J1首位・町田が示した新しい強み 浦和の“赤い壁”に苦しみつつ「裏メニュー」で打開
町田は96分に下田北斗(写真左)のPKで勝ち越した 【(C)FCMZ】
冷静に考えると、初昇格チームの首位は異常事態だ。過去10年間にJ1の初シーズンを戦った3クラブ(2014年:徳島ヴォルティス、15年:松本山雅FC、18年:V・ファーレン長崎)はいずれも残留さえ果たしていない。しかし町田は黒田剛監督のもと、ここまでは昨季のJ2と変わらぬハイペースで勝ち点を重ねている。
町田が浦和と公式戦で対戦するのは今回が2度目。2015年の天皇杯全日本サッカー選手権で、当時J3だった町田は1-7の完敗を喫している。浦和は日本最大のサッカークラブで、前回大会のAFCチャンピオンズリーグ王者。重ねてきた歴史の濃さに差があることは明らかな事実だ。
それでも町田は4万人近い観客が作り出すアウェーの中で、強敵に堂々と向き合った。さらに後半ロスタイムのPKで勝ち越す劇的な展開で、勝利をものにしている。今まであまり見せなかった攻撃オプションが、試合の決め手となった。
浦和に町田の「定番」を封じられる
ロングスローは、もはや十八番と言っていい。ショートカウンター、サイド攻撃、ロングスローはいわば黒田サッカーの定番メニューだ。
ただし5月26日の埼玉スタジアムでは、そんな強みを封じられていた。通常は「つないでくるチーム」をプレスで餌食にする町田だが、浦和は一枚上手。まず相手のビルドアップに対して、踏み込んだ守備ができていなかった。サイド攻撃も普段ほどチャンスに結びつかず、ロングスローは試合を通して1度しか使っていない。相手の質、立ち位置、戦術に苦しめられていた。
右サイドバック(SB)で先発した鈴木準弥は振り返る。
「自分たちが行けば行くほど(スペースが)空いてしまう、なかなか強くジャストで行きづらい状況がありました。例えば相手のセンターバック(CB)が持ったとき、SBへのパスコースがあるし、中盤のインサイドハーフもいます。(ウイングが)サイドに張り付いていて、僕はロックされてしまっていました」
プレス、ロングスローが生きなかった理由
鈴木準弥(写真)は浦和の巧みな攻撃に手を焼いていた 【(C)J.LEAGUE】
鈴木はこう説明する。
「CBにプレスをかけたとき、西川さんは(左サイドで先発した)ソルバッケンの方に蹴るふりして(逆サイドの渡邊)凌磨に蹴ってくる。俺が(ソルバッケンを)狙うと背後まで蹴るキック力と、正確性を持っているから、行きたいけれど行き切れないシーンがありました。優先的に守らなければいけないのは自分の背後なので、そうするとなかなか強く行けなかった」
西川は相手のSBの立ち位置や動きを見て、的確に蹴り分ける技術と視野がある。ハーフラインの向こうを見ながら、ぎりぎりで蹴る方向を変えられるGKは、J1広しといえども他にいないだろう。浦和の両CB、GKが町田のプレスを絞りにくくさせていた。
守備面でも赤い最終ラインが立ちはだかった。オ・セフンは6月の韓国代表に招集された194センチの大型FWだが、普段ほど空中戦で相手を圧倒できていなかった。ロングスローも、3人がその活用を難しくしていた。
鈴木は明かす。
「相手のCBはやはり強いですし、西川さんもキャッチしてからのリリースが速い。だから簡単に放り込むのは得策ではないと思っていました。最近(の町田)はロングスローに固執することなく、クイックで始めたり、投げるふりをして戻したりしていますが、今日もそう対応していた感じです」
ロングスローは攻撃側も人数をかけるため、GKがクリーンに捕球したら一気にカウンターへ転じられるリスクがある。西川の存在はその抑止力にもなっていた。