ファームに新規参加 新潟&静岡が描く未来構想

“野村イズム”の継承、選手育成、地元ファンへの思い…橋上監督が目指すオイシックスの野球

中島大輔

新ユニフォーム発表会での橋上秀樹監督(写真左)。NPBファームチームを相手に「勝ちにこだわる」と意気込む 【写真は共同】

 BCリーグ時代の2011年、そして10年ぶりに復帰した2021年からオイシックス新潟アルビレックスBCを率いるのが橋上秀樹監督だ。ヤクルトと日本ハムでプレーした後、楽天の野村克也や巨人の原辰徳らを「参謀」として支えた戦術眼が高く評価される。新たな船出を切るオイシックスは元NPB組とドラフト候補で構成されるなか、イースタン・リーグでどの程度互角に戦えるのだろうか。指揮官に、新潟から目指す“野球の形”を訊いた。

とにかく勝ち負けにこだわる

今年は選手にとってNPBの関係者に見られる機会が多くなる。活躍して評価を上げたいところだ 【写真:球団提供】

――BCリーグに所属した昨季まではNPBのドラフトで指名されることが最優先事項だったと思います。イースタンに参戦する今季はNPB復帰を目指す選手が全体の2割を占めますが、チームで目指すものにはどんな変化が生まれますか?

 昨年までに比べると、勝ちに対するこだわりが強くなると思います。もちろん育成の部分もあるけれど、勝つためにという割合が強くなります。

――起用法が変わる?

 起用法も年齢など関係なく、チームにとってベストの選択が一番になると思います。

――オイシックスとNPB球団のファームを比べると、どのくらい力の差はあると思いますか?

 NPBのファームの場合、実力的に結構幅があるんですよ。「待機戦力」と言われる一軍に近い二軍の選手もいれば、育成を少し上がった段階の選手もいる。対して今のうちは、その幅がかなり狭い状態です。NPBの二軍と比べて“上”と“下”がない分、中間層より少し上の部分に厚みがある気がするので、平均するといい勝負ができるレベルだと思います。

 チームによって若干違いはありますが、NPBの二軍は育成メインで考えているところが圧倒的に多いです。そうなると、勝ち負けにはそれほどこだわりがない。でも、うちの球団はNPBで言う一軍がないので、とにかく勝ち負けにこだわってやっていく。そうすることでNPB復帰を目指す選手と、ドラフトの指名を目指す選手にとって、両方の目的がブレずに達成できると思います。

――橋上監督はイースタン参加に当たり「今まで日の目を見なかった選手が正しい評価をされる可能性が高い」と話していました。毎試合が視察の機会になるということですか?

 そうですね。BCリーグでやっているときは、見られるのは編成もしくはスカウトでした。その人たちの目や意見も大事ですが、今シーズンから現場の監督、コーチの意見が反映されるわけです。チームとしては、現場の評価は信憑性として高い。その声は球団も無視できないし、調査という面では進むと思います。

 スカウトや編成だと1人の担当者が何試合かに1回来ますが、ファームリーグでは毎試合のように複数球団の編成担当が視察に来ています。なおかつ対戦相手のファームの首脳陣、もしくはファームディレクターといったフロントの人もいるので、見られる割合は非常に高くなりますね。

――昨年のアルビレックスで、NPB球団からドラフトで指名されても不思議ではないレベルの選手はどれくらいいましたか?

 ファームのレベルで考えるなら、4、5人いたと思います。ただ、そこからの伸びしろは各球団の判断があるので何とも言えないですけどね。これまでスカウトが視察に来たときに実力を発揮できなかった選手が、今季は確実に見てもらえます。たくさん見られることによって正しい評価につながるのかなと期待しています。

新潟に来て育成の楽しみに目覚めた

NPBでは名監督たちの参謀を務めてきた橋上監督。新潟では選手の成長にモチベーションを感じている 【写真:球団提供】

――橋上監督は昨季までアルビレックスで通算5年間指揮してきました。NPBでの指導歴も長い一方、アルビレックスにい続ける動機は何が大きいのですか?

 NPBの指導はほとんど一軍でした。育成という面の喜びはあまり感じる機会がなかったんですよね。独立リーグに来て初めて育成の喜びや、選手の成長の楽しみを感じたんですよ。指導者として、NPBでは目の前の試合の勝ち負けに対して非常に喜びを感じたけれど、新潟に来てもう1個の楽しみに目覚めたというか、気付かされたというか。そこですかね。

――NPBでは楽天時代の野村克也監督をはじめ、多くの指揮官の「参謀」を務めました。その経験は今、どう生きていますか?

 NPBの一軍で参謀を務めて「こういう選手が足りない」という状況がいっぱいありました。逆に言えば、「一軍ではこういう戦力も必要とされる」と頭の中に入っています。ドジャースの大谷翔平選手のようにどのチームに行っても戦力という選手ばかりでなく、脇役的な存在も必ず必要になる。今アルビにいる選手がNPBに行くとして、どういう役割だったら入っていけるのかと考えて、それを目標に育成していく楽しみがあります。

――陽岱鋼選手にはどういう役割、影響を期待しますか?

 NPBの実績で言うと、うちで彼はナンバーワンだと思います。アメリカの独立リーグでやっていた経験も含めて話してもらうだけでも、若い選手にプラスが多いと思います。

――獲得する選手について橋上監督は要望を出すのですか?

 一切出さないです。球団と、(チーム強化アドバイザー兼投手コーチの)野間口貴彦くんが編成にも携わっているので任せています。ですから私は「この選手を獲得します」「この布陣で」と言われたところでチームづくりを始めます。

――そういう関係性の方が組織としてうまくいくと、これまで各球団を見て感じているのですか?

 野村克也の考えがそうだったんですよ。監督の好き嫌いで選手を集めたら、監督が代わったら選手も総取っ替えしようとなりかねないじゃないですか。NPBの監督の任期は短いですよね。そう考えると監督が代わったことで選手が左右されると、球団も振り回される可能性がある。ある程度安定させるためには、編成は編成で、フロントの仕事はフロントの仕事として分けた方がいいというのが野村克也の考えでしたから、私もそれに沿っているのはありますね。

 NPBでは編成に口を出す監督も見ましたけど、いいときと悪いときがすごくはっきりします。そういったところでは、監督が編成にあまり口を出さないチームの方が波が少ないように感じます。

1/2ページ

著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント