J1首位・町田が示した新しい強み 浦和の“赤い壁”に苦しみつつ「裏メニュー」で打開

大島和人

内側の狭いスペースを攻略

平河悠は受け手、出し手として「内側」のスペースを攻略した 【(C)J.LEAGUE】

 しかし町田は今まであまり出していなかった「裏メニュー」で浦和を攻略した。52分に平河悠が決めた先制点は、ナ・サンホが左サイドからエリア内に通したキラーパスから生まれた。クロス性のボールではあったが、平河が合わせるのでなく「抜け出す」ことを想定した球筋だった。

 ナ・サンホは振り返る。

「自分が前を向いたとき(オ・)セフンがフリーランニングして相手を釣ってくれて、そこにスペースができていました。(平河)悠が抜群のタイミングで中に入ってくれていました」

 平河も鈴木と同様に「赤い壁」を意識したプレーをしていた。

「両CBと西川選手がいるので、いつも通り対人で勝ってクロスを上げても、(簡単にゴールが)入ることはないと分かっていました。いつも以上にクロスの精度と、中のペナルティエリアまでえぐること、SBまで見てウィークを突けるかが大事かなと選手で話していて、1点目はそれが出たと思います」

 2点目のPKは1点目と逆に、平河のスルーパスからナ・サンホがエリア内に抜け出して生まれた。平河はこのように説明する。

「(宇野)禅斗が持ったとき、相手が(プレスを)かけにくいポジショニングを取れました。サンホが一瞬空いたのが見えたので出しました」

 町田は87分に鈴木に替えて望月ヘンリー海輝を起用し、右ワイドに張らせていた。平河は望月と重ならない「内側」のスペースに入る頻度を増やす。彼はスピードを生かしてサイドのスペースを破ることの多い選手だが、この場面はDFライン手前のギャップで受けて、チャンスメイクをした。守備の小さな綻びを、精密な技術と状況判断で生かした。

 平河はこう胸を張る。

「なかなかああいう形は出ていなかったですけど、こういうときに、そういうプレーが出るのは、今年の町田の勝負強さかなと思います」

「品数」を少しずつ増やしている町田

町田が試合中の「対応力」を見せた浦和戦だった 【(C)FCMZ】

 町田が華麗なパスワークを売りにしているチームと書いたら、それは大げさだ。とはいえ22日のルヴァンカップでは、ワンタッチパスの連続からミッチェル・デュークがゴールを決めている。浦和戦も前半ロスタイムに昌子源、仙頭啓矢の縦パスから決定機を作り出すなど、内側の狭いエリアをを細かく崩すアタックは相手の脅威になっていた。

 町田はよく「最短距離で勝利を目指すサッカー」と評価される。ただし将来への伸びしろを削って短期的な勝利を追っているチームではない。昨季のJ2から継続してこのチーム観察している人なら、その積み上げに気づいているだろう。

 勝負にこだわり、目先の勝利を徹底的に追求しつつ、個人とチームの幅も広げている。本来の強みを消されても、その場で選手たちが駆け引きをして、別のオプションで対応できる。浦和戦は町田のそんな進歩が見えた試合だった。

 MF下田北斗は言う。

「前線もディフェンスラインも中盤も、個人個人のやれることは増えていると思います。今日は押し込まれましたけど、自分たちでボールを動かしながらやれているように、外から見て感じた試合もあります」

 メインメニューはあくまでもショートカウンター、サイド攻撃、セットプレーだ。もっとも町田がワンパターンなチームかといえば違う。「裏メニュー」にも、サポーターを堪能させるクオリティがある。

「そばの専門店はカレーも美味い」というグルメの金言は、おそらくこのチームに当てはまる。町田は意外と「品数」が多いチームだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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