なぜ、今なのか? Jリーグのシーズン移行を深掘り

Jリーグに先駆けて秋春制を導入したWEリーグの視点…髙田春奈チェアが“シーズン移行を推す”理由とは?

竹内達也

JリーグとWEリーグの両方に身を置いた経験があり、Jリーグ理事会に出席する髙田春奈チェアの意見は貴重だ 【飯尾篤史】

 21年9月に開幕した日本女子プロサッカーリーグ、WEリーグはJリーグに先駆けて秋春制を導入している。22年9月に就任した髙田春奈チェアは、V・ファーレン長崎の代表取締役社長、Jリーグ業務執行理事、日本サッカー協会理事などを歴任し、シーズン移行について語るのに適任だろう。髙田チェアは秋春制のメリット・デメリットをどう感じているのか。Jリーグとの関係性について思うこととは――。(取材日:11月1日)

「この条件でやる」という覚悟のあるクラブが参加

——WEリーグはJリーグに先駆けて初年度から秋開幕、春閉幕を導入していますが、Jリーグとのシーズン制の違いについて、戸惑うことはありませんでしたか?

 実は、さほどありませんでした。WEリーグが始まってからはWEのシーズンに集中していたので、そんなに違和感はなくて、むしろJリーグを経験した立場として、「Jリーグは今、これをやっているから連携させてもらえるといいね」とか、「Jリーグが終わるから今度はWEリーグを見に来てください、とアピールできるよね」とか、WEリーグのために周りのカレンダーを生かしていくという感覚になって、混乱という感じではなかったですね。

——秋春制のメリットとデメリットについて、どのように実感していますか?

 決まった時点で私はまだWEリーグにいなかったので、すでに導入されているものを受け入れた立場ですが、困ることはあまりなかったです。WEリーグには寒い地域のクラブが多く、皆さんご苦労されていて、集客において「寒い時は来場者が少ない」という話は聞きますが、ウィンターブレイクを設けていることもあって、雪で試合が中止になるようなことはほぼありません。Jリーグでは異常気象とも言える大雨で試合が中断したり、中止になることもありましたから、個人的には時代的にもこっちのほうが運営しやすいのではないかなと思ったりもしています。

 寒い時期は人を集めにくいというのは、その通りだなと思う反面、集客に苦戦する要因は寒いからだけだとも思ってはいなくて。自分たちの努力で変えていけることから取り組んでいるところです。

——現状のシーズン制に関して、WEリーグの各クラブの意見も耳に入っていると思います。どのような声がありますか?

 やはり「寒くて人が集まりにくい」ということや、「ヨーロッパのシーズンと合わせたことで、選手が移籍しやすくなったから、海外流出が増えるのではないか」といった意見は聞きます。ただ、それは制度で止めるべきものではなく、そもそも秋春制を選んだ目的を理解して努力で乗り越えるべきことなのではないかと。

 今、Jリーグがシーズン移行を視野に入れているのは、夏場に試合をすることによるインテンシティの低下を避けたり、海外リーグやACLとシーズンを合わせて競争力を高めたりするなど、日本サッカーを強くするためですよね。だから、まずはクラブが運営しやすいような環境を整えた上で、そこからどう戦うかは、自分たちの実力、努力の問題だと思っています。

——Jリーグのシーズン移行においては、「積雪地域のクラブが不利を強いられるのではないか」ということがサポーターの大きな関心事だと思います。WEリーグは秋春制で2シーズンを戦いましたが、そのあたりはいかがでしょう?

 WEリーグは立ち上げの時から「この条件でやります」という覚悟のあるクラブが参加していると思います。アルビレックス新潟レディースやAC長野パルセイロ・レディースなどはJリーグにもクラブがありますが、秋春制を受け入れて戦ってくださっています。

 もちろん、冬の中断中のキャンプ日数が増えてしまうなど、お金がかかるという問題はあります。また、カレンダーを決める時に「この時期に試合を入れると、降雪のために中止のリスクがあります」と言われることもあります。ただ、例えば昨シーズンで言えば、雪で試合が中止になったのは1試合だけ。それも広島でのゲームでしたから、雪国に限った問題ではありません。

Jリーグともっとコミュニケーションを取らなければ

WEリーグの場合、行政との年度のズレの問題より、ホームスタジアムを先にJクラブに押さえられてしまう問題があるという 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

——おそらくサポーターが心配しているのは、「雪国のチームが自力で解決すべき問題になってしまうのではないか」ということだと思います。現状、WEリーグとしてはクラブの負担をどのように支えていますか?

 試合が中止になった場合は、雪に限らず雨天でも補填をしています。ただ、補填したとしてもクラブの体力は消耗しますし、サポーターの移動費まではサポートできないので、どうしても不満は出てくると思います。でも、立地の問題で言えば、暑い地域だって大雨のリスクがあり、それによって飛行機が欠航することもありますよね。都心のクラブだって賃料が高いとか、それぞれの場所によってお金がかかる問題はあるので、必ずしも雪国のチームだけがクラブ運営をしていくために補填を必要とする事情を持っているわけではありません。

 地域ごとの特色によって得をしていることもあるので、受け入れながらどうにかしていくしかないと思います。問題を狭めすぎず、全体の中でどこにお金を使っていくかを考えていくべきですし、地域特有の問題であれば、スポーツ文化を醸成していくために自治体と一緒に解決していくなどの視点も必要だと思っています。

——もう一つ、Jリーグの議論で言えば、Jクラブのスタジアムは公共施設が多いので、「シーズン移行によって行政との年度にズレが生じると、予約が難しくなるのではないか」という懸念があります。この点はどう感じていますか?

 WEリーグの場合は、どちらかと言うとJリーグとの取り合いと言いますか、ホームスタジアムを固定してやりたいけれど、Jクラブ優先で押さえられているから、異なるスタジアムでやらないといけない、というパターンが多いですね。スタジアムとの繋がりはJクラブのほうが強かったり、男女両チームを所有しているクラブだったら男子優先になったり。

 また、施設の予約という面では、JリーグでもWEリーグでも同じですが、サッカーという競技が社会で必要とされるものだから自分たちを優遇してほしいというわけではなく、社会と一緒に乗り越えていけるような働きかけをしないといけないと思っています。シーズン制も年度も、あくまでも人間が決めたルールでしかありませんから。

——男女のチーム間のコミュニケーションや、自治体への働きかけで乗り越えられる課題だという感触ですかね。

 そもそもWEリーグのカレンダーを作る際に、「Jリーグともっとコミュニケーションを取るべきだ」ということはサポーターの方々からもクラブの方々からも言われていて、やってはいるんですけど、もっと改善に向けて動いていかないといけないと思っています。

——クラブの方々もサポーターも「Jリーグや日本サッカーを成長させていく」ということに異論はないと思いますが、「シーズンを変えなくても成長戦略を描けるのではないか」という意見もあります。

 私がJリーグの理事会に出席していて感じているのは、成長戦略とは別の問題として、「夏場にサッカーをやること自体が難しくなっている」ということです。そこで「冬にもっとやっていこう」という議論になってきたわけですが、それには環境を整えないといけない。サッカー界全体として、サッカーを冬に楽しめるような環境をみんなでどう作っていけるか。そんなふうに考え方を変えなければいけないのではないかと思います。

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著者プロフィール

1989年生まれ。大分県豊後高田市出身。大学院卒業後、地方紙記者を経て、2017年夏から「ゲキサカ」でサッカー取材をスタートさせた。日々のJリーグ、育成年代取材のほか、18年9月の森保ジャパン発足後から日本代表を担当し、19年のUAEアジアカップ、22年のカタールW杯で現地取材。21年からシャレン!アウォーズ選考委員。VARなど競技規則関連の発信も続けている。

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