J1首位・町田が示した新しい強み 浦和の“赤い壁”に苦しみつつ「裏メニュー」で打開
内側の狭いスペースを攻略
平河悠は受け手、出し手として「内側」のスペースを攻略した 【(C)J.LEAGUE】
ナ・サンホは振り返る。
「自分が前を向いたとき(オ・)セフンがフリーランニングして相手を釣ってくれて、そこにスペースができていました。(平河)悠が抜群のタイミングで中に入ってくれていました」
平河も鈴木と同様に「赤い壁」を意識したプレーをしていた。
「両CBと西川選手がいるので、いつも通り対人で勝ってクロスを上げても、(簡単にゴールが)入ることはないと分かっていました。いつも以上にクロスの精度と、中のペナルティエリアまでえぐること、SBまで見てウィークを突けるかが大事かなと選手で話していて、1点目はそれが出たと思います」
2点目のPKは1点目と逆に、平河のスルーパスからナ・サンホがエリア内に抜け出して生まれた。平河はこのように説明する。
「(宇野)禅斗が持ったとき、相手が(プレスを)かけにくいポジショニングを取れました。サンホが一瞬空いたのが見えたので出しました」
町田は87分に鈴木に替えて望月ヘンリー海輝を起用し、右ワイドに張らせていた。平河は望月と重ならない「内側」のスペースに入る頻度を増やす。彼はスピードを生かしてサイドのスペースを破ることの多い選手だが、この場面はDFライン手前のギャップで受けて、チャンスメイクをした。守備の小さな綻びを、精密な技術と状況判断で生かした。
平河はこう胸を張る。
「なかなかああいう形は出ていなかったですけど、こういうときに、そういうプレーが出るのは、今年の町田の勝負強さかなと思います」
「品数」を少しずつ増やしている町田
町田が試合中の「対応力」を見せた浦和戦だった 【(C)FCMZ】
町田はよく「最短距離で勝利を目指すサッカー」と評価される。ただし将来への伸びしろを削って短期的な勝利を追っているチームではない。昨季のJ2から継続してこのチーム観察している人なら、その積み上げに気づいているだろう。
勝負にこだわり、目先の勝利を徹底的に追求しつつ、個人とチームの幅も広げている。本来の強みを消されても、その場で選手たちが駆け引きをして、別のオプションで対応できる。浦和戦は町田のそんな進歩が見えた試合だった。
MF下田北斗は言う。
「前線もディフェンスラインも中盤も、個人個人のやれることは増えていると思います。今日は押し込まれましたけど、自分たちでボールを動かしながらやれているように、外から見て感じた試合もあります」
メインメニューはあくまでもショートカウンター、サイド攻撃、セットプレーだ。もっとも町田がワンパターンなチームかといえば違う。「裏メニュー」にも、サポーターを堪能させるクオリティがある。
「そばの専門店はカレーも美味い」というグルメの金言は、おそらくこのチームに当てはまる。町田は意外と「品数」が多いチームだ。