なぜ、今なのか? Jリーグのシーズン移行を深掘り

降雪地域の富山・左伴繁雄社長はなぜ、シーズン移行に「条件付きの賛成」なのか?「クラブの腕の見せどころ」「我々にもメリットはある」

飯尾篤史

降雪地域のメリット・デメリットに関わらず、広い視野で語る左伴氏。シーズン移行に関するタウンミーティングも計3回開き、地元のファン・サポーターと向き合ってきた 【写真:飯尾篤史】

 過去に何度もシーズン移行が検討されながら、その度に否決された最大の理由は「降雪地域における冬場の試合開催、試合観戦の難しさ」だった。では、今回の議論・検討について降雪地域のクラブはどう捉えているのか――。横浜F・マリノス、湘南ベルマーレ、清水エスパルス時代に過去の議論を経験しているカターレ富山の左伴繁雄社長に、クラブとしてのスタンスを伺った。(取材日:12月7日)

最低限、JFLもシーズン移行してほしい

――12月14日に行われるJリーグの実行委員会で、シーズン移行に対するクラブとしての姿勢を伝えることになります。カターレ富山の回答はすでに決まっているのでしょうか?

 12月13日に弊社臨時取締役会で決議しますが、結論としては、条件付きの賛成です。

――条件と言いますと?

 シーズン日程には案Aと案Bがありますが、私どもとしては「案Bにしていただきたい」と。案Bというのは、12月と2月の試合数が現行のシーズンと同じになるように、ウィンターブレークが設けられている日程です。案Aだと、2月の雪が一番降りそうな時期に4試合あるんですね。富山はそこまで雪深くないんですけれど、新潟や秋田は難しいと思いますので、案Bでお願いしたいというのがひとつ目の条件。

 ふたつ目の条件は、「JFLもシーズン移行してほしい」ということ。J3からJFLに降格するチームが決まるのが5月。そこからJFLのシーズンが開幕する翌年2月までリーグ戦に参加できないとなると、倒産しちゃいますよ。なので、JFLとはシーズンを合わせていただきたい。

 そうなると、JFLと全社(全国社会人サッカー選手権大会)や地域リーグとのつなぎが悪くなってしまうので、そこをどうつなげていくか。ただ、私どもJクラブとしては最低限、JFLとは合わせてほしい。JFLにはHonda FCとか社会人チームもあるわけですから、シーズン移行は大変だと思うんですよ。そこをどう理解してもらうのかも気になります。

――降雪地域のクラブがシーズン移行に賛成するとしたら、当然、案Bを希望するでしょうね。

 現行のシーズンの開催期間は290日で、案Aだと250日、案Bは230日程度。案Bは開催期間がかなり少ないので、平日開催が増えるんです。そうすると、集客の問題が出てきますよね。Jリーグからの情報によると、中2日、中3日の試合間隔が続いたとしても、フィジカルデータは夏場ほどは落ちないと。

 ただ、天皇杯やルヴァンカップが入ってきた場合、どれくらい連続して平日開催の試合が続くことになるのか、今ひとつ見えない。ですから、降雪地帯でないクラブは案Aを希望するでしょう。その場合、多数決で決めるのか。もしそうなったら、別の形で降雪地域のクラブに対して配慮してもらえるのか。そこも気になるところです。

――では、反対ではなく、賛成のスタンスを取った理由はなんでしょうか?

 まずAFC (アジアサッカー連盟)がACL(AFCチャンピオンズリーグ)を秋春制に変えたことがひとつ。今、「お金の理屈」というものがあって、AFCのリーダーは西アジアが担っています。西アジアはすごく暑いから、彼らはACLを秋春制に変えたくて仕方がなかった。その話は以前からあったんですけれど、いよいよ今年からシーズン移行されたわけです。

 Jリーグが今のシーズンのままだと、グループステージは前の年のチーム、ノックアウトステージは次の年のチームで臨むことになりますよね。そうなると、選手も変われば、監督が代わるチームもある。それはいくらなんでも筋が違うのではないかと。私も横浜F・マリノスの社長時代にACLを経験しているので、その難しさはわかっています。

 それから、クラブワールドカップが2025年から拡大されて、4年に一度、32か国が出場するビッグトーナメントになる。FIFA(国際サッカー連盟)がネイション軸だけでなく、リージョン軸もすごく重視し始めたことを感じます。Jクラブ(北海道コンサドーレ札幌)の社長経験がある野々村(芳和)チェアマンが就任して以降、地域事業にお金を付けて支援するようになっているなかで、クラブワールドカップの拡大は、地域の人たちがクラブを応援する、クラブへの愛情が深まることへの加速材になると思うんですよね。クラブ単位で世界と戦うことが、これからもっと重要視されなきゃいけない。

降雪地域のクラブにもメリットはある

小田切監督のもと、ハードワークを重視したスタイルで今季のJ3で3位に食い込んだ富山。総走行距離やスプリント回数はJリーグトップクラスを誇る(写真は松岡大智) 【(C)J.LEAGUE】

――クラブワールドカップに出場するためには、ACLを勝ち抜かなければならないですからね。

 ですから、JリーグもACLとシーズンを合わせる必要があるだろうなと。ふたつ目の理由は夏場の試合を少なくするということ。カターレ富山は今、J3ですから、J1の選手と比べるとどうしても技術レベルが劣る選手も少なくありません。じゃあ、何を売りにするのかと言ったら、ハードワーク。闘っているとか、1対1で絶対に負けないとか、攻守の切り替えを早くするとか、シュート本数を増やすとか。量を追求しないと、お客さんに満足してもらえない。カターレ富山はこの3年間かけて、そういうスタイルに取り組んできて、1試合あたりの総走行距離は120km切ることがほとんどないチームになっています。

 僕が湘南ベルマーレにいた頃に監督だったのが曺貴裁で、今も曺貴裁監督の京都サンガをベンチマークにしているんですけど、同じ節でカターレ富山が走行キロ数で負けたことがないんです。今年のトップレコードは130kmを超えました。90分間、切り替えを早くして、フルスピードで走ると、これぐらい叩き出せるんだなと。あとスプリント回数も120~170くらいで、これもJリーグトップレベルなんですよ。

 ただ、それでも夏場には1試合平均で10㎞くらい落ちてしまうんですよね。120km台が110km前後まで落ちてしまう。選手たちは頑張っているんですけど、頭がボーッとしてきて、フラフラになるっていうことを経験していて。

――近年の夏の暑さは、命の危険を感じるようなレベルです。

 やっぱり夏場は少しでも試合が少ないほうがいいし、6月にワールドカップやクラブワールドカップが入ってくるんだったら、5月末でシーズンを終えて7月末まで休む。8月は試合をやったとしても、これまでのように2月から試合をしてきて疲れた状態で8月を迎えるより、オフでいったんリフレッシュして、キャンプで準備をして、8月から開幕するほうがマシなんじゃないかなと。

 3つ目の理由としては、シーズン移行って降雪地域のデメリットがクローズアップされがちですけど、降雪地域のクラブにとって本当にメリットはないのか。正直に言うと、降雪地域のクラブは、現状では100%の状態でリーグ開幕戦を迎えるのは難しいんですね。いくら暖かいところでキャンプをやっても、最後は地元に戻ってきて仕上げないといけない。我々の場合、ドーム型の練習場でやるんですが、人工芝だから、インテンシティを上げられないんですよ。かといって普段の練習場は雪が積もっていて使えない。

――その点、8月に開幕するなら、雪を気にせず仕上げられると。

 カターレ富山の過去のシーズンを振り返っても、スタートダッシュできていないんですけど、無理からぬものがあるわけです。他のクラブと同じ条件で開幕を迎えさせてあげたいなっていうのは、富山に来てからずっと思っていたことなんです。開幕の時点で今よりもお客様に楽しんでいただけるという点に関しては、太平洋側のクラブと比べて我々のほうにメリットがあると思いますね。ただ、それは案Aのように降雪時期に試合をやることが前提になるものですから、他の降雪地域のクラブのみなさんも、そう感じていたとしても、なかなか言いにくいのではないかと思います。

――左伴さんは2001年にF・マリノスの社長に就任され、08年からはベルマーレの取締役、15年からは清水エスパルスの社長を歴任されました。21年5月以降はカターレの社長を務めていらっしゃいます。その間、犬飼基昭会長がシーズン移行を主張した08年に始まり、3度の議論を経験されていますが、過去と今回で進め方の違いは感じましたか? 

 犬飼さんはね、大学の先輩なんですよ。この間も富山まで来てくださったし、浦和レッズの社長をされていたときには04年のチャンピオンシップを争った仲でもある。Jクラブの社長としても、ビジネスマンとしても尊敬しているんですけど、当時はやや強引でしたよね(苦笑)。

「ヨーロッパと合わせなきゃダメだ」ということを盛んに主張されていましたが、12月、1月も試合をやるような流れで、降雪地域のクラブのことをあまり考えていなかった印象があります。僕も日産自動車に勤めていた頃、ヨーロッパに赴任していたから、もちろんわかるんですよ。

――ヨーロッパは雪の中でも試合を開催しますよね。

 黄色いボールを使ってやるんですよ。最近だと、ピッチの下にヒーター入れて雪を溶かしたり、観客席の下から温風が出てくるスタジアムもある。ドイツだと零下14度でもやっていますよね。ただ、日本と違うのは、サッカー文化が根付いているということ。クラブハウスに行ったら、チームの集合写真100年分100枚が飾られているようなクラブがざらにあるわけですよね。寒かろうと雪が降っていようと、週末になったらスタジアムに行くことが生活の一部になっている国と日本は違いますから、やっぱりやや強引だったかなと。

 一方、今回は降雪地域への配慮が最初の段階からあったんです。スケジュール案だって案Aからウィンターブレークが入っていましたし、その後すぐに降雪地域により配慮した案Bも出てきましたから。それはJFA(日本サッカー協会)の田嶋(幸三)会長が過去の教訓から事前にいろいろと配慮したところもあるでしょうし、野々村チェアマンが札幌の社長だったということもあったと思います。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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