24年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

浦和、川崎、神戸、広島の4チームが抜けている!? キャンプ密着の識者3人によるJ1展望座談会【前編】

青山知雄

スウェーデン代表のグスタフソンをはじめ、大型補強を敢行した浦和は開幕戦で広島に完敗。前評判通りの実力を発揮できるかどうか 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 2024年シーズンのJ1リーグが2月23日に開幕した。今季のJ1は2チーム増えて20チームによって熱戦が繰り広げられる。さらに今季は、J2降格が3チームに増えるため、残留争いが熾烈になること必至だ。はたしてそれが、各チームの編成にどのような影響を及ぼしているのだろうか。ここでは、精力的にJリーグを取材する3人のジャーナリスト、河治良幸氏、飯尾篤史氏、舩木渉氏に登場を願い、20チームをA、B、Cとクラス分けしてもらった上で、各チームの状況について話をうかがった。(文中敬称略/座談会は2月19日に実施)

※リンク先は外部サイトの場合があります

大型補強の浦和の敵は内にあり

──2024シーズンの明治安田J1リーグが開幕するにあたって、今年も各クラブのキャンプを取材された3人のジャーナリストの方々にお集まりいただき、新シーズンのJ1を展望していきたいと思います。皆さんには事前アンケートで計20チームをAクラス、Bクラス、Cクラスに分けて予想していただきました。まずAクラスから見ていくと、全員がトップ6に入れているのは、浦和レッズ、川崎フロンターレ、ヴィッセル神戸、サンフレッチェ広島の4チームです。

●Aクラス予想(※並び順は北から)

河治:鹿島、浦和、川崎F、横浜FM、神戸、広島

飯尾:浦和、川崎F、名古屋、C大阪、神戸、広島

舩木:浦和、川崎F、横浜FM、G大阪、神戸、広島


──まずはこの4チームを北から触れていきましょうか。まずは浦和から。

河治 とにかく補強した選手がムキムキというか(笑)。昨シーズンのメンバーを完全に上書きするレベルの選手たちが加わり、ピッチに立つ11人のうち半分くらいがそういう選手になりそうなんですよね。従来の主力が残ったところに、本当にストロングな選手が入ってきた。それをしっかり活かす監督も呼んでいて、これは強いだろうなというのが率直な印象です。しかも、浦和は今季、過密日程ではないので、週末に試合に向けた1週間で選手たちはしっかりアピールして、チームは戦術的な対策を組み立てられる。そこも大きいと思います。浦和に関してはすごくポジティブな印象が強いですね。

舩木 まずシンプルに外国籍選手の質と量が今のJリーグを見渡しても一番なんじゃないかと思います。その選手たちも含めてですけど、他チームの選手に対してフィジカル面で優位に立てる選手が各ポジションにそろっている感じがするんですよね。単純にうまいだけじゃなくて、チームとしての成熟度を高める前の段階でも、個の力で押し切るようなサッカーができそうな印象があります。それができてしまったら、スタジアムの雰囲気も含めて相当強いんだろうなと。新しい外国籍選手がフィットしやすい状況もできているでしょうし。

飯尾 僕は沖縄キャンプでいろいろなチームを取材してきたんですけど、最も取材をしたのが浦和です。浦和は補強から今季の本気度が感じられますよね。関根貴大のような既存の選手も、「優勝に向けて言い訳ができないメンバー」というような話をしていました。攻撃陣はチアゴ・サンタナ(←清水エスパルス)、現役ノルウェー代表のオラ・ソルバッケン(←ローマ)、前田直輝(←名古屋グランパス)を獲得して戦力が相当高まった。今季はかなり前重心だから、リーグ最少失点だった昨シーズンの堅守がどこまで維持できるか分からないですけど、僕も優勝候補の最右翼だと思うし、キャンプでいろいろなチーム関係者と話をしていても、皆さん、浦和のことを気にしていましたね。

──やはり浦和が優勝争いの中心になっていきそうですか。

舩木 ACL(AFCチャンピオンズリーグ)はすでに昨年のグループステージで敗退しているので、前半戦は日程に余裕がありますしね。

飯尾 それだけじゃなくて、浦和は天皇杯もないので(苦笑)。

舩木 そうでしたね。他のクラブがカップ戦に臨むなかで、これだけのメンバーを揃えて、少し余裕を持ちながら戦いを進められるのも大きいんじゃないかなと。

河治 浦和って良くも悪くも、毎年すべてのタイトルを獲りにいくんですよ。タイトルがあればあるほど勝ちにいってしまうから、どうしても苦しくなるんですよね。今年はYBCルヴァンカップがトーナメント形式に変わったので、基本的にリーグ戦に“全振り”してもいい。酒井宏樹もそう言い切っているくらいなので。

 ただ、試合数が少ないだけに、ポジション争いがすごく激しいんですよね。そこが逆に不安要素というか。かなり序列もできているみたいだし、そうなるとメンタル的につらい選手が出てきますよね。やっぱりシーズン後半になったら、今のサブ組の力が絶対必要なってくる。そこまで彼らのメンタルをコントロールして、しっかりと戦える状態にキープできるか。そこが“内なる敵”というか、ポイントになるかなと思いますね。

飯尾 僕も同感です。浦和はBチームでもJ1を戦えるくらいの陣容が整っています。個人的に考える懸念点はふたつあって、河治さんが言ったようにレギュラークラスでも試合に出られない選手が出てくること。天皇杯とACLがないので、固定メンバーでリーグ戦もルヴァンカップも戦えてしまうから、レギュラー以外の選手はだんだんと厳しくなる。そこでポイントになるのが、ベンチスタートになりそうな岩尾憲や、FC岐阜から復帰した宇賀神友弥のようなベテランたちの立ち居振る舞いだと思います。宇賀神はそういう部分での期待も獲得理由にあったでしょうし、岩尾は同ポジションに監督の教え子である現役スウェーデン代表のサミュエル・グスタフソンが加入することが分かっていて契約延長をしていますから。

 もうひとつは、浦和は2006年の一度しかリーグ優勝の経験がないこと。シーズンを通して波なく戦い抜くのは、かなり難しい。昨シーズンの神戸みたいにスタートダッシュでうまく波に乗れたら、そのまま行っちゃう気がしますけど、序盤で少しつまずいたりすると、プレッシャーも掛かってくるから、何が起きるか分からないなと。クラブとしてリーグ優勝の経験値がないですから。

河治 対策もされるだろうし、そこを上回れればいいんですけど、他のチームも個の力で浦和に圧倒され続けることはないと思う。そういうときにプランBを持てるかどうか。今のところ、新監督が就任したばかりなので、そこまで植え付けられていないと思うんです。まずはどれだけ勢いよく勝点を積み上げられるか。そして、対策されたときに何ができるか。優勝候補には挙げていますけど、苦しい時期はあるとは思いますね。

神戸は王者に対する“リスペクト”を振り払えるか

開幕戦からスタメン起用され、神戸の勝利に貢献した井手口(左)。神戸はシーズンを通してインテンシティの高いサッカーを貫けるか 【写真は共同】

──浦和はチームマネジメントと、対策された際の戦い方でどう幅を出していくかがポイントになりそうですね。続いては川崎フロンターレです。リーグ開幕前に公式戦を戦っているので、ご覧になられた方も多いのではないかと思います。

舩木 富士フイルムスーパーカップでは、直前のACLから完全にメンバーを入れ替えて神戸に勝った。2チームを作りながらタイトルを獲れることを提示できたのが、上位に予想した理由です。昨シーズンは8位ですし、主力選手の移籍もあったので、どうなるかなと思っていたところで、リーグ開幕前の段階でしっかり組織を作って、能力の高そうな新外国籍選手も入ってきた。上位争いに絡んでくるだけの力があるチームだなということを改めて感じさせられたので、ここは上位予想に入れなきゃいけないかなと。

飯尾 エリソン(←サンパウロ)は沖縄にいるときから「あいつはすごい」という噂が広まっていたんですよね。長年チームを支えてきたレアンドロ・ダミアンの退団で不安視された部分は、彼の加入で払拭できる。宮代大聖(→神戸)が出ていってしまったのは残念だけど、ガンバ大阪から獲得した山本悠樹は大学時代から“中村憲剛二世”って言われていた選手だし、日本代表にも選ばれた三浦颯太をヴァンフォーレ甲府から、ファン・ウェルメスケルケン際(←NEC)をオランダから連れてくるなど、選手獲得にセンスがある。チームとしても戦い方のベースはできている。優勝は難しいかもしれないけれど、トップ5に入ってくるだけの力はあると思います。

河治 実はプレシーズン前の段階では、6位予想だったんですよ。でも、キャンプやスーパーカップを見て、2チーム分のタレントがいるなと。神戸に対してあれだけやれていたし、“大迫封じ”とか、セカンドボールを奪って素早く攻めるとか、あのメンバーで“いつものフロンターレ”とは違う戦い方をできるようになっていた。そうした準備も含めてチームとして柔軟な戦い方ができるようになっていると考えて、6位から上方修正しています。

──続いて前年度王者のヴィッセル神戸。親善試合も含めて、こちらも試合を見る機会がありましたね。

飯尾 神戸はちょっと評価が難しいんですよね。補強は素晴らしいと思うんです。長期離脱中の齊藤未月のところに井手口陽介(←アビスパ福岡)を獲ってきた。彼は大迫勇也や武藤嘉紀、酒井高徳が示している“欧州スタンダード”を体現できる選手ですから。さすが、そこを獲るんだって感じましたし、川崎から宮代を引き抜いたのも鮮やか。7年ぶりに復帰した岩波拓也(←浦和)はアカデミー出身の古巣に並々ならぬ覚悟で戻ってきたと思うし、GKには新井章太(←ジェフユナイテッド千葉)とオビ・パウエル・オビンナ(←横浜F・マリノス)を加えている。

 鹿島アントラーズから獲得した広瀬陸斗もそうですけど、補強がすごく効果的で、間違いなく戦力アップしている。ただ、神戸のようなインテンシティ型のチームが2年続けてハイパフォーマンスを発揮するのは簡単なことではないし、主力選手の年齢も高い。しかもシーズン後半にはACLも入ってくる。連覇するだけの強度を保てるのかどうか疑問がちょっとあって。でも、トップ5から外れることは想像できなかったです。

河治 僕はスポナビに寄稿した戦力ランキングで、神戸をかなり高く評価したんです。ただ、インテル・マイアミ戦やスーパーカップを見て思ったのは、いざ戦うとなったときに大迫が抑えられた場合の前線のオプションがない。宮代を獲りましたけど、スーパーカップで井出遥也が負傷退場して、武藤もケガのためかメンバーから外れていた。それでジェアン・パトリッキをスタメン起用すると、流れを変えるジョーカーがいなくなっちゃうんですよね。

 中盤より後ろの選手層はACLを見越しても問題ないんですけど、シーズンを戦っていくうえで、決定的な仕事をするアタッカーがもう1枚必要だということを開幕前の試合で痛感しましたね。スーパーカップを見ていても、チャンピオンチームへの対策はすごく進んでいるはずですからね。

──酒井高徳がスーパーカップ後に「僕たちは王者じゃなくて、今年もチャレンジャーの気持ちで戦う」と話していたんですけど、彼らはそう考えていたとしても、周りは王者に対して“リスペクト”してきますからね。さて、先輩方がいろいろと話してくれましたが、舩木くんはどうですか?

舩木 もうないですよ(笑)。

飯尾 あるある。絞り出して(笑)

舩木 僕もおふたりと同じようなことを思っていたんですよね。まずは前線の層の薄さ。人数がそこまで充実しているわけではないので、主力が抜けてしまうと大きくチーム力がダウンする可能性が高い。昨シーズン、マリノスも大迫に何もやらせなければ神戸の攻撃力は半減すると睨んで、大迫封じの布陣を敷いて戦ったことがあったんです。それはたぶん、大半のチームが分かっていますよね。神戸は王者としてゲームを支配していくサッカーではないですし、対戦相手からしたら勝ち点1を狙う戦い方は選択しやすい。守りを固められた場合にどれだけ崩していけるのか、チャンピオンとして試されると思います。僕も優勝予想をするとしたら、神戸を1位にはしないかなとは思いますね。

1/3ページ

著者プロフィール

2001年からJリーグやJクラブの各種オフィシャル案件で編集やライターを歴任。月刊誌『Jリーグサッカーキング』で編集長も務めた。関係各所に太いパイプを持ち、2017年から2023年までDAZNで各種コンテンツ制作に従事。現在はフリーランスとしてJリーグ、日本代表を継続取材している。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント