24年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

自動昇格争いは山形、千葉、横浜FC、清水に絞られた!? 3人のエキスパートによるJ2展望座談会【前編】

飯尾篤史

優勝候補同士による開幕戦の好カードは、アウェイの山形に軍配。千葉は小森(写真)、山形は氣田ら実力者を加え、ともに充実の戦力で自動昇格を狙う 【(C)J.LEAGUE】

 2024年シーズンのJ2リーグが2月24日に開幕した。今季からチーム数が2減の20チームになった一方で、自動降格は1増の3チーム。これまで以上の激戦が予想されるシーズンを展望すべく、今年もJ2を知り尽くす3人のライターによる恒例の座談会を開催した。水戸ホーリーホックに密着する佐藤拓也氏、J2全体を満遍なくカバーする土屋雅史氏、そして、ベガルタ仙台とレノファ山口を中心に追いかける池田タツ氏に登場を願い、20チームをA、B、Cとクラス分けしてもらった上で、各チームの陣容と可能性について話をうかがった。(文中敬称略/座談会は2月20日に実施)

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サイドをさらに厚くした山形の本気度

──20チーム編成となった今年も、上位陣は変わらず1位と2位が自動昇格、3~6位がJ1昇格プレーオフ出場となります。ここでは、この上位6チームをAクラスとしましょう。みなさんが共通してAクラスに挙げているチームは4つありますが、まずはモンテディオ山形(昨季5位)から、それぞれが推す理由を教えてください。

●Aクラス予想(※並び順は北から)
佐藤:山形、水戸、千葉、横浜FC、清水、岡山

土屋:山形、千葉、横浜FC、清水、岡山、長崎

池田:仙台、山形、千葉、横浜FC、清水、大分


佐藤 昨シーズン、序盤戦で勝てずに苦しんでいたチームを、途中就任の渡邉晋監督が最終的に昇格プレーオフ圏内にまで引き上げましたが、その渡邉さんと山形というチームの相性が非常にいいように思うんです。2年目の今年は、古巣のベガルタ仙台からMF氣田亮真を引き抜くなど、昨シーズン以上に渡邉さんのやりたいサッカーができる布陣が仕上がったんじゃないかと。

土屋 今年はシーズン頭から指揮を執れますしね。昔はやりたいことがはっきりしていて、ある意味スタイルを貫くのが渡邉さんの魅力だったんですが、昨シーズンを見ていても采配にすごく幅が出てきた。実際、「選手から発揮されるものが戦術を決める」みたいなこともおっしゃっていますしね。

 しかもこのオフは、J2全体を見ても1番と言えるくらいの効果的な補強を実現しています。主力ではセンターバックの野田裕喜(→柏レイソル)と左サイドバックの小野雅史(→名古屋グランパス)が抜けましたが、その両ポジションができる安部崇士(←徳島ヴォルティス)を獲りましたし、22年にロアッソ熊本が初めて昇格プレーオフに進出したときの両ウイング、杉山直宏(←ガンバ大阪)と坂本亘基(←横浜FC)も加入。このクオリティの選手たちがやって来るということは、クラブとしての魅力がある証拠でしょう。今年はかなりいいところまで行くんじゃないかと見ています。

池田 渡邉監督は常日頃から、「今の時代、一番重要なポジションはサイド」だと話していて、すでにイサカ・ゼインや横山塁といった昨シーズンに活躍した選手がいるにもかかわらず、そこにさらなる補強をしてきた。5人交代制になって、僕はここをどれだけ分厚くできるかがこれまで以上に重要になると思っているんですが、それを完全に理解した形で戦力を上積みしています。最近のJリーグは「点が取れるチーム」が勝てる傾向にあるので、そういった意味でも前線に厚みを加えたオフの補強からは本気度が伝わってきます。僕はストレートイン(2位以内)を予想していますよ。

──おっ、断言されましたね(笑)。あとはジェフユナイテッド千葉(昨季6位)、清水エスパルス(昨季4位)、横浜FC(昨季J1の18位)の3チームも、3人が共通してAクラスに入れています。千葉の前評判が、例年以上に高いですね。

佐藤 監督初挑戦だった昨シーズン、理想を追求しすぎて序盤戦はなかなか結果が出なかった小林慶行監督ですが、6月の水戸ホーリーホック戦で1-4の大敗を喫して吹っ切れた。勝つことに特化したチームというか、それまでとはやり方をガラッと変えたんですね。そこから急浮上してプレーオフ圏内に入りましたし、そういった経験を積んでの2年目なので、最初から理想と現実のバランスを取ったなかでスタートを切れるんじゃないかと思います。

 10番を背負っていた見木友哉(→東京ヴェルディ)が移籍したのは痛いかもしれませんが、それでもその10番を引き継いだエースの小森飛絢が残留したのは、ある意味“最大の補強”と言えるでしょう。プレシーズンのちばぎんカップ(2-1で柏に勝利)でも先制点を奪いましたが、ここ一番で決めてくれる小森みたいな選手の存在は、昇格を目指す上でかなり大きい。間違いなく6位以内には入ってくると予想しています。

土屋 昨シーズンの千葉は、いい意味で見木頼みのチームではなくなっていたイメージがあります。もちろん流出は痛いですが、過去2年に比べたら、そこまでダメージは大きくないのかなって。小森に加えて、J2有数の左サイドバックの日高大が残ったのもプラス材料でしょう。

 個人的に“ポスト見木”の候補として期待しているのが、藤枝MYFCから加入した横山暁之。22年はJ3で13ゴール・8アシスト、昨シーズンはJ2で6ゴール・8アシストと結果も残しています。ヴェルディユース出身で華やかなイメージがありますが、実は北陸大を卒業後、プロになるために1年浪人して、辛うじて当時J3の藤枝に入った苦労人。そうやってステップアップしてきて、ついにJ1を狙えるクラブにたどり着いたっていうストーリーは、なんだかすごく夢があるなって思いますね。

池田 昨シーズンの後半戦、リーグで一番強かったのは千葉だったと僕は思っているんですけど、キャンプから練習試合を見させてもらっても、ちばぎんカップを見ても、その印象は変わりませんでした。どんなに悪くてもAクラスには入るでしょうね。

 “J2あるある”で、プレーオフに進出しながら昇格できなかったチームは、主力を大量に引き抜かれるっていう問題があるんですが、今年の千葉はそれをある程度、食い止められた。小森が残りましたし、ジュビロ磐田から加入したエドゥアルド(磐田時代の登録名はドゥドゥ)はまさに「献身的」という言葉が似合う、見木とはまた違った個性の持ち主で、複数ポジションに対応できる賢さもある。右サイドの田中和樹もレンタルから完全移籍に移行しましたし、補強収支はもしかしたらプラスに傾くかもしれません。

J2で福森のフリーキックは“反則級”

四方田監督のフレキシブルな采配とともに、J1復帰を狙う横浜FCの大きな強みとなりそうなのが、新戦力・福森(中央)が自慢の左足から繰り出す正確無比のFKだ 【(C)J.LEAGUE】

──“ズッ友”感のあったヴェルディも昨シーズンに昇格しましたし、千葉にとっては勝負の年になりそうですね。では、続いて横浜FCを見ていきましょう。土屋さんからお願いします。

土屋 自動昇格圏に十分食い込んでくると思います。昨シーズンはハイプレス&攻撃的なサッカーでJ1に挑んで、10節までまったく勝てなかったんですが、そこからJ2時代の守備的な戦い方に変えて、徐々に結果を出していった。上手くいかないときに、いい意味で割り切れるというか、方針を転換できる四方田修平監督のフレキシブルさは、長いシーズンを戦う上で非常に重要になってくると思います。

 さらに福森晃斗(←北海道コンサドーレ札幌)の加入で、セットプレーから10ゴールくらい上積みされそうな期待感もあります。横浜FCには桐光学園の大先輩でもある中村俊輔コーチがいますから、その左足のフリーキックがより際立つんじゃないかと。

池田 J2で福森のフリーキックは“反則級”ですよ。それにかつて札幌を指揮した四方田さんは、日本で一番“福森操縦術”を心得た監督でもありますからね。彼の左足を生かすための戦術を用意してくるでしょう。他にも教え子を何人か獲得していて、特に中野嘉大(←湘南ベルマーレ)も加わった左サイドは面白くなりそうです。

 正直、J2では圧倒的な戦力を有していますし、四方田さんのサッカーも安定しているというか、なかなかコケることがない。昨シーズン序盤戦のような無理をせず、普通にやれば結果は出るんじゃないかな。

佐藤 かつての横浜FCって我慢ができないクラブで、結果が出ないとすぐにチームをガラッと変えてしまうところがあったんですが、今シーズンはJ2に降格したにもかかわらず、四方田監督を続投させた。そこに僕はクラブとしての進化を見たような気がして。J2ではトップクラスの戦力を、四方田さんがしっかりとコントロールすれば、確実に6位以内には入ってくるでしょう。

 あとは、みなさんも言うように福森の存在。クラブ公式のSNSでフリーキックの動画を見ましたが、めちゃくちゃ精度が高くて……、正直、水戸はこんな選手と対戦しなきゃならないのかと(笑)。戦力差がある相手との試合では、守備を固められるケースが多いと思いますが、それをこじ開けるセットプレーという武器を持っているのはすごく大きいし、昇格を狙う上で絶対的な要素になると思います。

──お三方が共通してAクラスに挙げている最後のチームが清水です。昨シーズンはあと一歩で昇格を逃しましたが、まずは池田さん、今年のチームの印象はどうですか?

池田 キャンプが始まったあとで獲得したふたりのブラジル人選手(FWルーカス・ブラガとFWドウグラス・タンキ)は未知数ですが、レンタルやレンタルバックの選手だけでは満足しないというクラブの前向きな姿勢が見えましたし、戦力的には横浜FCに次ぐレベルにあると思っています。なにより、J2では別格の乾貴士、権田修一というベテランふたりの存在がかなり大きい。

佐藤 昨シーズン、相当悔しい想いをしたであろう秋葉忠宏監督にとっては、真価が問われる2年目になるでしょうね。昨年は4月にコーチから監督に昇格して、途中就任でチームを立て直した手腕が評価されましたが、最初から指揮を執る今シーズンは、この潤沢な戦力をどう生かし、どんなサッカーを見せるのかが問われています。

 昇格を逃した時点で、おそらく移籍するだろうと思っていた山原怜音と原輝綺の両サイドバックも残留して、ちょっと恐怖も覚えてしまうような陣容ですが、これを上手くまとめられるかどうかは、秋葉さんの今後の監督としてのキャリアにも大きく影響するんじゃないかと。かつての水戸の監督ですから、個人的には昇格を果たして喜んでいる姿を見てみたいですけどね。

土屋 昔から清水のアカデミーは優秀で、これまでも多くの選手がトップチームに昇格していますが、昨年のJ1昇格プレーオフ決勝では、スタメンにアカデミー出身者がひとりもいなかったんです。思うようなパフォーマンスを発揮できなかった西澤健太や北川航也あたりは、今シーズンにかなり強い気持ちで臨むでしょうね。

 そのヴェルディとのプレーオフ決勝も含めて、昨シーズンのラスト3試合はいずれも引き分けで、40節にはロアッソ熊本にホームで敗れるなど、終盤の勝負所でなかなか勝ち切れなかった。そういった場面で力を与えるのが、僕はアカデミー出身者のクラブへの帰属意識だと信じているので、今年は彼らのさらなる奮起に期待したいと思っています。なかでもイチ推しはFC今治からレンタルバックしたストライカーの千葉寛汰ですが、他にもユース育ちではありませんが、198センチの大型FW森重陽介、市立船橋から加入した高卒ルーキーの郡司璃来と、将来有望なタレントが少なくありません。今シーズンの清水ではこういった若手の台頭も、すごく楽しみにしています。

──共通するAクラス4チームに触れたところで、みなさんの自動昇格チーム予想を聞かせてもらえますか?

佐藤 僕は清水と千葉を推しています。

土屋 現時点では、山形と横浜FCですかね。

──池田さんは先ほど山形のストレートインを予想されていましたが、もう1チームは?

池田 横浜FCか清水、でしょうね。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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