24年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

自動昇格争いは山形、千葉、横浜FC、清水に絞られた!? 3人のエキスパートによるJ2展望座談会【前編】

飯尾篤史

“ゴリさんドーピング”が仙台を変える?

チームに明るいムードを生み出す森山新監督の就任で、仙台は近年の閉塞感を払しょくできるか。補強面は物足りないが、旋風を巻き起こしそうな雰囲気も 【(C)J.LEAGUE】

──いずれにしても、この4チームがJ2の優勝争いをリードすることになりそうですね。では続いて、佐藤さんと土屋さんがAクラスに入れているファジアーノ岡山(昨季10位)に行きましょう。

佐藤 岡山の補強は分かりやすいですよね。3位に躍進した一昨シーズンと同じように、まずは良い外国籍選手を獲ろうと。木山隆之監督は個をチームに取り込むのが上手な監督なので、方向性は間違っていないと思います。昨シーズンのKリーグで13得点のグレイソン(←慶南FC)が日本でも通用するかは分かりませんが、Jリーグでの実績が十分のガブリエル・シャビエル(←シャペコエンセ)は相当やるでしょうね。戦力的にAクラス入りは間違いないかと。

土屋 僕もかなり上位に来るんじゃないかなと思っています。なにしろ、各ポジションに遜色のないレベルのレギュラー候補がふたりずつくらいいますからね。特に竹内涼(←清水)と藤田息吹(←山形)が加わり、田部井涼が完全移籍に移行したボランチは選手層が厚くて、誰が出ても高いクオリティを発揮してくれそうです。

 さらにブラウブリッツ秋田からスピードのある齋藤恵太、昨季のいわきFCで途中出場から点を取りまくっていた岩渕弘人が加わって、いわゆるジョーカーの駒も揃っている。5枚交代枠を使ってゲームの流れを思いっきり変えられるチームだし、またその豊富なカードを木山監督が上手く使いこなしそうなんですよね。

──ひとりだけ岡山をCクラス予想の池田さん、どう反論しますか?(笑)

池田 ハマればAクラスだっていうのは僕も分かるんですが、逆にハマらないと結構ヤバいシーズンになるんじゃないかという危惧があって。やっぱり、メンバーが変わりすぎたのは気になるところですね。実績のある選手を中心に補強したと思うんですが、一方で3位になった2年前のような若手の爆発が期待できない。かつての佐野航大(現・NEC)みたいな面白そうな若手タレントが少なくて、ちょっと実績重視に偏っている印象があるんです。

──なるほど。では次に、その池田さんが唯一Aクラスに推しているベガルタ仙台(昨季16位)を見ていきましょう。佐藤さんと土屋さんはBクラス予想ですが、池田さん、仙台への思いの丈をどうぞ。

●Bクラス予想(※並び順は北から)
佐藤:秋田、仙台、いわき、甲府、徳島、愛媛、長崎、大分

土屋:秋田、仙台、いわき、群馬、甲府、徳島、熊本、大分

池田:いわき、水戸、群馬、甲府、藤枝、徳島、長崎、熊本

池田 完全に“キャンプバイアス”がかかっているかもしれませんが(笑)、今年からゴリさんこと森山佳郎さんが監督になって、チームの雰囲気がガラッと変わったんです。練習から凄まじいハイテンションというか、とにかく選手たちが楽しそうにサッカーをしていて、すごく声も出ている。怪我をするんじゃないかと、こちらが心配になるほどインテンシティの高いメニューも明るくこなしているのを見て、「このチーム、伸びそうだな」って感じたんです。

 正直、補強は物足りないし、若い選手が多いのでシーズン序盤戦は苦労するかもしれませんが、逆に伸びしろは大きいし、仙台旋風が巻き起こる可能性は十分あるんじゃないかと。U-17代表監督として3度のワールドカップに出場したゴリさんは、もちろん「育てる」ことに長けた指導者ではあるけど、圧倒的にすごいのは勝率の高さ。育成年代の代表監督では一番の勝率を残していて、実は「勝てる」監督なんですよ。

土屋 この前、池田さんとも“ゴリさんドーピング”みたいな話をしましたけど、あの魔術にかかると、どんなにきつい練習でも選手たちは明るくやっちゃうんですよね。そういった光景は、鼻っ柱の強い子たちが集まった育成年代のチームでも何度も見てきました。だからここ最近、閉塞感が漂っていた仙台の雰囲気も、間違いなく良くなるとは思うんです。

 ただ、僕が懸念しているのは前線で、どうしても選手層の薄さが気になるんです。中山仁斗はJ2で実績を残していて、ある程度の計算は立ちますが、ただ新外国籍選手のエロン(←ヴィラ・ノヴァ)は未知数で、彼が当たるか当たらないかはめちゃくちゃ大きいと思っています。

池田 ちなみにキャンプでエロンを初めて見たときは、正直かなり時間がかかりそうだなって感じましたね。ブラジル人選手は蓋を開けてみるまで分からないですが、キャンプの時点では、これは開幕に間に合わないだろうなって思ったくらいですから(笑)。

佐藤 ここ数年の仙台って、クラブとしてどうありたいのか、どういうサッカーがしたいのかっていうのが、外から見ていてちょっと分かりづらかった。20年に監督を務めた木山さん(現・岡山監督)が当時、「仙台には根付いたものがあって、それを変えるのは大変だ」という話をしてくれたのが、僕はすごく印象に残っているんです。

 昨年、川崎フロンターレの強化本部長だった庄子春男さんがゼネラルマネジャーに就任して、今は変革の最中だと思いますが、クラブ全体で変わろうという覚悟や意志がどこまであるのか、でしょうね。チームのポテンシャル自体は高いので、やはりピッチに入るまでのところが重要な鍵を握っていそうです。ただゴリさん自身には求心力があるし、ポジティブに変わる可能性も十分にあるとは思っています。

限りなくAクラスに近いBクラスは……

開幕前に監督問題でゴタゴタがあった長崎だが、選手層の厚さはリーグでも3本の指に入るだろう。昨季J2得点王フアンマの存在も頼もしい限りだ 【(C)J.LEAGUE】

──続いて、土屋さんがAクラスに入れているV・ファーレン長崎(昨季7位)です。土屋さん、長崎をプッシュする理由を教えてください。

土屋 昨シーズンも昇格争いに加わっていましたが、僕にはファビオ・カリーレ監督がどういうサッカーをやりたいのか、あまり見えてこなかった。だから続投が発表されたときは、ちょっと意外だったんです。ところが、昨年末に契約を更新したはずのカリーレ監督が突如退任(サントスの監督に就任)。当初ヘッドコーチとして招かれた下平隆宏さんが、その後に正式な後任監督になるという流れがあったんですが、シモさんはチームのフレームワークを作るのがとても上手い人なんです。ビルドアップにこだわるイメージもあって、その道のスペシャリストであるのは間違いないんですが、ただ昨シーズンの大分トリニータでは、必ずしもポゼッションにこだわらず、3バックにトライするなど采配の幅を広げた印象がありましたね。

 選手で注目は、昨年のU-20ワールドカップにも出場した左利きのセンターバックの田中隼人(←柏)。かつての上島拓巳や古賀太陽など、レイソルには若くて有望なセンターバックをアウトソーシングで育ててもらう伝統があるんですが、この田中も長崎に育成型期限付き移籍で加入してきました。将来は日本代表を狙えるレベルのセンターバックで、僕は今シーズンのキーマンになると予想しています。さらに、秋には新たな本拠地として待望のサッカー専用スタジアムもできますし、それもチームを勢いづかせる要因になるんじゃないかと思っています。

──池田さんと佐藤さんは、長崎をBクラスにしていますね。

池田 これだけのメンバーがいて、実力のある下平さんが監督をやれば、ストレートインもありえます。エースのフアンマ・デルガドも復活を遂げて、昨シーズンはJ2得点王ですからね。中盤から前の戦力は圧倒的で、選手層の厚さはリーグでも3本の指に入るくらい。正直、Aクラスに長崎を入れるか、大分を入れるかで最後まで悩みましたが、そこで大分を選んで、長崎を選ばなかった一番の理由は、やはりチーム内のゴタゴタ。こういうゴタゴタが開幕前にあって上手く行ったチームって、あんまり記憶にないんです。

佐藤 僕も限りなくAに近いBクラス(笑)。ポイントは、カリーレ監督のサッカーに合う選手を揃えたなかで、下平監督がどれだけこの戦力を生かせるか。ただ、先ほど土屋さんも言っていたように、采配にかなり柔軟性が出てきているので、それほど心配はないんじゃないかと思います。

 実は、昨シーズンのJ2で一番衝撃を受けたのが長崎の松澤海斗で、個人的にはリーグナンバー1ウイングだと思っています。フアンマなど外国籍選手に目が行きがちですが、彼にもぜひ注目してもらいたいですね。

土屋 僕も同意見です! 「J2の三笘薫」みたいなドリブラーですよね。

──それだけのタレントが、よく引き抜かれませんでしたね。では、続いて大分トリニータ(昨季9位)。ここは長崎と迷われたという池田さんだけがAクラス予想です。

池田 やっぱり、片野坂知宏さんが帰ってきたのが一番大きいですね。しかも昨年のメンバーがかなり残っている。上夷克典(→サガン鳥栖)の移籍は痛いけど、弓場将輝と保田堅心の魅力的なダブルボランチは健在で、彼らが片野坂さんのもとでどんな成長を見せるのか楽しみにしています。

──土屋さんも以前からこのダブルボランチを推していましたよね。

土屋 激推しですよ。佐藤さんに倣って言うと、今年の大分は限りなくAに近いBクラス(笑)。一番の注目は、やはり3年ぶりに帰ってきた片野坂さんです。前回就任時の片野坂さんっていうと、テクニカルエリアをせわしなく動いて声を出しまくって、最後は浅田飴みたいなイメージがありましたけど(笑)、勉強熱心な方なので外に出ていろんなことを学ばれたんでしょうね。以前とはチームのフレームの作り方も変わって、割と守備ベースになりましたし、選手には大枠だけ伝えて、細かいところは委ねるみたいなやり方をしています。

 ただ、確かに戦力の流出はほとんどありませんでしたが、同時に新戦力もそこまで獲れていない。だからこそ、引き続き期待するのが弓場と保田のコンビで、このアカデミー出身のふたりがJ2で無双するぐらいに際立てば、Aクラスにも手が届くかもしれません。

佐藤 僕も土屋さんと同意見で、ちょっと戦力の上積みが少ないなという印象です。特にFW陣がパンチに欠けていて、そこが他のAクラス予想チームとの差なんじゃないかと。とはいえ、片野坂さんならしっかりとしたチームを作ってくるだろうし、上位には食い込んでくるでしょうね。なかでも僕の激推しは、中京大から加入したルーキーの小酒井新大。3年生で全日本大学選抜にも選ばれたパスセンスの持ち主で、弓場と保田のボランチコンビの牙城を崩すようなポテンシャルを見せてくれるんじゃないかと期待しています。

クラブ史上最も“水戸の純度”が高いチーム

クラブ創設30周年の水戸が、今季に懸ける想いは強い。昨季は名古屋から東京Vで期限付き移籍をして経験を積んだ甲田など、野心に溢れた若手を中心にJ1昇格を狙う 【(C)J.LEAGUE】

──なるほど。では上位チーム予想の最後は、佐藤さんがAクラス、池田さんがBクラス、土屋さんがCクラスと意見が分かれた水戸(昨季17位)で締めたいと思います。佐藤さん、まずは思いの丈を語ってください。

佐藤 自分が担当しているチームが「J1昇格」を目標に掲げているのならば、6位以内に入ることを予想して見ていく必要があると思っています。これまでの水戸って「J1昇格」という言葉を避けてきたところがあるんですが、クラブ創設30周年ということもあって、今年に懸ける想いはかなり強いんです。2年目の濱崎芳己監督も「昇格」を明言していますからね。

 昨シーズンは17位と低迷しましたが、逆にそれまでが順調過ぎたとも言えるんです。監督もコーチ陣も変えずに臨むのも、昨年の失敗をクラブとしてしっかりと受け止め、今シーズンのチーム作りに生かそうという姿勢の表れ。派手な補強はありませんが、僕はクラブ史上最も“水戸の純度”が高いチームになったなと思っているんです。実際、J3で結果を出して、これからさらに上を目指そうという野心に溢れた選手や、高校や大学で注目されていたルーキーをたくさん獲得していて、この野心と若さがガッと1つにまとまったら、すごく面白いチームになるなと。6位以内に入るチャンスは十分あると見ています。

池田 相当自信があるから、GMの西村卓朗さんも濱崎監督を続投させたんだろうと思うし、確かにダークホース的な匂いもしますよね。僕が期待しているのはMFの甲田英將(←東京V)。ああいったテクニシャンが、常に200%で戦うことを水戸で覚えたら、ブレイクスルーもあるんじゃないかな。

──昨シーズンの武田英寿(→浦和レッズ)もそうでしたが、水戸にレンタルされて一皮むけた選手って多いですよね。土屋さんはCクラス予想ですが、どう見ていますか?

土屋 僕は今の水戸にいる選手の9割ぐらいは育成年代のときに見ているので、思い入れもあるし、頑張ってほしいとも思うんですが、それでも昨シーズンの終盤、ラスト7試合でひとつも勝てなかった手詰まり感が強く残っていて。そこからコーチングスタッフも変わらず、主力の一部が抜けたわけですから、相対的な戦力の比較でCクラスにしました。

 ただ、大卒6人、高卒3人と9人のルーキーが入ったように、近年の水戸が“選ばれるクラブ”になったのは間違いありませんし、今シーズンもその中から3人ぐらいが主力になれれば、チームも活性化されるんじゃないかと見ています。例えば、昨シーズンも特別指定で9試合に出場した左サイドバックの石井隼太(←城西国際大)。帝京高出身で、彼が2年生のときに司令塔だったのが、1学年上の三浦颯太なんです。

──今シーズン、ヴァンフォーレ甲府から川崎フロンターレに移籍した⁉︎

土屋 そうなんです。だからきっと、今や同じ左サイドバックとして日本代表にも選ばれた三浦から、大きな刺激を受けているはずなんです。あとは法政大から加入の久保征一郎。FC東京の下部組織では久保建英と同期で、心ない人から“じゃない方の久保”みたいなことを言われたりしながらも、大学を経てこうしてJリーガーになった。一撃必殺とも言うべきシュートセンスの持ち主で、個人的にすごく期待している選手なんです。

※後編に続く

(企画・編集/YOJI-GEN)

佐藤拓也(さとう・たくや)

2003年、日本ジャーナリスト専門学校卒業とともに横浜FCのオフィシャルライターに就任。04年秋、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊に携わり、フリーライターへ転身。その後、サッカー専門誌を中心に寄稿。04年から水戸ホーリーホックを追い続け、12年に有料webサイト『デイリーホーリーホック』を立ち上げ、メインライターを務める。オフィシャル刊行物の制作にも携わる。

土屋雅史(つちや・まさし)

群馬県出身。高崎高3年時にインターハイでベスト8に入り、大会優秀選手に選出される。2003年に株式会社ジェイ・スポーツへ入社。サッカー情報番組『Foot!』やJリーグ中継のディレクター、プロデューサーを務めた。当時の年間観戦試合数は現場、TV中継を含めて1000試合に迫ることもあったという。21年にジェイ・スポーツを退社し、フリーに。現在もJリーグや高校サッカーを中心に、精力的に取材活動を続けている。

池田タツ(いけだ・たつ)

株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会などをこなし、撮影も行う。湘南ベルマーレの水谷尚人前社長との共著に『たのしめてるか。湘南ベルマーレ フロントの戦い』シリーズがある。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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