25年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

J1からの降格組を脅かす、東北勢、長崎、そしてRB 3人のエキスパートによるJ2展望座談会【前編】

YOJI-GEN

従来の概念を壊す『RB』の取り組みに期待

『レッドブル』の経営参画によってパワーアップした大宮は、昇格組とはいえJ1返り咲きを現実的な目標に据える。選手からの人望が厚い長澤監督の続投もプラス材料だ 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】

──なるほど。では、Aクラスの最後は昇格組のRB大宮アルディージャ(昨季J3の1位)です。佐藤さん以外のお2人がAクラス入りを予想しています。

池田 まず、『レッドブル(RB)』がオーナー企業になって、スタッフがすごく増えた。コーチの目が行き届かないところをなくす狙いがあるんでしょうけど、そういったところにも『RB』のノウハウが入ってきているなと感じます。

 1つ大きいなと思ったのが、今年からコーチに就任した戸田(光洋)さんの存在。J3の昨シーズンはとにかく「強度」という部分を徹底してきたけど、今年は「技術」のところもちゃんとやろうよってことで、川崎フロンターレのコーチだった戸田さんが招聘されたんですね。やっぱり、技術を教えられると選手も楽しいんですよ。“止めて・蹴る”の精度を高める練習に、新たな刺激を受けている。もちろん「強度」が前提にあるのは変わらないので、単純に「技術」の部分が上積みされている印象です。

 補強の目玉は豊川雄太(←京都サンガF.C.)。もう何年も前から大宮にいるみたいに、キャンプの序盤からランニングの先頭を走るなど、溶け込み方が半端ない。練習には誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰る。ピッチ内外ですごくいい影響を与えていると思いますよ。上背はないんですが、豊川はヘディングも強い。今シーズンはカプリーニ(←横浜FC)も加わってキッカーの質が上がりますから、セットプレーからの得点も増えそうです。(杉本)健勇とプレーエリアが被らないので、彼との共存も問題ない。

 さらにセンターバックに補強したガブリエウ(←横浜FC)も含め、外国籍選手たちのフィジカルがちょっとエグい(笑)。彼らの存在によって、チーム全体の強度がもう1ランク上がっていくんじゃないかと思いますね。

土屋 大宮はJ3からの昇格組ですけど、J1やJ2でプレーしていた選手がかなりいるので、普通の昇格組ではないんですね。さらに去年の勝ち癖みたいなものがチーム全体に染みついていて、それは大きなアドバンテージだと思います。

 池田さんが言ってくれたように、僕も戸田さんが入ったのはめちゃくちゃ大きいと思っています。監督の(長澤)徹さん、コーチの戸田さん、若宮(直道)さんの3人は、2016年に岡山が昇格プレーオフ決勝まで行ったときにも一緒にやっていて、さらに徹さんと戸田さんはFC東京でコーチと選手の間柄だった。今年の大宮の最大の補強は戸田さんだと言っても過言じゃないと思います。

 ただ、なんと言っても徹さんの存在でしょうね。豊川も谷内田哲平(←FC安養)も、なんで大宮に来たのかって聞くと、「徹さんです」ってはっきり答えています。去年も下口稚葉、濱田水輝、中野克哉といった“長澤チルドレン”が加わりましたし、なんならボランチのアルトゥール・シルバも、徹さんが当時率いていたFC東京U-23でJリーグデビューを飾っていますからね。そういう人を惹きつける力が長澤監督にはあって、そこに「戸田さんのために」も加わって、彼らの教え子でなかなか出番を得られずにいる選手たちが、夏に大挙して大宮へ移籍してくる可能性もあるんじゃないかと見ています。

──佐藤さんはBクラス予想ですが、いかがでしょう?

佐藤 パワーアップした大宮が、とにかく凄そうだぞっていうのは分かっています。それでもAクラスに入れなかったのは、昇格チームへの礼儀というか……論理的な理由ではありません(苦笑)。しいて言うと「そんなに簡単にはJ1に行かせないよ」っていう、昨シーズンもJ2を戦った者としてのプライドでしょうか(笑)。

 ただ、降格組の札幌とか鳥栖と比べてもチーム作りは順調ですし、良い方向に向かうような気はしています。それに順位とか昇格云々以上に、『RB』さんが日本サッカーにどんなものをもたらしてくれるのかという楽しみが、僕にはすごくありますね。ピッチ内外で学ぶことはきっとたくさんあるんじゃないかと思っています。

“フィジカルだけではない”いわきの魅力

昨季のJ2でリーグ2位タイの18得点をマークしたエース谷村も残留。思った以上に主力を引き抜かれなかったいわきは、あわよくばAクラス入りも狙えそうだ 【(c)J.LEAGUE】

──川崎で5年間コーチをやっていた戸田さんのエッセンスが加わって、大宮のサッカーがどう変わるのかも楽しみですね。では、ここからは本格的にBクラスの話に移っていきましょう。全員がBクラス予想の中から、まずはいわきFC(昨季9位)について見解を聞かせてください。

●Bクラス予想(並び順は北から)

佐藤拓也:秋田、いわき、水戸、大宮、千葉、藤枝、山口、徳島

土屋雅史:秋田、いわき、千葉、甲府、山口、徳島、長崎、熊本

池田タツ:札幌、秋田、いわき、千葉、甲府、藤枝、山口、熊本


土屋 いわきは正直、Aクラスもあるんじゃないかと思っています。昨シーズン、前年の18位から9位にジャンプアップしましたが、実際シーズンを通していいサッカーというか、いわきらしいサッカーを貫いていましたよね。

 今シーズンに関しては、一番大きいのが去年のJ2でリーグ2位タイの18得点を挙げた谷村海那を残留させられたこと。同じく10得点の有馬幸太郎(→大分トリニータ)は移籍しましたけど、僕が期待しているのが2年目の熊田直紀。彼はJ2得点王も狙えるポテンシャルの持ち主で、田村雄三監督が上手くモチベーションをくすぐれば、本格的なブレイクもあると思います。

 新加入選手では、J1でもレギュラーになれるクラスのGK早坂勇希(←川崎)が入ったのが非常に大きい。それから、18歳の木吹翔太(←広島)。身長203センチという規格外のサイズを誇る彼は、大げさではなく日本のサッカーの未来を大きく左右する存在にもなるんじゃないかと思っています。広島のユースからトップに上がった選手で、ユースではFWやボランチをやっていたんですが、昨シーズンはセンターバックに固定されて、だいぶたくましくなりましたね。

──お父さんがガーナ人なんですね。

土屋 そうなんです。彼のようなサイズに恵まれた若手が、フィジカル重視のいわきでどういう選手に育っていくかというのは、日本サッカー界の1つの指針になるような気がしています。

 あとは、田村監督の采配力。非常に優秀な監督で、僕はもっと評価されるべき指導者だと思っているんですが、試合の状況に応じて柔軟にシステムも選手の配置も変えるし、とにかく打つ手が早いんです。それこそ開始10分でも上手く行かないと判断したら、スパっとやり方を変えられる。

佐藤 「日本のフィジカルスタンダードを変える」という、チームとしてのテーマがしっかりしているので、ブレない強さがありますよね。選手では、僕も2年目の熊田に期待していますが、それ以外にも、例えば元々いわきにいた遠藤凌(←新潟)、昨シーズンは愛媛でプレーした石渡ネルソン、長崎からレンタルの白井陽貴と、J2での実績がある選手を補強しているので、出て行った選手も多いとはいえ、昨シーズン以上の戦いができるベースは整っていると思います。

 いわきと言えばフィジカルの印象が強いですけど、さっき土屋さんも話していたように、田村監督の戦術的な采配がすごく見ていて面白いし、それに対応できる選手たちの適応力にも毎回驚かされるんです。そして、あのホームスタジアム(ハワイアンスタジアムいわき)。収容人数は5,000人ほどですけど、サッカー専用スタジアムで、いつも満員の観客で埋まっている。「スタジアムで勝つ」という空気感を出せるのもいわきの強みだと思います。J1を目指す機運が高まっていますし、僕は「Bクラスの上」という評価ですね。

池田 思った以上に主力メンバーを残すことができましたよね。その中でも僕が期待するのは山口大輝。昨シーズンはキャリアハイの7ゴールでしたが、もっと点を取ってもおかしくない。新戦力ではセレッソから愛媛、いわきとレンタルが続いている石渡。田村さんとの出会いによって、大器がいよいよ覚醒するんじゃないかと。ちょっといい子過ぎて、もう少しメンタルが強くなればいいんですが、田村さんって、そういう選手に闘志の火をつけるのも上手いですからね。

土屋 それこそ昨シーズンの石田侑資とか五十嵐聖己って、1試合で2つ、下手をしたら3つくらいのポジションをやっていましたけど、石渡もいわきでただフィジカルを鍛えるんじゃなく、ボランチ以外のポジションにもチャレンジしてプレーの幅を広げてほしいですよね。今の若い選手にとって、いわきというチームはフィジカル面に限らず、サッカーを深く学び、成長できる環境だと思いますよ。去年の西川(→鳥栖)や大迫塁(→C大阪)もそうでしたから。

──次も同じく3人がBクラスに挙げたブラウブリッツ秋田(昨季10位)です。

池田 昇格プレーオフを目指して着々と積み上げてきた秋田ですが、守備リーダーの河野貴志(→ジェフユナイテッド千葉)の流出はやはり痛いですね。ただ一方で、補強がすごく上手く行っている。多くの実力者を獲得していて、なかでも僕は吉岡雅和(←山口)にめちゃめちゃ期待しています。昨シーズンのレノファでは、前線でハイプレスの起点となりながら、ボールを落ち着かせ、さらに崩しのパスも入れていた彼が加わることで、秋田のサッカーに新たな側面がもたらされるんじゃないかと。

土屋 J2での秋田の歴史は主力選手を引き抜かれる歴史ではあるんですけど、多くのレギュラークラスを失っても、彼らは必ず中位をキープしてくるんですね。昨シーズンに過去最高の10位に入ったチームから、今年も河野、喜岡佳太という欠かせないセンターバックが抜けてしまいましたが、クラブとしてもそこは想定して準備をしていたはずです。

 その中で、例えば今年で言うと、石田凌太郎(←栃木SC)や長谷川巧(←新潟)など、J1でのプレー経験がある選手を獲れるようになったのは、秋田が選手を成長させてくれるクラブだという認識が根付きつつある証拠だと思います。とにかくこのチームは一体感があって雰囲気がいい。それも6年目を迎える吉田謙監督のもとで培われた継続性が、軸としてあるからでしょうね。

 昨シーズンもリーグ3位の35失点と、堅守構築に定評のある秋田の課題は、いかに点を取るか。昨シーズン6得点の小松蓮が15点以上取れれば、確実に上位争いに食い込めるはずです。

佐藤 今年のJ2の中で補強に成功したチームの1つで、昇格プレーオフを目指そうという機運の高まりを感じます。僕が驚いたのは、町田からのレンタルだった佐藤大樹を、完全移籍に切り替えて残したこと。去年、水戸と対戦したときに、スピードがあって、パスも出せて、セットプレーのキッカーもできるめちゃくちゃいい選手だなって思ったんですが、J1の古巣に戻らずに完全移籍ですからね。

 さっき、チームの雰囲気がいいっていう話がありましたけど、自分たちでこのクラブを変えてやろう、みたいな意欲が、佐藤大樹の完全移籍からも伝わってくる。クラブとして次のフェーズに入ろうとしているシーズンなのかなって感じますね。

池田 小松について補足すると、性格的なところもあってチームに馴染むのに時間がかかった。1年目の昨シーズンは後半戦になってようやくゴールを取り始めましたけど、今シーズンは頭から飛ばせば、土屋さんの言うように15得点は十分に可能だと思います。あとは、東京ヴェルディからのレンタルで昨シーズンはザスパ群馬でプレーしていた佐川洸介。彼は“ザ・秋田”みたいなFWで、めちゃくちゃ秋田にハマりそうな気がしています。

土屋 東京国際大時代の彼を初めて見たとき、「クリスティアン・ヴィエリだ!」って思いましたよ(笑)。あとは鈴木優磨のお兄ちゃん、鈴木翔大も鹿児島から完全移籍で加入しましたが、彼もフィジカルに特化したようなストライカーですからね。獲る選手の基準が明確で、「秋田に来るよなぁ」っていう選手をちゃんと獲っている。

池田 そういう見る目があるから失敗しないんだよね。

※後編に続く

(企画・編集/YOJI-GEN)

佐藤拓也(さとう・たくや)

2003年、日本ジャーナリスト専門学校卒業とともに横浜FCのオフィシャルライターに就任。04年秋、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊に携わり、フリーライターへ転身。その後、サッカー専門誌を中心に寄稿。04年から水戸ホーリーホックを追い続け、12年に有料webサイト『デイリーホーリーホック』を立ち上げ、メインライターを務める。オフィシャル刊行物の制作にも携わる。

土屋雅史(つちや・まさし)

群馬県出身。高崎高3年時にインターハイでベスト8に入り、大会優秀選手に選出される。2003年に株式会社ジェイ・スポーツへ入社。サッカー情報番組『Foot!』やJリーグ中継のディレクター、プロデューサーを務めた。当時の年間観戦試合数は現場、TV中継を含めて1000試合に迫ることもあったという。21年にジェイ・スポーツを退社し、フリーに。現在もJリーグや高校サッカーを中心に、精力的に取材活動を続けている。

池田タツ(いけだ・たつ)

株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会などをこなし、撮影も行う。湘南ベルマーレの水谷尚人前社長との共著に『たのしめてるか。湘南ベルマーレ フロントの戦い』シリーズがある。

2/2ページ

著者プロフィール

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント