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三笘はサウジからの超破格オファーに目もくれず 見つめるのはフットボーラーとしての「成長」だけ

森昌利

1月末、サウジの強豪アル・ナスルがブライトンに対し、三笘獲得のオファーを出したと報じられ英国内を騒がせた 【写真:REX/アフロ】

 2月1日(現地時間、以下同)のノッティンガム・フォレスト戦で、ブライトンが0-7という屈辱的な大敗を喫した2日前。三笘薫にサウジアラビアの強豪アル・ナスルからオファーが届いたと報じられた。ブライトンに提示された条件は破格。しかし三笘はこのオファーに全く興味を示さず、サウジに行く気はないときっぱり言い切った。

働き盛りのタレントも引き抜くサウジ・プロリーグの脅威

 先週は3試合を取材した。

 まず水曜日、古橋亨梧がレンヌに移籍したうえに、前田大然が出場停止のため、日本人選手の出場が旗手怜央だけになったセルティックの欧州チャンピオンズリーグ(CL)のリーグフェーズ最終節(対アストン・ヴィラ)に行き、2-2とする同点弾を演出した旗手のアシストを見た(試合は2-4でセルティックが敗北)。そして土曜日には、ノッティンガムでブライトンの歴史的な0-7の大敗の証人となり、日曜日には鎌田大地が先発したクリスタルパレスのアウェー戦を取材して、なんと1893-94シーズン以来という、マンチェスター・ユナイテッドのシーズン最多タイとなる今季7つ目のホーム敗戦も目撃した。

 しかし今回は、三笘薫がサウジアラビア移籍を完全に拒絶した話について書きたいと思う。日本でも大きなニュースになったようだが、先週取材した3試合のどの場面より、三笘の短い言葉が筆者の心に残ったからだ。

 2022年12月31日にアル・ナスルがクリスティアーノ・ロナウドを年俸2億ユーロ、日本円にして約320億円という天文学的な条件で獲得して以来、サウジアラビアの驚異的な金満補強がフットボール界の話題をさらっている。

 ロナウドも含め、当初は元リバプールのロベルト・フィルミーノやサディオ・マネ、レアル・マドリーのカリム・ベンゼマ、そしてマンチェスター・シティのリヤド・マフレズら、キャリアの終盤を迎えたスター選手の獲得が目立った。2023年8月にはアル・ヒラルが、1億5000万ユーロ(約240億円)という“破格”なんて言葉では表現できないサラリーを提示し、パリ・サンジェルマンからネイマール(現在はサントスに所属)も引き抜いた。

 しかしその陰で、ニューカッスルからアラン・サン=マクシマン(現在はフェネルバチェにレンタル移籍)、セルティックから“ジョタ”ことジョアン・フィリペ(現在はセルティックに出戻り)、ウルバーハンプトンからルベン・ネヴェスと、これから最盛期を迎える20代の選手も次々に獲得していた。そしてその流れは現在も続いている。

 最初は引退目前の有名選手を引き取り、本人もクラブもサウジアラビアのオイルマネーの恩恵だけを受ける形にも見えたが、現在では圧倒的な資金力にモノを言わせて働き盛りのタレントを引き抜くサウジ・プロリーグの補強が、欧州の脅威となっているのだ。

 そしてこの冬、サウジアラビアから三笘にオファーが届いた。C・ロナウドを獲得したアル・ナスルからだった。

サウジ行きを決断した21歳FWはサラーの手取り額を優に超える

“超”がつく破格の条件で、アストン・ヴィラからアル・ナスルに移籍したデュラン。2月3日、ACLの試合で新天地デビューを飾った 【Photo by Abdullah Ahmed/Getty Images】

 無論、冬季の移籍期間中に出されたオファーであり、ルール上は全く問題ない。しかしブライトンの主力である27歳の日本代表MFに対し、サウジアラビアのクラブが移籍金5400万ポンド(約105億3000万円)のオファーを出したことは、英国でセンセーショナルに報じられた。

 筆者がこの第一報を目にしたのは、現地時間の1月30日夕方5時ごろだった。SNSで英大衆紙『ザ・サン』の記事を見つけたのだ。

 我が目を疑った。個人的には本当に図々しいオファーだと思った。それにサウジアラビアのクラブがこれから旬を迎える日本代表MFを獲得するためには、金額が足りないとも思った。

 そんな筆者の憤慨に呼応するかのように、この第一報の段階で、ブライトンが約105億円のオファーを即座に拒否したと伝えていた。ところが記事内には、「移籍金を大幅に増額した2回目のオファーもある」という記載もあった。

 実際、アル・ナスルはこの後すかさず総額9500万ユーロ(約152億円)のオファーを出したが、約47億円を上乗せした条件もブライトンは受けつけず、完全に拒絶した。

 その一方でコロンビア代表FWジョン・デュランを所有するアストン・ヴィラが、アル・ナスルからの7700万ユーロ、約123億2000万円の移籍金に同意した。デュラン本人もおよそ2000万ユーロ(約32億円)の年俸オファーを受け入れ、移籍が確定した。

 デュランの移籍は成立したこともあり、三笘の報道にも増して英国を大きく揺るがせた。まず21歳という年齢が論議の的となった。キャリアの終盤を迎えたベテランどころか、アストン・ヴィラで3年目の今季、イングランド代表FWオリー・ワトキンスの控えながら、リーグ戦20試合で7ゴールを決めて頭角を現したところ。その若い新鋭選手がサウジアラビア行きを承諾したのだから、みんなが仰天した。

 2000万ユーロという年俸は、プレミアリーグでまだ二桁ゴールを記録したこともない21歳FWにとっては超破格もいいところである。プレミアリーグでこれ以上の高給選手を探しても、最近、1年平均5100万ユーロ(約81億6000万円)でマンチェスター・Cと2034年までの10年契約に合意したノルウェー代表FWアーリング・ハーランド、ともに2400万ユーロ(38億4000万円)をもらっている同じマンチェスター・Cのケビン・デ・ブライネとリバプールのモハメド・サラーの3選手しかいない。

 しかもサウジアラビアは無税。英国の最高税率は45%なので、デュランの年俸は手取りなら約81億円のハーランドとの差も12~13億円だ。デ・ブライネとサラーの手取り額は楽々と超えてしまう。

 確かにデュランは、アストン・ヴィラでワトキンスの控えに甘んじる状況に不満を募らせていた。そこへ、プレミアリーグにいたら一生お目にかかれないかもしれない年俸を提示されたのである。

 これは余談だが、デュラン移籍の続報を読むと、本人がアル・ナスルの練習場があるサウジアラビアのリヤドに住むことを嫌って、480キロも離れたバーレーンに居を構える可能性があるという。これも『ザ・サン』の記事で、英国のタブロイド紙らしい話題だが、恋人との同棲を希望しているデュランは、サウジアラビアでは未婚のカップルが家を借りるのは非常に難しいため、バーレーン居住を考えているということらしい。

 この記事を目にしただけでも、デュランのアル・ナスル移籍が彼のフットボーラーとしての成長を妨げることになりそうな予感しかしない。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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