤祥と西谷優希のダブルボランチによる広範囲にわたるつぶし。本気で次のステップに行くのであれば、まずあそこを変えなきゃいけないはずなんですが、現状ではそこまで踏み込めていないんです。

土屋 僕も栃木はCクラスですけど、実は去年の失点数はリーグで4番目に少なかったんですね。しかし、その堅守を支えていた最終ラインからグティエレスと鈴木海音が抜けて、単純に守備の不安が大きくなってしまった。一方で昨シーズン、リーグワーストの得点力だった攻撃陣にも、大きなテコ入れがないですからね。

 ただ、右の黒﨑、左の森俊貴というアカデミー出身の2人は、20代半ばと年齢的にもチームを引っ張って行かなきゃいけない立場だと思いますし、彼らには期待しています。

主力流出の熊本は北九州の二の舞に?

昨季4位と健闘した熊本だが、主力の大量流出で低評価にとどまった。22歳の新キャプテン、平川を中心に意地を見せたい 【(C)J.LEAGUE】

──意外にも、去年4位でプレーオフでも素晴らしい戦いを見せた熊本の評価が低いですね。土屋さんだけがBクラスで、他の2人はCクラスです。

●Cクラス予想(※並び順は北から)
佐藤:秋田、栃木、群馬、大宮、藤枝、山口、熊本

郡司:水戸、群馬、大宮、金沢、藤枝、山口、熊本

土屋:いわき、栃木、群馬、大宮、金沢、藤枝、山口


土屋 もしかしたら佐藤さんと郡司さんには、前年5位になりながら、主力を大量に抜かれて翌シーズンにJ3へ降格した、21年シーズンの北九州のイメージが重なっているのかもしれませんね。

 確かに熊本も多くの主力が流出しましたけど、このクラブの肝となるサイドハーフ(ウイングバック)には、竹本雄飛も田辺圭佑も三島頌平も残りましたから。それはチームとしての軸を通す上で、すごく大きい。そこに、大木武監督がFC岐阜の監督時代に指導した石川大地(←ガイナーレ鳥取)、大本祐槻(←FC琉球)などが加わりましたし、センターバックの大西遼太郎(←岐阜)なんかは、大木さんが磐田U-18を指揮したときの教え子ですからね。そうやって大木イズムを知る選手たちが入ってきましたし、チームとしての方向性は今年もブレないと思うんです。

 なかでも僕が注目しているのが、今年自ら志願してキャプテンになった平川怜。育成年代からずっと天才と言われながらなかなか活躍できずにいましたけど、昨シーズン途中にFC東京から熊本へ完全移籍して変わりましたね。プレーオフ決勝で京都に敗れて誰よりも泣いていたのは彼でしたが、そのくらいの覚悟を持って熊本に来ているので、そのリーダーシップには期待していいと思います。

──佐藤さん、これを受けてどうですか?

佐藤 大事なのはリスクヘッジだと思うんです。水戸の場合も19年に7位に入った後は多くの主力が流出しましたし、21年もシーズン途中に3選手をJ1に引き抜かれましたが、それでも戦力を大きく落とさなかったのは、それを見越して、いろんな選手を使いながら戦うというチームマネジメントをしてきたからなんです。その点、熊本はポイントとなるポジションは選手を固定して戦っていたので、その影響がどう出るのかなと。ただ、それで上手くやれれば、熊本のやり方が正しかったということになるので、そこは僕の中で1つ参考にさせていただきたいシーズンでもあります。

 あと、今年東洋大から水戸に加入した井上怜と松田佳大は、熊本の練習にも参加したんですが、それがめちゃめちゃきつかったと話していて。それだけ大木さんに鍛えられている選手たちが、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか、Cクラスにはしましたけど、いろんな意味で楽しみなチームではあります。

郡司 ただ土屋さんもおっしゃった通り、北九州の前例もありますし、これだけごっそり抜かれると、やはり苦戦は免れないと思います。去年の熊本は、敵陣にゴリゴリ押し込んで、ずっとボディブローを打ち続けるようなサッカーをしていましたが、それをメンバーが変わったなかでも実践できるかどうか。注目はしていますけど、さすがに難しいんじゃないかという気はしています。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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