2024シーズンJ2戦力ランキング 清水と横浜FCがやや抜けているが…
記事
J1編に続いて、2024シーズンのJ2全20クラブの戦力ランキングをお届けする。「攻撃力」「守備力」「選手層」「監督力」「完成度」という5項目について各20点満点で評価し、その合計ポイントによって導き出した。果たして、どんな順位になったのか。
(監修:河治良幸)
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解説
昇格を狙えるチームは多いが清水と横浜FCがややリード
J2はやはりJ1以上に戦力の入れ替わりが激しい。それは前シーズンに活躍した選手が軒並み、J1クラブに引き抜かれてしまうからだ。そうした状況でも主力の流出を極力抑えた上で、効果的な補強に成功したクラブは当然、評価が高くなる。
ただし、新戦力が多ければチームの「完成度」は下がり気味になりやすい。もうひとつは監督が交代か、続投かということも重要になるが、昨シーズンの1位だったFC町田ゼルビアの黒田剛監督と2位だったジュビロ磐田の横内昭展監督がどちらも就任1年目だったように、指揮官の手腕次第でチームを構築する時間が少ないハンデをカバーできるのもJ2の傾向だ。
総合力では、ナンバー1は清水エスパルスだろう。昨シーズンは惜しくも最終節に自動昇格を逃し、昇格プレーオフも決勝で東京ヴェルディに敗れたが、得失点差+44はJ2優勝で昇格した町田と並んで1位だった。引き続き、秋葉忠宏監督が指揮を執る分、チームのベースは保たれている。ただし、キャプテンでディフェンスリーダーだった鈴木義宜が、J1の京都サンガF.C.に移籍したマイナスを簡単には補えないと見て「守備力」を17、「完成度」もやや抑えめに17とした。
攻撃面ではFWチアゴ・サンタナがJ1の浦和レッズに去ったが、開幕直前に昇格のラストピースとしてトルコ2部のコジャエリスポルから188センチのFWドウグラス・タンキを獲得。ザスパクサツ群馬、アルビレックス新潟に在籍したこともあるストライカーはモチベーションも高く、乾貴士、カルリーニョス・ジュニオ、ブラジルのサントスから加入のルーカス・ブラガなどとのコンビネーションがハマれば、J2最高の攻撃力を発揮する可能性がある。あとは良くも悪くも調子の浮き沈みが起きやすいチームを熱血の指揮官がどう導いていくか。開幕節がいきなりロアッソ熊本という厄介な相手とのアウェー戦になるが、スタートで躓かないかどうかもポイントになる。
その清水に純粋な戦力で対抗できるとしたら、J1から降格してきた横浜FCだ。昨年の後半戦は残留争いのため、守備的な戦術を採らざるを得なかった。3年目となる四方田修平監督が、個性的なタレントが揃ったチームをどうまとめて、導いていくのか。攻守両面でバランスのいいメンバー構成で、「攻撃力」も「守備力」も18、「選手層」は19としたが、新加入選手がレンタルバックを含めて16人ということもあり、「完成度」は15に。逆に言うと、既存の戦力と新戦力が早い段階で噛み合えば、清水を超えるチーム力にもなり得るということだ。
小林慶行監督の戦術が浸透した千葉は注目のチームだ
総合値で3番目になったのが、秋に新スタジアムのこけら落としとなるV・ファーレン長崎だ。昨シーズンは7位で、惜しくも昇格プレーオフを逃してしまった。クラブにとってさらにショックだったのは、続投が決まっていたファビオ・カリーレ監督がブラジルの名門サントスと勝手に契約を結んでしまったこと。指揮官を失ったばかりか、FIFAへの提訴に踏み切るなど、心身をすり減らされた。
それでも、一旦コーチとしてキャンプで指導にあたっていた前大分トリニータの下平隆宏新監督の下、昇格に向けてリスタートしている。
攻撃陣は昨シーズン26得点のフアンマ・デルガドが健在で、昨年はケガで後半戦をほぼ棒に振ったエジガル・ジュニオとの“ダブルエース”でJ1昇格に挑む。「攻撃力」は19としたが、開幕からの爆発次第で20に引き上げることになってもおかしくない。あとは下平監督が、中盤でボールを握るスタイルをいかに構築して、ゲームを支配していけるか。昨年は失点が多かった(56失点)だけに、ディフェンスの再構築も鍵になる。
総合4位のジェフユナイテッド千葉を、筆者は昇格候補のひとつとして見ている。全体的なバランスが良く、「組織力」という評価項目があれば最も高い数値にしているはずだ。小林慶行監督の継続路線による高い完成度を活かして、うまくスタートを切れるかどうか。「監督力」はこれまでの実績などから16にしたが、昨年惜しくも昇格を逃した経験を糧に、勝負強い采配を見せればシーズン中に評価が上がりそうだ。
「攻撃力」は17。若きエースとして期待される10番のFW小森飛絢が得点王を争うくらいの活躍をした上で、藤枝MYFCから加入のMF横山暁之あたりもゴール、アシストという目に見える結果を残せるか。
戦術的なキーマンは磐田から加入のMFエドゥアルド。古巣では“ドゥドゥ”と呼ばれていたが、千葉には同名のFWがおり、エドゥアルドの登録名で落ち着いたようだ。ポリバレントなMFで、磐田では左右のサイドハーフ、ボランチなど様々なポジションで好パフォーマンスを見せた。小林監督の起用法が注目される。パリ五輪世代の有望株であるGK藤田和輝が、新天地でディフェンスにさらなる安定をもたらせるかも見どころだ。
千葉と並ぶ総合値84のモンテディオ山形は、昨シーズンは途中で監督が交代しながらも、後半戦に巻き返してプレーオフに進出した。今シーズンも引き続き渡邉晋監督が率いる。
自動昇格を狙うには、得失点差を昨シーズンの+10から+30ぐらいには引き上げる必要がある。そのためには昨年10得点のエース藤本佳希のさらなる活躍はもちろん、2022年のJ3ベストイレブンだったFW有田稜ら他の選手の奮起も期待される。「守備力」は15としたが、渡邉監督が組織的ディフェンスの完成度を高めることができれば、昇格にも近づくだろう。
大分は“カタノサッカー”でJ1昇格を目指す
以上の5チーム以外にも、ヴァンフォーレ甲府、大分、熊本が合計値80以上で、この3チームも自動昇格の争いに絡む有力候補と見ている。
甲府は2023-24シーズンのACL(AFCチャンピオンズリーグ)でノックアウトステージに勝ち上がっており、ライバルよりも公式戦の始まりが早く、体力的にはタフな日程を強いられる。しかし、それだけチームの強度が上がった状態でJリーグ開幕を迎えられるため、うまくスタートを切れると一気に勝ち点を積み重ねていくかもしれない。中盤や最終ラインの主力をJ1クラブに引き抜かれて、チームの再構築が必要なため「完成度」は16としたが、そこもACLで実戦を重ねることで多少、カバーできるかもしれない。
大分はかつてJ3からJ2、さらにJ1に昇格させるなど、チームを6シーズン率いた片野坂知宏監督の復帰が最大のニュースだ。「監督力」の評価はマックスの20とした。J2の中では比較的、選手の入れ替えが少ないのも強みになるが、戦術面は変更点が少なくないと考えられるため「完成度」は16としている。智将が“カタノサッカー”を植えつけることができるか。
第一次政権のラストイヤーだった3年前から陣容は大きく変わっているが、かつての教え子であるMF町田也真人やMF梅崎司などの存在は大きい。いずれも16とした「攻撃力」と「守備力」も、戦術的な機能性が上がればアップが見込める。
「監督力」19とした大木武監督が率いる熊本は昨シーズン、一時は残留争いを強いられながら、終盤戦に巻き返して14位でフィニッシュ。前年にJ1・J2入れ替え戦まで勝ち進んだことで、主力のほとんどをJ1クラブや資金力のあるJ2のライバルに引き抜かれたことが影響した。それでも天皇杯ではJ1クラブを次々と打ち破ってベスト4まで勝ち上がるなど、終盤戦に見せた強さはプレーオフに参加したクラブにも匹敵するものがあった。司令塔の平川怜がJ1昇格の磐田に移籍したが、中核の選手が多く残留しており、チームの「完成度」は18と高く評価した。
森山佳郎新監督率いる仙台など、上位進出へ虎視眈々
ここまでに挙げた8クラブに加えて、プレーオフを含めた昇格争いに絡んできそうなのが、ファジアーノ岡山、群馬、ベガルタ仙台、徳島ヴォルティス、藤枝、ブラウブリッツ秋田あたりと見る。
木山隆之監督が3年目の岡山は選手の入れ替わりの激しさが気になるものの、横浜FCからGKスベンド・ブローダーセン、かつて名古屋グランパスや北海道コンサドーレ札幌でプレーしたFWガブリエル・シャビエルを獲得。ポテンシャルはあるだけに、個性派集団がうまくまとまると、大躍進する可能性はある。
“組長”こと大槻毅監督が3年目の群馬はJ1に“個人昇格”の選手を送り出しながら、地道にチーム力をアップさせてきた。17と評価したディフェンスのベースがしっかりしており、開幕節から良いスタートを切ることができれば、プレーオフ争いには絡んできそうだ。
仙台はU-17日本代表を率いた森山佳郎監督の下で、リスタートする。新指揮官を迎え、しかも主力を含む14人の選手が去ったため「完成度」は13としたが、ポテンシャルは非常に高く、ブラジルのヴィラ・ノバから加入のFWエロンら新戦力はもちろん、熱血監督の指導で23歳のMFオナイウ情滋や川崎フロンターレから育成型期限付きで加入した19歳のMF名願斗哉などが大きく伸びれば、驚きのジャンプアップもあり得る。
徳島はスペイン人監督によって引き継がれてきた“欧州風”のスタイルに、吉田達磨監督が流動性をブレンドして、悲願の昇格を目指す。選手の流出は極力抑えられた印象で、13得点の森海渡がいなくなった前線を昨年J3アスルクラロ沼津で13得点のFWブラウン・ノア賢信が引っ張れるか。
須藤大輔監督が率いる藤枝には札幌から期限付き移籍で大型FW中島大嘉(昨季はシーズン途中から名古屋でプレー)、秋田には松本山雅FCでJ3得点王に輝いたFW小松蓮というエース級の働きが期待できる新戦力が加入した。藤枝は17の「攻撃力」、秋田は16の「守備力」に強みがある。その強みを活かしながら、藤枝は「守備力」、秋田は「攻撃力」をアップさせていけるか。
昇格組の愛媛FCと鹿児島ユナイテッドFCは簡単な戦いにはならないだろうが、早くJ2の強度に慣れて、シーズン中に成長できるかどうか。また総合18位となった栃木SCは田中誠新監督を百戦錬磨の“ヤンツー”こと柳下正明コーチが支える実質的な二頭体制であり、それを加味すれば「監督力」は18ぐらいでもいいかもしれない。選手も半数が入れ替わったが、昨年J3テゲバジャーロ宮崎で10得点を記録した伸び盛りのFW南野遥海など、面白いタレントが揃っているだけに、旋風を巻き起こすような躍進に期待したい。昨シーズン何とか残留したレノファ山口FCは、組織的な守備の構築に定評のある新任の志垣良監督が、1年目から勝ち切れるチームにできるかどうか注目だ。
(企画・編集/YOJI-GEN)