仙台育英、「2回目の初優勝」を目指す夏 日本一を逃す悔しさを知った春の経験を糧に
思い描いた通りの成長曲線
「昨年、日本一を果たしたあと、2023年の6月末には『このぐらいのチームになっていたらいいな』と思い描いていたところに、ぴったりときています。速すぎず、遅すぎず、高すぎず、低すぎず、計画を超えて良くなったことはないですが、計画に及ばなかったところもありません」
具体的に、思い描いていたチーム像はどんなものなのか。
「昨年を振り返ると、3年生に打力に長けた選手が多く、2年生は投手陣を中心に守りに長けた選手が多いという特徴がありました。最上級生に上がるなかで、打力が上がってくれば面白いと思っていたところで、緩やかではありますが、それが達成されつつあります」
ただし、「打ち勝つ」ところまでは想定しない。あくまでも戦いのベースは守備。投手陣の層の厚さは、高校トップクラスと言って間違いない。野手を含めて、最速140キロを超える選手が13人。さらに、今春の県大会では湯田統真、東北大会では髙橋煌稀、仁田陽翔が150キロの大台を突破し、高校球界初の「150キロトリオ」が誕生した。加えて、ゲームメイク能力に長ける左腕・田中優飛の成長も著しく、誰がエースでも不思議ではないほど力のある投手が揃っている。
「投手陣は順調に成長しています。球速が上がっているのは、技術とフィジカルがうまく融合している証です」と須江監督は目を細める。
特筆すべきは、投手陣の軸とも言える髙橋と湯田の取り組みの質が、非常に優れていることだ。
「それが今年のチームの、本当の意味での強さかもしれません。内外から“中心人物”と思われる選手の練習や生活の質がいい。周りにいい影響を与えています」
エース番号をつけるのは、昨夏、日本一のマウンドに立っていた髙橋。秋春夏と、すべての大会で「1」を背負う。湯田が、「練習試合でも公式戦でも一番安定しているのが煌稀」と言えば、田中は「たとえ調子が悪くても、トップクラスの結果を出す。エース番号にふさわしい」と、その実力を認めている。
そして、最強投手陣をリードするのが1年秋から正捕手を務める尾形樹人だ。
「ピッチャーの良し悪しに一喜一憂せずに、冷静に常に客観的にリードできるのが尾形の良さ。期待し過ぎず、不安になり過ぎず、一番良いところに落とし込む。こんな高校生はなかなかいないと思います」(須江監督)
尾形自身は、2年春から夏にかけて、練習試合で須江監督の横に座り、「配球の勉強をしたことが今に生きている」と振り返る。
投手陣が注目されることが多いが、「ずっとピッチャー、ピッチャーと言われてきて、取材も多い。自分もそこに入って写真を撮りたいなと思うこともあります」と、笑いながら本音を教えてくれた。継投が主の仙台育英だけに、各投手の特徴を生かす尾形の存在は、言うまでもなく大きなものがある。
日本一のカギは「求め過ぎないこと」
「試合の途中で、代打、代走、守備固めと、スペシャルな選手を投入することで、チームの力をより発揮できる。スタメン9人のままで戦うことはまずありません。だからこそ、大会の直前までメンバー争いを行い、“旬”な選手を見極めています」
須江監督は2018年に就任してから、「メンバー争いの扉は常に開かれている」「日本一激しいチーム内競争の先に日本一がある」と言い続け、実際にそれをやってのけている。県大会中であっても、甲子園のメンバー入りをかけた紅白戦を組み、すべての選手が高いモチベーションで戦い続ける。
昨夏は、県大会ではスタンドで応援していた岩崎生弥(現・東北学院大)が紅白戦で結果を残し、甲子園からメンバー入り。決勝で満塁本塁打を放つなど大活躍を見せた。甲子園の計5試合で、1試合平均14.6人の選手が出場した。
2回目の初優勝へ――。
指揮官が考える優勝のカギは何か。
「お互いに求め過ぎないこと、です。『これぐらいはできるだろう』という期待値が高くなると、うまくいかなかったときに、『こんなはずじゃない』という感情が湧いてきます。どれだけ身の丈に合った野球ができるか。自滅をすることがなければ、どの学校と戦っても競る力があり、最後に抜け出すだけの力もあると思っています」
初戦(2回戦)は7月14日。日本一から招かれるための戦いが始まる。
(企画・編集/YOJI-GEN)