なぜ、今なのか? Jリーグのシーズン移行を深掘り

Jリーグ・樋口順也FB本部長が語るシーズン移行の焦点 「谷型カーブを山型に」「世界で勝つ」「いつでもスポーツができる環境を」

竹内達也

Jリーグ・フットボール本部本部長の樋口氏。毎月の理事会後にブリーフィングを行い、メディアに対して情報開示を行ってきた 【写真:飯尾篤史】

 シーズン移行をめぐる議論・検討がいよいよ大詰めを迎えている。シーズン移行をすることによって、Jリーグはどんな未来を実現したいと考えているのか。Jリーグの欧州拠点設立のプロジェクトとは――。シーズン移行の議論の中心に立ってきたJリーグの樋口順也フットボール本部本部長に詳しく聞いた。(取材日:11月10日)

移行したほうが目指す姿に近づけるのではないか

——シーズン移行の議論が佳境に入っています。ここまでの進捗はいかがでしょう?

 60クラブ全体が成長していくための議論が必要ですから、時間がかかるということは分かっていました。それぞれのクラブ・地域が抱える問題は異なるので、「多数決で決まれば、それでオーケー」という単純な話ではありません。感情やイメージではなく、できる限りファクトを出しながら、(現在と移行した場合の)両方のシーズンについての研究を進めてきました。それと同時に、「Jリーグが何を目指すのか」という点を明確化する作業も進めてきました。そのあたりが9月までに終わり、60クラブで大筋合意できたところです。

 今(11月10日時点)は「Jリーグが目指す姿に到達するためには、どちらのシーズンを選択すべきか」という議論に入っています。リーグ事務局としては、検討当初はフラットでしたが、この1、2か月の検討の中で「移行したほうが目指す姿に近づけるのではないか」という考えになってきました。

 ただ、乗り越えなければならない問題がいくつかあります。例えば、「リーグ戦の平日開催が何試合増えるのか」「降雪地域のクラブのアウェイゲームは何試合連続になるのか」といった問題点をしっかり可視化しながら、60クラブと一緒になってスピーディーに検討し、最後の決断に向かっていきたい。60クラブやファン・サポーター、周辺のステークホルダーの皆様も含めて、「こうやって成長していこう」という空気を作れるかどうかが大事になると思っています。

——10月には各クラブの意見が表明され、シーズン移行に好意的なクラブが多いと感じました。

 10月頭の分科会では、多くのクラブから「シーズンを移行したほうが、Jリーグの目指す姿に近づくのではないか」という意見をいただきました。これは最終的な意思ではないので、ポジティブな表明の中にも「ここは詰めないといけないよね」とか、「ここは条件付きだよね」という部分もありました。現在はそうした課題に関してスピーディーに考えていこう、という段階です。

 ただ、誤解してほしくないのは、Jリーグはリーグ事務局が上でクラブが下という関係ではないということです。むしろ公益社団法人のガバナンスでは、クラブが株主のようなものです。リーグ事務局でなんらかの絵を作って「こっちに行きましょう」と促すのではなく、60クラブ全てが各々のクラブとJリーグ全体の発展を考えて決めていこう、と。私たちはその意見を整理しながら、リーグ全体としての決断をファシリテートする立場だと思っています。

——今後詰めていくべき論点のひとつに、「冬は雪が積もる」「試合どころか練習もままならない」といった降雪地域の抱える課題があると思います。各クラブからの声をどのように受け止めていますか?

 似たような環境のクラブでも意見はさまざまで、降雪エリアでもシーズン移行に対してポジティブに考えていらっしゃるクラブもあります。「冬はスポーツができない」「外に出られない」という話がありますが、だからこそ、私たちはその環境を変えたい。もちろん1年、2年で解決できる問題ではありませんが、30年前からの課題ですから、次の30年に向けて改善したい、どんな地域でも、いつでもスポーツができる環境を整えたい、と。

 また、我々は案A、案Bと複数の試合日程案を用意していて、例えば案Bの場合、12月、2月に試合をする期間は現在のシーズンとあまり変わらないんですね。ウィンターブレイク中はキャンプを張ることになりますが、シーズン中かプレシーズンかは別として、それは今も同じですよね。クラブの負担がどれくらいになるのかを計出し、逆に、どんなチャンスがあるのかを一緒に考え、「こうすれば乗り越えられますから、プラスの側面をもっと考えていきましょう」という話もできると思っています。

ヨーロッパに拠点を作ってJクラブをサポート

欧州5大リーグとJリーグのハイインテンシティ走行距離の比較。日本が夏に向けて谷のカーブを描くのに対し、欧州5大リーグはシーズン開幕後から徐々に上がっていく山のカーブを描いている 【Jリーグ提供の報道資料から】

――現行のシーズン制も、シーズンを移行したとしても、100点満点ではないですからね。

 致命的な問題があるのかどうか、トータルで考えてどちらがいいのかを確認することが大事だと思っています。その点で言えば、今のシーズン(2月開幕・12月閉幕)だとインテンシティの高さが夏場に向けて谷型のカーブになる傾向があり、これは変えなければならない致命的な問題だと我々は考えています。シーズン移行によるマイナスが多少あったとしても、致命的な問題を解決できるなら移行したほうがいいのではないか、と。

 これに関しては、「フットボールの質の向上を最優先にして、クラブの価値を考えていく」という考え方もあれば、「フットボールはパーツのひとつであって、どのようにお客様に支えられていくかが大事だ」という考え方もあり、クラブによって異なるはずです。それによってクラブの最終的な意思が変わってくるのかなと捉えています。

――フットボールの質については、シーズンを移行しないと向上させるのは難しいですか?

「今のシーズンのままで夏に休めばいいのではないか」という考えもあると思います。実際、サマーブレイクを入れた試合日程も作りました。ただ、これだとカーブの落ちを抑えることはできても、カーブを逆にすることはできないんですね。我々としてはカーブを逆にすることが大事だと思っていて、実行委員会でも「このグラフを見ただけで、シーズン移行すべきだと思う」という意見が出ました。

 シーズンが始まって、どこまで高みを目指せるかというのがアスリートの基本なのに、日本はシーズンが始まってからコンディションが下がっていくのを我慢して耐えて……ということを繰り返している。高みを目指してチャレンジを積み重ねた数年と、我慢して耐えることを積み重ねた数年では、まったく違ったものになるのではないか、と。これはシーズンを移行しないと、変えられないのではないかと思っています。このパフォーマンスのカーブの話ともうひとつ、私たちがシーズン移行の議論で大事にしているのは、移籍マーケットでどう戦っていくかという話です。

――ヨーロッパとカレンダーを合わせることで、移籍に関してはどんなメリットがあるとお考えなのでしょう?

 ヨーロッパではシーズン開幕前の夏のマーケットが一番大きいわけですが、現状ではそこがJリーグのシーズンの中間に当たっていて、例えば今シーズンでは、湘南ベルマーレの町野修斗選手(現ホルシュタイン・キール)、アルビレックス新潟の伊藤涼太郎選手(現シント=トロイデン)などが夏に移籍しましたよね。そうした状況はシーズンを通して楽しむ上で、Jリーグの価値が高まっていかない一因だと思っています。もちろん、シーズンを変えることでリスクがゼロになるわけではありませんが、なるべくJリーグのシーズンオフに動きがあるほうがいいと思います。

 ヨーロッパのマーケットが一番大きいところでJリーグの選手も外に出ることができれば、しっかりとした移籍金の交渉もできるようになると思います。あるクラブの実行委員の方が言うには、「冬に選手を出そうとすると、向こうの予算がなくていい数字にならない」と。一方で「夏になると金額はいいんだけど、ここで出すとチームが崩れてしまう」と悩まれていて。やはりヨーロッパに合わせざるを得ないのではないかという考えに至ります。

 少し話が逸れますが、移籍マーケットでどうすれば移籍金収益をより多く得られるかという問題に対して、クラブに任せるだけでなく、リーグとしてもあるアプローチを試みようとしています。ヨーロッパにJリーグの拠点を作って、Jクラブをサポートできないものだろうか、と。例えば、あるJクラブから「うちはこれくらいの予算規模で、こんなサッカーを考えている。ふさわしい選手はいますかね?」という提案されたとき、「こんな方がいますよ」といった情報提供ができるような、そんな拠点を作る構想があります。

——JFA(日本サッカー協会)もドイツのデュッセルドルフにオフィスを置いています。

 JFAの方とは話し合っています。どのように連携していくのかということはさておき、同じようにドイツに拠点を置くのがいいのか、ロンドンなどに置いて、日本サッカー界としてふたつの拠点があるのがいいのかなどを考えつつ、お互いサポートしようという話をしています。

——さまざまな場面で活用ができそうですね。

 欧州とウィンドーを合わせたらゼロ円移籍が増えるのではないかという懸念もあると思いますが、そもそもそれは今の環境に基づいた発想です。大きなマーケットで勝負するためには、どんな経営者、どんなGMが必要なのかを考え、クラブと一緒になってJリーグとしても人材を育成していきたいですし、クラブ側のオーナーの発想が変わることで、そうした方々が登場してくることもあると思います。拠点を置くことによっても、活性化できればいいなと。また日本選手の行き来だけではなく、向こうの選手の行き来も含めて可能性は大きいと思います。

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著者プロフィール

1989年生まれ。大分県豊後高田市出身。大学院卒業後、地方紙記者を経て、2017年夏から「ゲキサカ」でサッカー取材をスタートさせた。日々のJリーグ、育成年代取材のほか、18年9月の森保ジャパン発足後から日本代表を担当し、19年のUAEアジアカップ、22年のカタールW杯で現地取材。21年からシャレン!アウォーズ選考委員。VARなど競技規則関連の発信も続けている。

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