フルメンバーのJ1首位・町田が示した今までにない破壊力 選手たちは過酷な競争にどう反応したのか?

大島和人

ナ・サンホが得点を決めてベンチに駆け寄る 【(C)FCMZ】

 FC町田ゼルビアは5月6日にアウェーで京都サンガF.C.と対戦し、3-0の完勝を飾った。第12節を勝ち点25(8勝1分け3敗)で終え、J1の首位を保っている。

 町田が今までなかった迫力、スコア以上のインパクトを見せた試合だった。

 黒田剛監督のチームはJ2時代から先行逃げ切りの展開が多く、カウンターを狙いつつ守り切る隙の無さを発揮してきた。しかし京都戦の町田はリードを奪ってもプレスや攻めの姿勢を緩めず、試合が進むほど攻勢を強めていた。

町田が揃えた強烈なリザーブ

 町田は5月3日の柏レイソル戦(◯2-0)と全く同じ先発メンバーで京都戦に臨んでいる。7人を入れ替えた京都とは対照的な起用で、「勝ったチームを変えない」という原則に従っていた。

 黒田監督はこう説明する。

「前線は駒を持っていたので『潰れるくらいのつもりで行け』『前半で替わるくらいのつもりで行け』と奮起させていました。またこれから中2日、中3日のゲームが続く中で、この状態でも100%を出せなければダメだとコンディション作り、体力の向上を選手には言っています。彼らがたくましくなるためにも、同じチームで行くことの方が望ましいと考えました。あとから平河(悠)、藤尾(翔太)、エリキ、(ミッチェル・)デュークあたりを投入した方が、相手は嫌だろうという印象もあって、今回はそのような采配をしました」

 5月3日(日本時間4日早朝)にAFC U23アジアカップの決勝戦を終えた平河悠、藤尾翔太は4日深夜に帰国し、5試合ぶりにクラブへ復帰していた。昨年8月に膝の重傷を負った昨季のMVPエリキも、3日の柏戦から戦列に戻っている。デュークはポジションを失っていたが、2022年のW杯カタール大会で得点も決めた現役オーストラリア代表。昨季のJ2ではエリキと抜群の連携を見せ、優勝と昇格に大きく貢献している。町田は久しぶりに「フルメンバー」が揃い、4枚の強烈な攻撃的カードをベンチに並べていた。

リードを奪った後半、さらに強めたアクション

平河は帰国直後だが、後半開始から起用された 【(C)J.LEAGUE】

 立ち上がりの町田は京都の鋭い出足に苦しんだが、22分にミドルカウンターからオ・セフンが先制ゴールを挙げる。

 そして、後半開始と同時に平河がピッチへ送り込まれた。さらに60分から藤尾とデューク、73分からはエリキが投入された。一般的にリードしているチームはカードを出し渋るものだが、黒田監督は早いタイミングで両サイドハーフ、2トップを丸ごと入れ替えた。

「京都さんがかなりハイラインだったので、背後を徹底して突く狙いでした。ディフェンス(DF)ラインを下げさせることで、相手の攻撃(力)も半減するだろうと考えました。FWとサイドハーフは体力を少しずつ消耗していくわけで、4枚の駒を変えてもう1回フレッシュな状態でスイッチを入れる――。それは我々が狙いを持ってやったところで、功を奏した印象です」

 64分の追加点は交代メンバーのお膳立てから生まれた。左サイドの平河が身体を投げ出して相手のパスをカットすると、藤尾は中央でボールを収める。さらに鈴木準弥のスルーパスにナ・サンホが反応して、鋭い切り返しからシュートを叩き込んだ。75分の3点目も、フリーキックのこぼれ球を交代起用のデュークが冷静に流し込む形だった。

 平河は振り返る。

「フライトが12時間あったので、(京都戦に備えて)できるだけ寝ないで、帰ってから寝るようにしました。自分の特徴を出せれば、おのずと得点につながるのではないかと思って入りました。攻撃のところで優位性も出せましたし、2点目は(平河が)ボールを奪ってからの流れでした。チームには貢献できたと思います」

 ボランチの柴戸海はこう口にする。

「序盤戦では1点を取って少し守備に入って点を取られてしまう、ガンバ大阪戦のような苦い経験もしています。自分たちのプレー、町田のスタイルを変えることなく、行けるときは行くし、守らなければいけないときは守る――。そういう(攻守のバランスを崩さず、前から奪いに行く)姿勢は体現できたと思います。それに相手からしたら(町田の交代メンバーは)嫌だったと思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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