異例ずくめだったドンチッチのレイカーズ電撃トレード 改めて“4つの視点”からその衝撃度を浮き彫りにする

大橋哲也

世界中のNBAファンに衝撃を与えたドンチッチのトレード。レイカーズ入りを報じた記者のXは、実に1億回以上のインプレッションを記録した 【Photo by Alex Goodlett/Getty Images】

 79年に及ぶNBA史をたどっても、これ以上に衝撃的なトレードはなかった。マーベリックスのルカ・ドンチッチがレイカーズに電撃加入してからおよそ3週間が経過したが、そのインパクトの大きさを、“4つの視点”をもとに改めてここで浮き彫りにする。

大谷翔平のドジャース移籍もかすむ数値

 現地2月2日、『ESPN』のシャムズ・シャラニア記者が自身のXで報じた第一報が、世界中のNBAファンに衝撃を与えた。ルカ・ドンチッチのトレードである。ドンチッチが所属していたダラス・マーベリックスと新天地となるロサンゼルス・レイカーズ、双方のゼネラルマネージャー(GM)が約1ヵ月をかけて秘密裏に進めていた交渉だった。

 通常、こうした移籍やトレードが起こるときは、契約状況、選手とチームのすれ違い、チームの勝敗など、周囲が気付ける予兆のようなものがあるケースがほとんどだ。しかし今回は、少なくともGMの2人以外にとってはなんの前触れもなかった。何よりドンチッチ自身が、「(エイプリルフールの)4月1日なのか確認した。信じられなかった」と、青天の霹靂であったことを認めている。

 では、このトレードがいかに稀有なケースであったのか、4つの視点から振り返ってみたい。

視点①:SNSでの反応

 292.6万人のフォロワーを抱えるシャラニア記者の当該ポストは、1億回以上のインプレッションを記録した。コメントは1.8万件、リポストは10万回、「いいね」は30万といずれも桁外れである。これまで幾度となく移籍情報をリークしてきたシャラニア記者も、「(トレード情報の投稿後は)未読のメッセージが300件近くあったし、電話もひっきりなしにかかってきた」と、その反応の凄まじさを伝えている。

 過去にシャラニア記者が投稿した移籍情報と比較すると、今回の一報のインパクトがいかに驚異的であったかがよく分かる。

 2023年2月9日、リーグ屈指のスコアラーであるケビン・デュラントがネッツからサンズへトレードされたというポストは、約1333万インプレッションだった。そして同年12月10日にポストした、「大谷翔平、ロサンゼルス・ドジャースと契約」という速報が993万インプレッションだ。いずれも十分に“バズった”と言える数値だが、ドンチッチの速報の前ではかすんでしまう。

 それまで一切兆候がなかっただけに、ドンチッチのトレード情報に困惑したフォロワーも多かった。「シャラニア記者のアカウントがハッキングされた」というポストが散見されたほどである。のちにシャラニア記者は珍しく「1000パーセント本当」と念押しのポストをしているが、そうまでしないと収拾がつかなかったのかもしれない。

 なお、ドンチッチのトレードによってマーベリックスのインスタグラムはフォロワーが約70万人も減少。一方のレイカーズは約18万5000人、ドンチッチの個人アカウントも約40万人の新たなフォロワーを獲得したという。ドンチッチのトレードは、わずか数日で延べ100万以上のファンをSNS上で動かしたのである。

レブロンでさえこの件は寝耳に水だった

極めて秘密裏に進められた今回のトレード。レイカーズのチーム編成にも大きな影響を持つというレブロン(左)にも、事前に知らされていなかった 【Christina House / Los Angeles Times via Getty Images】

視点②:トレード実現までのプロセス

 今回のトレードは、マーベリックスのニコ・ハリソンGMがレイカーズのロブ・ペリンカGMに打診したことから動き始めた。25歳の若いエースを放出するというハリソンGMの大胆なアイデアは、1月上旬にレイカーズがダラスへ遠征した際にペリンカGMへ持ち掛けられ、その後議論を進めていったという。のちにハリソンGMは、「2人だけの秘密だった」と明かしている。

 18年の入団以来、マーベリックス一筋でプレーしてきたドンチッチは、フランチャイズプレーヤーと称するに相応しい存在だった。オールNBA1stチームに5年連続で選出され、昨シーズンはNBAファイナルにも進出。これまでも、そしてこれからもダラスにいるものだと、マーベリックスファンはもちろん、他チームのファンでさえそう信じていたに違いない。何よりドンチッチ自身がトレードを望んだことなどなかったのだから。

 ハリソンGMはそんなチームの象徴を、本人への事前通達なしに放出する決断を下したのだ。

 近年のNBAでは、大物のトレードは選手側のリクエストがあって動き出すケースがほとんどである。代理人を交えて事前にすり合わせを行い、極力禍根を残さないよう最大限善処しながら事を進めるのが常だった。先述したデュラントのトレードもこのケースに該当する。

 ドンチッチの交換相手の1人となったアンソニー・デイビスのエージェントは、レイカーズでチームメイトだったレブロン・ジェームズと同じである。そうした関係性にあり、チーム編成にも大きな影響を持つと言われるレブロンでさえ、今回のトレードは寝耳に水だったようだ。そしてドンチッチ同様、デイビスもレイカーズから離れることを望んではいなかった。

 エースのトレードでさえフロントの独断で実行する──。これまでの不文律を破ったとも言える今回の一件は、今後リーグ内のトレード事情に大きな影響を与えるかもしれない。

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著者プロフィール

1983年生まれ、栃木県出身。2006年から14年までバスケットボール専門誌『ダンクシュート』編集部に在籍。『DAZN』を経て、19年から楽天グループ株式会社が運営する『NBA Rakuten』のマーケティング&コンテンツ課に所属。『NBA Japan』、『Number』、『Sporting News』に寄稿経験あり。試合中はプレーよりも選手のシューズに目が行きがち

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