J1首位・町田が示した新しい強み 浦和の“赤い壁”に苦しみつつ「裏メニュー」で打開

大島和人

町田は96分に下田北斗(写真左)のPKで勝ち越した 【(C)FCMZ】

 J1首位が徐々にその定位置となりつつある。FC町田ゼルビアは5月26日の浦和レッドダイヤモンズ戦を2-1と勝利し、2位に浮上した鹿島アントラーズと勝ち点3差の首位。11勝2分け3敗の勝ち点35で、5月を終えた。

 冷静に考えると、初昇格チームの首位は異常事態だ。過去10年間にJ1の初シーズンを戦った3クラブ(2014年:徳島ヴォルティス、15年:松本山雅FC、18年:V・ファーレン長崎)はいずれも残留さえ果たしていない。しかし町田は黒田剛監督のもと、ここまでは昨季のJ2と変わらぬハイペースで勝ち点を重ねている。

 町田が浦和と公式戦で対戦するのは今回が2度目。2015年の天皇杯全日本サッカー選手権で、当時J3だった町田は1-7の完敗を喫している。浦和は日本最大のサッカークラブで、前回大会のAFCチャンピオンズリーグ王者。重ねてきた歴史の濃さに差があることは明らかな事実だ。

 それでも町田は4万人近い観客が作り出すアウェーの中で、強敵に堂々と向き合った。さらに後半ロスタイムのPKで勝ち越す劇的な展開で、勝利をものにしている。今まであまり見せなかった攻撃オプションが、試合の決め手となった。

浦和に町田の「定番」を封じられる

 町田の強みについて、専門家やファンの見解はおおよそ一致するはずだ。守備ならば「球際の強度」「切り替えの速さ」の伴ったハードワークであり、戦術の徹底だ。攻撃は高い位置のボール奪取から仕掛けるカウンター、高さを生かしたロングボール攻撃、スピードを生かしたサイド攻撃が効いている。

 ロングスローは、もはや十八番と言っていい。ショートカウンター、サイド攻撃、ロングスローはいわば黒田サッカーの定番メニューだ。

 ただし5月26日の埼玉スタジアムでは、そんな強みを封じられていた。通常は「つないでくるチーム」をプレスで餌食にする町田だが、浦和は一枚上手。まず相手のビルドアップに対して、踏み込んだ守備ができていなかった。サイド攻撃も普段ほどチャンスに結びつかず、ロングスローは試合を通して1度しか使っていない。相手の質、立ち位置、戦術に苦しめられていた。

 右サイドバック(SB)で先発した鈴木準弥は振り返る。

「自分たちが行けば行くほど(スペースが)空いてしまう、なかなか強くジャストで行きづらい状況がありました。例えば相手のセンターバック(CB)が持ったとき、SBへのパスコースがあるし、中盤のインサイドハーフもいます。(ウイングが)サイドに張り付いていて、僕はロックされてしまっていました」

プレス、ロングスローが生きなかった理由

鈴木準弥(写真)は浦和の巧みな攻撃に手を焼いていた 【(C)J.LEAGUE】

 浦和の両CBアレクサンダー・ショルツ、 マリウス・ホイブラーテンは優れたキックの持ち主で、攻撃の起点になれるタイプ。GK西川周作も町田から見ると曲者だった。彼らは相手の選手が動くことで新たに生まれるペースを「後出し」で突くスキルを持っている。

 鈴木はこう説明する。

「CBにプレスをかけたとき、西川さんは(左サイドで先発した)ソルバッケンの方に蹴るふりして(逆サイドの渡邊)凌磨に蹴ってくる。俺が(ソルバッケンを)狙うと背後まで蹴るキック力と、正確性を持っているから、行きたいけれど行き切れないシーンがありました。優先的に守らなければいけないのは自分の背後なので、そうするとなかなか強く行けなかった」

 西川は相手のSBの立ち位置や動きを見て、的確に蹴り分ける技術と視野がある。ハーフラインの向こうを見ながら、ぎりぎりで蹴る方向を変えられるGKは、J1広しといえども他にいないだろう。浦和の両CB、GKが町田のプレスを絞りにくくさせていた。

 守備面でも赤い最終ラインが立ちはだかった。オ・セフンは6月の韓国代表に招集された194センチの大型FWだが、普段ほど空中戦で相手を圧倒できていなかった。ロングスローも、3人がその活用を難しくしていた。

 鈴木は明かす。

「相手のCBはやはり強いですし、西川さんもキャッチしてからのリリースが速い。だから簡単に放り込むのは得策ではないと思っていました。最近(の町田)はロングスローに固執することなく、クイックで始めたり、投げるふりをして戻したりしていますが、今日もそう対応していた感じです」

 ロングスローは攻撃側も人数をかけるため、GKがクリーンに捕球したら一気にカウンターへ転じられるリスクがある。西川の存在はその抑止力にもなっていた。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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