ライト級第一人者の吉野修一郎が1年2カ月ぶり復帰戦 大橋ジムのホープ4人がデビュー【6月のボクシング注目試合】

船橋真二郎

元ライト級3冠王者の吉野修一郎 【写真:船橋真二郎】

自分のボクシングを見つめ直した

 吉野修一郎(三迫/32歳、16勝12KO1敗)が1年2カ月ぶりに戦線復帰する。6月17日、東京・後楽園ホールにジュレス・ビクトリアーノ(比/26歳、13勝10KO7敗)を迎え、再起戦に臨む。

 伝統のライト級で日本、東洋太平洋、WBOアジアパシフィック王座の3つのベルトを束ね、スーパーフェザー級の元世界王者だった伊藤雅雪(横浜光)、11度防衛の元東洋太平洋王者で、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、テオフィモ・ロペス(米)といった大物と米国のリングで戦った中谷正義(帝拳)を連破。国内最強を証明し、昨年4月に大勝負に挑んだのだが……。

 米国東海岸のニューアークで、現・WBC世界ライト級王者で世界3階級制覇のサウスポー、シャクール・スティーブンソン(米)と世界挑戦権を争い、レフェリーストップによる6回TKO負け。2回、4回と2度のダウンを喫するなど、身をもって世界トップクラスの技巧とスピードを味わった。

 1カ月後には再起に向けてジムワークを再開したが、3年ほど前からボクサーの“職業病”を抱えてきた右ヒジが悲鳴をあげた。パンチを打つ、引く動作を長年繰り返してきた影響で変形性ヒジ関節症を発症し、尺骨神経麻痺、離断性骨軟骨炎(いわゆる関節ネズミ)を併発。我慢してきた痛みが耐えられないぐらいになった。

 長期離脱も覚悟し、7月末に手術。練習再開後もしばらく制限があったが、「(4歳になった)息子と過ごして、リフレッシュもできたし、いろいろと考えたり、試したりする時間もできたので。自分のボクシングを見つめ直す期間になりました」と前向きに捉える。

「シャクールには僕の嫌なポジション、距離をずっと支配されてる感じがあって。もっと(距離の)詰め方とか、攻撃のバリエーションを増やしていかないといけないなと思ったし、大げさに言ったら野性的というか、荒々しいボクシングも入れていこうと椎野(大輝トレーナー)さんと話しています」

再び米国のリングを目指す

「試合と同じ緊張感」という後輩・渡来美響とのスパーリングでスキルを磨いた 【写真:船橋真二郎】

 巧みなブロッキングから、リターンのパンチを返し、打ち終わりのカバーから、またリターンと攻守が一体となり、連動していくのが吉野のボクシング。ベースとなるスタイルはそのままに「何をプラスアルファするかを考えてきた」と椎野トレーナーは言う。

 スティーブンソンのような抜きんでたスピードに対し、ブロッキングからのリターンだけでは反応が遅れると痛感した。ときに相打ちのタイミングでパンチを合わせにいく。また、これまではバランス重視で7、8割程度の力でパンチをつなぎ、コンビネーションで相手を崩してきた。ときにフルパワーで打ち込む、荒々しくパンチを振っていく。などが、その一端になる。相手により怖さを与え、警戒心を植え付けたいという狙いが根底にある。

 今年3月から本格的にスパーリングを再開。少しずつ課題を落とし込んできた。右ヒジの痛みは完全に消えたわけではないものの、「手術前と比べたら、ストレスなく思い切り打てている」と吉野の表情は明るい。

 特にパートナーの中でも「試合と同じ緊張感を持てる」と吉野が評価するのが、ジムの後輩で日本スーパーライト級2位の渡来美響。その通り、2人の攻防はハイレベルだった。定評のあるディフェンスとスキルに加え、「渡来にはスピードもパンチもある」ため、課題のひとつに挙げた距離の詰め方にしても「いろんなことを試さないと対応される」と磨きをかけられた。

 対戦相手のビクトリアーノは5年前、後の東洋太平洋、WBOアジアパシフィック・スーパーフェザー級王者の木村吉光(志成)に5回TKO負けも、3回に右アッパーで木村を倒すなど、ダウン応酬の激闘を演じている。その一戦を会場で見ていたという吉野は「倒すか倒されるか、という選手」とした上で、「まず試合をやれることに感謝」と話す。

 この先に再び目指すのは中量級の中心地である米国のリング。三迫貴志会長はブランクの間に外れた世界ランク復帰を最優先に「世界ランカーと対戦するチャンスを探りたい」という考えを示す。そのためにも「次の相手は圧倒しないといけないし、やっぱり吉野は強いと思わせるような試合をしたい」と椎野トレーナーは意気込む。

 が、吉野自身はプロ初黒星からの再起戦であり、ケガ明けの復帰戦を冷静に見据える。「足もとをすくわれないように。吉野が帰ってきたというところを見せて、最終的に倒せたらいい」。まずはライト級第一人者のリスタートを見届けたい。イベントの模様は「FOD」で第1試合開始からライブ配信される。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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