24年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

町田は躍進の可能性も!? 柏や湘南は意地を見せたい キャンプ密着の識者3人によるJ1展望座談会【後編】

青山知雄

新加入の荒木(中央)が2ゴールを決め、C大阪との開幕戦でドローに持ち込んだFC 東京。充実補強にふさわしい結果を得られるだろうか 【(C)J.LEAGUE】

 Jリーグを日々追いかけ、このオフも精力的にキャンプ取材を行った3人の識者、河治良幸氏、飯尾篤史氏、舩木渉氏による、2024年シーズンのJ1リーグ展望座談会。AクラスとBクラスについて評価してもらった前編に続き、後編では残りのBクラスとCクラスについて、各チームの戦力を分析していただく。(文中敬称略/座談会は2月19日に実施)

FC東京は今季こそ“万年中位”の雰囲気を払拭したい

●Aクラス予想(※並び順は北から)
河治:鹿島、浦和、川崎F、横浜FM、神戸、広島

飯尾:浦和、川崎F、名古屋、C大阪、神戸、広島

舩木:浦和、川崎F、横浜FM、G大阪、神戸、広島

●Bクラス予想(※並び順は北から)
河治:札幌、FC東京、町田、新潟、名古屋、C大阪、福岡、鳥栖

飯尾:鹿島、FC東京、町田、横浜FM、磐田、G大阪、福岡、鳥栖

舩木、鹿島、FC東京、町田、新潟、名古屋、C大阪、福岡、鳥栖


※詳しくは前編をご確認ください。


──続いて皆さんがBクラスに選んだチームを北から順に見ていきましょう。まずはFC東京です。

河治 面白い補強をしているけど、ポイントは中盤がどういう構成になるのかですね。ピーター・クラモフスキー監督の思考と選手のバランスがどうなっていくのか。例えば、松木玖生が本当に最初からシーズン戦うつもりでいたのか、移籍先を探りながらも残留したのか、夏の海外移籍を見越しているのか。高宇洋(←アルビレックス新潟)を獲得した経緯と思惑は見えないですけど、中盤は選手がそろっているので、そこをどう整理して戦力化していくのか気になっています。最終ラインとか前線のディエゴ・オリヴェイラや右の仲川輝人は安定しているので、そこにどんなプラスを加えていくか。何か新しいものをプラスしていかないと、Aクラス=6位以内には入れない。まずは昨年と同じような評価をしておいて、どんな驚きがあるかを楽しみにしたい感じですね。

飯尾 僕も補強で言えば、FC東京はAクラスだと思います。遠藤渓太(←ブラウンシュヴァイク)、荒木遼太郎(←鹿島アントラーズ)、小柏剛(北海道コンサドーレ札幌)、高宇洋と、中盤から前線にかけてのタレントをピンポイントでしっかり補強している。その一方で、波多野豪(←V・ファーレン長崎)や品田愛斗(←ヴァンフォーレ甲府)、安田虎士朗(←栃木SC)といったアカデミー出身で、武者修行に出していた選手たちも復帰した。「満を持して」なのかどうかは分からないですけど、シーズンオフの動きはすごく理想的だったと思います。ただ、FC東京はこれまでも補強や戦力と順位が見合わないことが少なくないので。

──そこをもう少し言語化してもらえますか?

飯尾 “万年中位”の雰囲気みたいなものを払拭できるのか。クラモフスキー監督は清水エスパルス時代も、モンテディオ山形時代も結果を出せていないし、FC東京の監督には昨シーズン途中に就任しましたけど、そこまでの色を出せたわけでもない。それに経営体制が変わって、昔ながらのFC東京らしさが薄れてきている気もします。エンブレム変更においてもファン・サポーターからの支持を得られなかった印象ですし。優勝するチームが醸し出すピッチ外での一体感のようなものがちょっと感じられない。長友佑都とか、松木とか、素晴らしいメンタリティの選手たちがいるのに、もったいないなと感じます。

河治 確かにそれはあるよね(苦笑)。言葉にしにくいけど、どこかうまくいかない空気が流れている。

舩木 この流れで僕がしゃべるんですか?(苦笑) 僕はピーターさんをマリノスのコーチ時代に見ていますけど、正直、勝たせる監督ではない印象ですね。勝負どころで大きな決断をするとか、未来を信じてブレずに貫き続けるとか、そういうタイプじゃない。ちょっとうまくいかないと日和って何かを変えて、それで悪循環になったりする傾向がある。今年に関しては選手層の拡充で選択肢が増えたぶん、できることも増えると思うんです。ただ重要なポジション……例えば、ディエゴ・オリヴェイラは依然として代えがきかなくて、もしケガなどで不在になったとき、どう対応するのか読めない。

 本気でタイトルを狙おうとするとき、その味を知っている仲川輝人はチームに厳しく発破を掛けられるタイプですが、これまで“なあなあ”にしてきた部分をチームとしてしっかり改善して、高みを目指すために団結できるかというと、ちょっと疑問符が付くんですよね。クラブとしてもチームとしても優勝争いをした経験は19年シーズンくらいと少ないですし、一方で経験豊富な選手が多くいるがゆえの難しさもある。タイトルを掴み取るために今まで大事にしてきたものを変える決断ができるかという部分が分からなかったので、中位に置いています。

町田はサプライズを起こす可能性あり!?

戦い方が安定していて、充実した補強を敢行した町田は、昇格1年目ながらサプライズを起こす可能性がありそうだ 【(C)J.LEAGUE】

──同じく全員が中位にピックアップしたのが、J1昇格初年度のFC町田ゼルビアです。

飯尾 町田は今シーズンの“台風の目”というか、サプライズを起こすかもしれないと思っています。黒田剛監督のサッカーって、とにかく徹底しているじゃないですか。インテンシティも、戦うところも、ちょっといやらしいところも含めて(笑)。そこにプラスして、昌子源(←鹿島)、イブラヒム・ドレシェヴィッチ(←ファティ・カラギュムリュク)、ナ・サンホ(←FCソウル)、オ・セフン(←清水)、谷晃生(←FCVデンデルEH)とセンターラインにJリーグで実績のある選手を獲得している。GKに関しては水戸ホーリーホックからJ2屈指のGKだった山口瑠伊を獲ったと思ったら、ベルギーから谷まで呼んだ。本当に抜け目ないなと。

 そういうどん欲さは、まさにサイバーエージェントのグループ会社化している町田の強み。強化費もJ1の平均である20億円強あるそうですし、Bクラスでも上のほうをイメージしていて、サプライズを起こし得るチームとして期待しています。

河治 僕は昨シーズン、J2で町田とジュビロ磐田や清水との戦いを見てきたんですけど、町田が試合内容で圧倒して勝った試合って、ほぼないんですよ。でも、気づけば勝っていて、最終的には順位で突き抜けていた。そういう勝負強さがありますね。際の部分で絶対に負けない。だから、J1でもまったく戦えないなんてことはないと思うし、変なプライドもないから勝点を拾っていけるはず。それが町田の“ストロングスタイル”ですよね。

 勝つことから逆算するので、ボールを握るほうが効率的だったら握るし、そうじゃなければ守ってカウンターを狙う。金明輝コーチがいるから、いい立ち位置を取るサッカーもできるだろうけど、そういうスタイルにしていないのは、今のメンバーで勝利の確率を高めようとすると、違うサッカーになるっていうことなんでしょうね。形がないことが形というか。J2と違って“狙われる側”ではないから、仁義なき戦いを徹底して、気がつけばひとケタ順位でフィニッシュしていてもおかしくないと思っています。

舩木 昨シーズンのJ2での戦いを見て思ったのは、FCポルトにすごく似ているなと。やっているサッカーは奇をてらうようなことをせず、ゴールに真っ直ぐに向かっていって、めちゃくちゃ球際で戦って、どん欲に何をしてでも勝つというサッカーを全員が徹底してやる。それで最後に勝っているのがポルトなんですよね。ポルトガルリーグを経験した日本人選手はもれなく「ポルトの強さは、うまく言葉に表せないけど他とは決定的に違う」と口をそろえるんですが、町田も似たような印象だなと思っていました。なので、J1に上がったときに、クオリティは別にして、これまでやってきたことはある程度表現できるだろうと思って、中位に挙げました。

 あと、全体のスカッドのバランスがすごくいいんですよね。昌子源のようなベテラン選手もいれば、平河悠や荒木駿太、藤尾翔太、バスケス・バイロン、宇野禅斗のような若くて伸びしろと野心のある選手たちがたくさんいる。外国籍選手はJリーグ全体を見渡しても質の高い選手がそろっていますしね。特に前線はナ・サンホ、ミッチェル・デューク、ケガから戻ってきたらエリキも脅威になるでしょうし、オ・セフンの高さも戦い方の幅を広げてくれそう。チームのまとまりも含めて、ある程度は戦えるのではないかと思うんですけど、まだ上位争いをするところまではいけないかなという印象です。

──同じく皆さんがBクラスに置いたのが、アビスパ福岡とサガン鳥栖です。

舩木 福岡はやっているサッカーの安定感が大きいですよね。山岸祐也(→名古屋グランパス)と井手口陽介(→ヴィッセル神戸)は引き抜かれてしまいましたけど、長谷部茂利監督は就任5年目ですし、継続してきたスタイルを考えたら大崩れはしないかなと。ひとつ懸念点を挙げるとしたら、山岸が抜けた前線の得点力でしょうか。ナッシム・ベン・カリファ(←サンフレッチェ広島)は点を取るタイプのセンターフォワードではないので、彼を最前線に据えたらボールは収まるかもしれないけど、明らかに点が取れないときにどう対応するのかなとは思います。

 井手口が抜けたボランチにはパリ五輪世代の松岡大起(←グレミオ・ノヴォリゾンチーノ)を獲得しましたし、アタッカーとして岩崎悠人(←サガン鳥栖)も加わった。最終ラインも三國ケネディエブス(→名古屋)が移籍したとはいえ、ドウグラス・グローリ、奈良竜樹、宮大樹は残っていますからね。全体的に考えると、爆発的に何かが伸びたわけではないけれど、ものすごく落ちたかというとそうでもない。昨シーズンから大きく順位が変わるようなイメージがなかったので、Bクラスのままにしています。

飯尾 大崩れをしなさそうというところは同意見なんだけど、戦力についてはかなり落ちたんじゃないなと思うんですよね。井手口の穴はそんな簡単には埋まらない。前線も山岸とルキアンの穴埋めとしてベン・カリファを獲得しましたけど、昨シーズンは広島で2点しか取れなかった。あと、岩崎を2シャドーで起用するようですけど、過去、インサイドで起用されたときはあまり輝けなかった印象があって。やっぱり岩崎は外に張らせてスピード勝負させたい。

 もちろん、長谷部監督のことだから堅いチームをしっかり作ってきて、ひと桁順位でのフィニッシュは可能だと思うんですけど、昨シーズンの7位を上回って、ACL出場圏内を争うイメージは浮かびませんでした。個人的には従来の3-4-2-1のフォーメーションから新しいチャレンジをしてもいいんじゃないかなって思います。

河治 長谷部監督のポリシーとして、守備のバランスは絶対に崩さない。そこにどれだけ攻撃をプラスアルファできるかなんですよね。1点を失うリスクを負って2点を狙うくらいなら、1-0や0-0を目指すような監督なので。そこでどう戦うかを考えたときに、10得点を計算できる選手がひとりもいないという問題に直面するわけです。失点もそこまで増えないと思うけど、得点数を伸ばせない可能性が高いんですよね。だから、攻撃面であっと驚くようなサプライズが起きないと上位進出は難しい。

 鶴野怜樹や北島祐二(←東京ヴェルディ)もそうですけど、僕たちがここで名前を出すような選手ではなく、驚きのカードが出てくることに期待したいです。中盤はボランチの重見柾斗(←福岡大)がブレイクするんじゃないかと期待しています。福岡のサポーターには認知度が高いかもしれないですけど、他クラブのサポーターに知られていないような選手が活躍するところも福岡らしさですよね。

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著者プロフィール

2001年からJリーグやJクラブの各種オフィシャル案件で編集やライターを歴任。月刊誌『Jリーグサッカーキング』で編集長も務めた。関係各所に太いパイプを持ち、2017年から2023年までDAZNで各種コンテンツ制作に従事。現在はフリーランスとしてJリーグ、日本代表を継続取材している。

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