ファームに新規参加 新潟&静岡が描く未来構想

「無」からの冒険に挑むくふうハヤテ 池田省吾社長が描く「NPBにはできない」新たな可能性

岩国誠

1月24日にユニフォームを発表したくふうハヤテベンチャーズ静岡。3月15日の開幕に向けて膨大な準備に追われている 【写真:岩国誠】

「そもそもボール1つもなかったので、そこからでしたね」

 そう話すのは、静岡に誕生した新球団「くふうハヤテベンチャーズ静岡」の球団社長・池田省吾氏。語り口は穏やかだったが、ここまでの道のりは決して簡単なものではなかった。連日準備に追われている池田氏に、忙しい時間の合間を縫って話を聞いた。

静岡はサッカーの街かと思いきや

3連休最終日の2月12日の「ちゅ〜るスタジアム清水」のスタンド。約100人もの熱心なファンがグランドに熱視線を注いでいた 【写真:スリーライト】

 今回、ファーム・リーグに新規参入する2球団には大きな違いがある。

 2007年から独立リーグのBCリーグで活動してきた新潟アルビレックスBC(現在の球団名はオイシックス新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ)とは違い、静岡で新たに誕生したくふうハヤテには母体となる球団が存在しない。池田氏は文字通り、ゼロからのチームづくりをしていかなければならなかった。

「独立リーグより事業規模が倍以上になりますが、やっぱり、なかなか厳しいビジネスモデルだと思っています。独立リーグに比べるとスタッフの人数はいますけど、やはり最少人数で回していかないといけないので、そういうところでは独立リーグの経験が活きてくると思っています」

 静岡で活動を始めて、池田氏がまず感じたことは予想以上の野球熱だった。

「私は九州出身なので、静岡は縁もゆかりもなかった土地です。ですから『静岡はサッカーの街』だと思っていたので『どうやって攻めて行った方がいいのかな』と悩んでいました。そんな時(2022年12月)に、地元の方々と意見交換を行う機会があり、そこで『静岡は、清水は野球の街だ』と言う方がいらしたんです。思えば静岡の東部、中部、西部にそれぞれ高校野球の名門校があって、多くの名選手が出ている。野球が好きな方は非常に多いと感じましたね」

 元々静岡では、2011年に初当選し、今年4月に退任した田辺信宏元静岡市長が長年、球団誘致に向けた活動を続けていた。

 そうした中で近年、NPBからファーム・リーグ拡大構想が打ち出された。静岡で球団を立ち上げる企業を探す中で「スポーツ事業で日本に活気を取り戻したい」と考えていたハヤテグループ代表・杉原行洋氏のところに話しが舞い込み、静岡での新球団立ち上げが具体化していった。

「(杉原オーナーの元には)それこそ、JリーグやBリーグなどからもお話があったそうですが、そこにNPBの野球振興というワードが飛び込んできたので『こんなチャンスがあるのか、是非やりたい』と、話を受けたと聞いています」(池田氏)

 杉原氏は東京大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券株式会社にて、株式トレーディング業務に従事。2005年にハヤテグループを立ち上げると、2019年7月には「Forbes JAPAN」の表紙を飾るなど経済界では著名な人物だが、スポーツ事業は本職とするところではない。

 そこで、独立リーグの四国アイランドリーグPlusで福岡レッドワーブラーズの立ち上げ(2008年)に関わり、香川オリーブガイナーズで球団代表を務めた経験(2015、16年)を持つ池田氏に白羽の矢が立ち、新球団の社長に就任した。

当初は怪しい人たちだと思われていた

シンプルでかっこいいと評判のくふうハヤテのユニフォーム。ここにどれだけのスポンサーロゴがつくだろうか 【写真:岩国誠】

 今年1月16日には都内で球団名を発表。翌週の24日には清水市のホテルで所属選手37名と新ユニフォームを同日に発表し、翌日からキャンプイン。3月15日のファーム・リーグ開幕に向け、慌しくも順調に準備を進めているように見えるが実際はどうなのか。

「今も大変ですよ。ゼロからなので、杉原オーナーも初年度は初期投資の方が大きくなるのは覚悟していると話しています。移動用のバスなど、やはり買わなければいけないものが多いですからね」

 母体球団がないということは、道具も設備も選手を含めた人材も新しく確保していかなければならない。そこで必要になってくるのがやはり「お金」である。

「独立リーグとは規模感が違う分、当然コストもかなりかかってきます。(運営資金は)どうしてもスポンサー様に頼らざるを得ない部分がありますが、ファーム・リーグを戦うチームですので、広告価値は独立リーグに比べると1つ上がると思っていますし、そこをうまく活用したいと思っています」

 新球団を支えてくれるスポンサーの獲得は至上命題。ただ、静岡での野球熱は感じたものの、スポンサーとなると話は別だった。当初は二の足を踏む企業が多かったと振り返る。

「9月に内定をいただいてから、11月の正式承認までの間に、スポンサーのセールス活動を水面下で行ってはいたのですが、本当に(NPBに)参戦するかわからない球団に、いきなりスポンサーになってくれるところはなかなかなくて・・・、やっぱり怪しい人たちだと思われていたみたいです」

 杉原オーナーの人脈と営業努力もあって、静岡で地元webメディアをはじめとした事業を展開している「くふうカンパニー」とは球団名を、静岡市清水区に本社を置く「いなば食品」とは球場名のネーミングライツ契約をそれぞれ締結。今は少しずつ、風向きが変わっていると池田氏は感じている。

「多くのメディアのみなさんに取材していただき露出が増えたことと、実際にチームが始動したことで『本当に(静岡に)野球チームができたんだ』という感じになってきて、やっと最近、いろんなところから問い合わせをいただけるような状況にはなってきました。本当にこれからだと思っています」

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著者プロフィール

1973年3月26日生まれ。俳優志望に見切りをつけ、32歳でプロ野球を取り扱うスポーツ情報番組のADとしてテレビ業界入り。Webコンテンツ制作会社を経て、フリーランスに転身。それを機に、フリーライターとしての活動を始め、ロッテ、西武を取材。現在も映像ディレクターとwebライターの二刀流でNPBと独立リーグの取材を行っている。

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