なぜ、今なのか? Jリーグのシーズン移行を深掘り

シーズン移行、選手はどう感じているのか…金沢・豊田陽平の率直な思いとは?「不安もある。やるなら覚悟を持って突き抜けてほしい」

飯尾篤史

降雪地域の実情を語ってくれた豊田。不安や懸念点を語りつつも、「やる以上は絶対に成功してほしい」と語る 【写真:飯尾篤史】

 シーズン移行について考えるうえで、実際にプレーする選手の言葉に耳を傾けないわけにはいかない。降雪地域の石川県出身で、地元のツエーゲン金沢に所属する豊田陽平は、モンテディオ山形にも所属した一方で、名古屋グランパスや京都サンガF.C.など、国内で最も暑い地域でのプレー経験もあり、選手の実情を聞くのに打ってつけの人物だろう。かつて日の丸を背負ったストライカーはどんな思いでいるのか。(取材日:12月4日)

雪がドカッと降ったら、どうしようもない

――今回のシーズン移行の議論について、選手としてはどのように感じてきましたか?

 春ぐらいから議論が始まったと思ったら、ババババッと一気に進んだ感じがしました。自分が今、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)からは遠いところにいて当事者意識が少し薄かったのかもしれないですけど、しっかり追い切れずに戸惑いがあったというか。夏以降は「これはもう、移行するんだな」といった温度感でしたから、急に進んだなと。

 もちろん、メリットとデメリットをしっかり精査しながら進んできたんだと思います。ヨーロッパのシーズンと合わせることで海外移籍が活発になるとか、ACLのシーズンと合わせることでJリーグのトップクラブがアジアで勝って世界に出ていく。それによって多くの賞金が獲得できたり、放映権料が上がってJ2、J3のクラブへの配分金も増えたり、メリットが大きいこともわかります。

 ただ、降雪地帯のクラブでプレーしている身からすると、数年後にシーズン移行の恩恵を受けられるとしても、「簡単じゃないよな」っていうのが正直な気持ちですね。あと、どんな結論になったとしても、ファン・サポーターのみなさんを置いてけぼりにすることだけは、してほしくないなって思います。

――豊田選手は石川県出身で、現在は地元のツエーゲン金沢に所属されているうえ、モンテディオ山形でのプレー経験もあります。降雪地域でサッカーをすることについて、実情を聞かせてください。

 基本的に今は九州だから暑い、北陸だから暑くない、ということはなくて、夏は日本中どこでサッカーをやっても暑いし、冬になればどこでも寒いんですけど、雪だけは全然違って。九州や太平洋側で降る雪は一時的なもので、積もっても数日で溶けると思うんですけど、降雪地域の場合はドカッと降ってしまったら、もうどうしようもないんですね。そうなると練習どころか、家と練習場の行き来すらままならなくて。

 ツエーゲンに加入して1年目の去年のことなんですけど、宮崎で1か月くらいキャンプをやって戻ってきて、1週間くらい地元で調整してから開幕戦の徳島に乗り込むはずだったんです。ところが、雪でまったく練習できなくて。急きょ淡路島に向かって人工芝の練習場を押さえてトレーニングして、徳島ヴォルティスとの開幕戦を迎えたんです。長く家を留守にして、やっと帰ってきたと思ったらすぐに出ていくことになって。そういうことも起こり得るんですよね、こっちでは。

アウェイ連戦があるチームを選手は選ぶのか

1か月以上に渡る長期キャンプを経験した山形時代。さらにアウェイ連戦も加わるとなると、選手の負担は小さくない 【(C)J.LEAGUE】

――降雪地域のクラブはそもそも、1〜2月に行われるキャンプ期間は、ずっと地元を離れていますからね。

 山形時代もそうでした。やっぱりかなりのストレスなんですね。山形時代はまだ若かったので耐えられましたけど、今は妻がいて、子どももいますから。長期キャンプになることはわかったうえで地元に戻ってきたんですけど、久しぶりに1か月にわたるキャンプを経験したら、びっくりするくらい長く感じて。

 シーズン移行するとなったら、夏のオフシーズンのキャンプと、ウィンターブレーク中のキャンプと2回になるわけですよね。夏はこれまでと違って1次キャンプと2次キャンプの間に地元に戻れると思いますけど、ウィンターブレーク中は、1か月間くらいキャンプをすることになるでしょうから、雪国の宿命というか、シーズン移行が決まったら覚悟しておかないといけないなって思っています。

 それに、これまでは12月上旬にリーグ戦が終わったあとはしばらくオフでしたけど、シーズン移行した場合はウィンターブレーク、つまり、シーズンは続いているわけですから、キャンプが始まるまで選手としてはずっと体を動かしておかないといけない。石川県の12月、1月って空も鈍色で、風も強くて本当に寒いんですよ。雪でも降ったりしたら……想像するだけで、気持ちが沈みますよね(苦笑)。それでもツエーゲンは今、フィットネスクラブの「エイム」さんがサプライヤーを務めてくれているので、ジムを使わせてもらえますけど、他の降雪地域のクラブの選手はどうなんだろうって。

――さらに、降雪地域のクラブは雪の影響で12月や2月にホームゲームを開催できない可能性が高いので、シーズン移行した場合はウィンターブレーク前後にアウェイの連戦が組まれる予定です。アウェイで3〜4試合戦い、ウィンターブレイクを挟んでまたアウェイで3〜4試合戦う。

 その不平等感はどうしても拭えないと思います。それに、必ずアウェイ連戦があるチームを、選手は選ぶのかなって。僕は「地元に恩返しをしたい」「地元を盛り上げたい」という思いでツエーゲンに来ましたけど、地元じゃなかったら果たしてどうだったか。やっぱり選びにくいよなって。だから、クラブはこれまで以上に魅力を打ち出して、選手に来てもらえるようにしないといけない。それはファン・サポーターに対しても同じで、アウェイゲームが続くうえ、2か月近くのウィンターブレークまであったら、地元の人にとってサッカーが身近なものではなくなってしまうんじゃないかって。

 この2、3年、コロナ禍で無観客試合を経験して、選手としてはすごく寂しかったんですね。と同時に、改めてファン・サポーターが試合を観に来てくれることのありがたみを感じました。やっぱり選手って、お客さんが見てくれているからこそモチベーションが上がるし、頑張れるものなんだなって。だから、シーズン移行をして寒い中での試合が増えて、お客さんが減ってしまうんじゃないか、夏休みの試合が少なくなって、子どもたちがスタジアムに来る機会が減ってしまうんじゃないか、っていうことも心配です。クラブとしては施策や企画をどんどん増やさないといけないと思うし、Jリーグにもサポートしてもらいたいですね。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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