「知られざる欧州組」の現在地

松木玖生、渡欧後初の独占インタビュー「どんな状況でも結果にこだわってA代表へ――」

土屋雅史

初めての海外挑戦に当初は戸惑いもあったという松木だが、徐々に環境に慣れ、コンディションも上向きだ。インタビュー中の表情も終始明るかった 【YOJI-GEN】

 昨夏にFC東京から欧州へと旅立った松木玖生が、トルコのギョズテペで奮闘を続けている。この約半年でクリアになったのは、サッカー選手としての未来への展望であり、手にしたのは世界のトップレベルに近づきつつあるという確かな手応えだ。どんな状況に置かれても結果にこだわって、A代表へ――。渡欧後初の独占インタビューで、日本代表の将来を担うパリ五輪世代のホープが現在の胸の内を語ってくれた。(取材日:2025年1月28日)

空いた時間は“レゴ”でリフレッシュ

「考えすぎるとうまくいかないタイプ」と自己分析する松木。このイズミルのエフェソス遺跡を訪ねるなど、ときには観光でリフレッシュすることも 【提供:松木玖生】

――トルコ生活も半年が経ちましたが、初めての海外暮らしはいかがですか?

 日本にはなんでも揃っているので何不自由なく暮らせると思いますが、こっちだと、特に自分の住んでいる街(トルコ西部の都市イズミル)には日本食の食材を買えるスーパーもないですし、食事面で最初のころはかなり厳しいものがありました。でも、奥さんが工夫しながらしっかりとした料理を作ってくれているので、今は徐々に改善されて、コンディション的にも上がってきたなと感じています。

――まだ海外での生活が半年ぐらいだと、日本との違いをより強く感じますよね。

 日本がすごすぎるんです。トルコは犬や猫が本当に多くて、道端はもちろん、家具屋のベッドの上にもメッチャ大きな犬が寝ていたりするんですよ(笑)。そういうところも含めて刺激的な国だと思います。

――普段サッカーをしていない時間は何をしているんですか?

 それこそ「何をすればいいんだろう?」という感じです。英語の勉強はしているんですけど、ほかにリフレッシュすることと言ったら……ああ、最近はレゴをしていますね。

――レゴってブロックのレゴですか?

 はい、街中にレゴショップがあって。最近は“ダースベイダー”のレゴを買いました(笑)。

――確かに海外だと、なかなかリフレッシュする方法を見つけるのも難しいですよね。

 時間がある分、ずっとサッカーのことを考えてしまいますね。でも、自分はあまり考えすぎるとうまくいかないタイプなので、オンとオフはしっかり分けるようにしています。

――そういう意味でも奥さまの存在は大きいですね。

 食事面のサポートはもちろん、家のこともいろいろとやってくれるので、そこは本当に感謝しています。

――イズミルはエーゲ海沿いの街ですよね。海産物が美味しいのではないですか?

 そうですね。食事は日本が一番ですけど、こっちのローカルな食べ物もすごく美味しいですよ。ただ、オフの日には外食することもありますが、基本的には家でゴハンを食べています。

――街中で使われているのはトルコ語ですか?

 ほとんどトルコ語ですね。英語は選手同士ではかなり使えますけど、街中で使うのはちょっと難しいかもしれません。

――クラブのオフィシャル動画で英語を話している姿を見ましたが、しっかり勉強していかれたんですね。

 あれはまだ移籍して間もないころに撮った動画で、英語も勉強し始めたばかりでしたけど、今はもう少し成長していますよ(笑)。

――あの動画でも「You Know?」とか使っていて、英語を話せる人の感じが出ていましたね(笑)。

 ちょっとしゃべれる感じを出してみました(笑)。

――FC東京でチームメイトだった長友(佑都)選手もかつてトルコでプレーしていましたが、生活面も含めて何かアドバイスはもらいましたか?

「トルコのサポーターはすごく熱い」ということを聞きました。その中でも「どこの国に行っても外国籍選手は見られ方も変わってくるし、1人でやらないといけないから、常に強い心を持って進んでいくことが大事だよ」と言われました。

――高校時代から強いメンタリティの持ち主でしたが、海外でも自分をしっかり出せている感覚はありますか?

 そうですね。チームに馴染むまでは少し苦労しましたけど、今ではチームメイトともいろいろな話ができるようになりましたし、信頼関係は深くなってきたと思います。

絶対にクバから決めてやると思っていた

現在リーグ戦で5位と好調のギョズテペは選手層も厚く、スタメン定着には至っていない。それでもガラタサライのような強豪との対戦を経験しながら、日々成長中だ 【Photo by Adem Kutucu/Anadolu via Getty Images】

――ギョズテペはリーグ戦の20試合を終えた段階(1月28日現在)で5位に付けています。昇格組ということを考えると上々の成績だと思いますが、手応えはいかがですか?

 チームとしては前半戦に関して言うと、すごくいいものを収穫できたなと思います。ただ、アウェイの試合でなかなか勝てないところは課題ですし、一方でホームではここまで負けなしなので、そこは継続していきたいですね(インタビュー後の第22節・アランヤスポル戦で今季ホーム初黒星)。

――ホームスタジアム(ギュルセル・アクセル・スタジアム/19,713人収容)の雰囲気はどうですか?

 トルコの中でも一番雰囲気がいいと思います。スタジアム自体はそこまで大きくないですけど、いつも観客がフルで入っていて、全員が歌っていますし、ボールを奪ったり、相手ゴールに近付くと、スタジアム全体が「おお!」ってなるような感覚があって、日本ではあまり味わったことのないような雰囲気ですね。

――やっぱりトルコのサポーターは熱いんですね。

 それは体感しています。イズミルの街中を歩けば「松木だ!」と言ってもらえますし、サッカー熱はかなり高いと思います。

――松木選手自身は、ここまでリーグ戦では途中出場が多い中でも16試合で1ゴール・4アシストという数字を残しています。カップ戦では1ゴール・1アシストを記録した試合もありました。個人としてのパフォーマンスはどう評価していますか?

 正直、まだまだだなと感じていますし、これからもっと結果に関わるような仕事をしたいと思っています。アシストこそできていますけど、今はボランチではなく前目のポジションにチャレンジしているので、ゴールという結果はさらに追求していきたいですね。

――ギョズテペのサッカーは、どういったスタイルですか?

 守備がベースですね。ハイプレスだったり、ミドルゾーンでブロックを組んだりすることは徹底してやっていますし、あまりリスクを負わない戦い方です。不用意にボールを失って失点しないように、危なかったら前に大きく蹴って、そこで収めてサイドから崩してという、どちらかと言えば勝負にこだわったサッカーをやっているイメージです。

――採用しているシステムは3-4-1-2ですか?

 はい。その中で最近はフォワードで起用される回数が増えていますね。FC東京でもフォワードをやることはありましたけど、その時と求められる役割は違いますし、自分としてはまたさらに成長できる良い機会なのかなと思っています。

――スタニミル・ストイロフ監督はブルガリア人ですし、チームにもいろいろな国籍の選手がいますが、コミュニケーションはうまく取れていますか?

 基本的には英語で意思疎通を図っているんですけど、最初の頃に比べればだいぶ要求できるようになりましたし、ピッチ外でもコミュニケーションを取れるようになってきました。ただ、とっさには思ったことを言えない状況もあるので、そこはもっと言葉を勉強したいと思います。半年ギョズテペでプレーして、選手の特徴もほぼ把握できてきているので、ここからチームメイトとの関係性をさらに深めることができれば、結果にもつながってくると思います。

――コンヤスポル戦(第12節)で決めたリーグ戦初得点は素晴らしいゴールでしたね。

 あれはチームが1点取った直後の得点だったんですけど、ブラジル人のフアン選手がいいパスを出してくれて、自分も迷うことなく右足で良いところにボールを置けたのが大きかったです。(利き足ではない)右足の練習は普段から常にやっていますし、そこは自信を持って振りました。

――その少し前にも右足のすさまじいシュートがありました。VARでゴールは取消しになってしまいましたが、その良いフィーリングが残っていたのではないですか?

 そうですね。あれがゴールと認められていれば、という良いボレーシュートでしたが、そこで感覚をつかめたことで、その後のゴールにつながったのかなと思います。

――相手のGKがFC東京でチームメイトだったヤクブ・スウォヴィク選手だったというのも、不思議な因縁を感じますね。

 試合前から「絶対にクバ(スウォヴィク)から決めてやる」と思っていました(笑)。それが元チームメイトとして、一番の恩返しになるのかなとも考えていましたからね。

――試合後にスウォヴィク選手とは話しましたか?

 はい。ちょうど日本からFC東京のサポーターの方々がその試合を見に来てくださっていて、試合後にクバも一緒にみんなで写真を撮ったりしましたけど、その時に「もうウチとの試合では決めないでくれよ」って言われましたね(笑)。

――そこからスタメン出場が続きましたが、1つ結果を出すことの重要性をより感じたところもありますか?

 今のギョズテペは選手層も厚いですし、結果を残せなければすぐにスタメンを外されてしまうような状況なので、自分は結果にしっかりフォーカスしてやっていくだけです。

1/2ページ

著者プロフィール

1979年8月18日生まれ、群馬県出身。高崎高3年時にインターハイでベスト8に入り、大会優秀選手に選出される。2003年に株式会社ジェイ・スポーツへ入社。サッカー情報番組『Foot!』やJリーグ中継のディレクター、プロデューサーを務めた。21年にジェイ・スポーツを退社し、フリーに。現在もJリーグや高校サッカーを中心に、精力的に取材活動を続けている。近著に『高校サッカー 新時代を戦う監督たち』(東洋館出版社)がある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント