「当たり前にサッカーをできる時間」に感謝 全国自衛隊サッカー大会が5年ぶりに開催

平野貴也

5年ぶりに開催された全国自衛隊サッカー大会の表彰式 【平野貴也】

 コロナ禍を経て、全国自衛隊サッカー大会が、5年ぶりに開催された。4月20日に味の素フィールド西が丘で行われた決勝戦を制したのは「自衛隊最強チーム」として知られる、海上自衛隊厚木基地マーカス(以下、海自厚木マーカス)だった。航空自衛隊入間基地第三補給処(以下、空自三補)を5-3の打ち合いで破り、史上最多21回目の優勝を飾った。
 
 海自厚木マーカスの選手兼任監督を務める大山徹2曹は「社会情勢に左右される大会。当たり前に開催してもらえる大会ではなく、ありがたいという気持ち。(先に再開した)社会人リーグも参加人数が制限され、なかなか全員がそろってサッカーをすることはできなかった。もちろん、自衛官なので、やるべき仕事がある。でも、当たり前にサッカーをできる時間が戻って来て良かった」と久々の大会実施に感謝を示した。

東日本大震災以降、相次いだ大会中止

 「全自(ぜんじ)」の通称で知られるこの大会は、1967年に日本サッカー協会の主催で始まった、自衛隊の駐屯地、基地で活動するチームによる全国大会だ。1976年の第10回大会から全国自衛隊サッカー連盟が運営し、日本サッカー協会が後援に回る形に変わってからも、長く受け継がれ、第57回大会を迎えた。

 ただし、東日本大震災の対応に追われた2011年を皮切りに、近年は災害による中止が増えている。16年には開幕前日に熊本地震が起こり、開催中止。20年以降はコロナ禍で中止。昨年に再開予定だったが、開幕直前に自衛隊機の事故が起きたため、中止となった。今回も1月に能登半島地震があり、陸上自衛隊金沢駐屯地は、全国大会の出場権を得ていたが、出場を辞退した。

競り合う橋本(左)と大山 【平野貴也】

 大会に出場した選手の中には、災害派遣で現地に赴いた自衛官もいる。3位決定戦で勝利した海上自衛隊下総航空基地の鈴木徹2曹は、コロナ禍初期の2020年2月に集団感染が発生して乗客13人が亡くなったクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の除染作業に従事。白い防護服を身にまとい、船内に入ったという。

 今大会は、予選が金沢駐屯地と同じ組だったこともあり「金沢とも対戦したかったけど、プレーできる環境を与えてもらえることに感謝。やっと、大会が戻って来た。僕らは歳をとってしまって、ちょっと大変でしたけど。自衛隊の大会は、県リーグでは味わえないバチバチとした激しさがある」と久々の全国大会で充実感を味わっていた。

 準優勝だった空自三補のFWで、決勝戦の終盤に意地の1点を返した橋本開3曹は、2月中旬に石川県の被災地で生活用水の支援活動に従事。「行きたくても行けない状況だったけど、やっと被災地のために働くことができた。必要最低限の生活が少しずつできるようになっている状況で、完全に復活したわけではない。また行かせてもらえればと思っている」と現地で見た被災地への思いを語った。埼玉県の武南高校、東京国際大学と強豪チームで学んできたサッカーに対する思いは強く、腕を負傷しながらもプレーを続行。久々に日本一を目指して全力を投じた戦いを終え「チームが、この大会に向けてまとまっていた。ずっと溜めていたものを、やっと吐き出せた。この大会は、心に残る」と感慨に浸っていた。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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