バスケW杯に向けて台頭が期待される新戦力 「U22世代」の富永啓生、金近廉が見せる成長と理由

大島和人

富永啓生(右)は同世代の河村勇輝(左)とよく行動を共にしている 【写真は共同】

 フィリピン、日本、インドネシアで共催されるバスケットボールの男子ワールドカップ(W杯)開幕まで、2カ月を切った。日本はグループリーグの初戦(vs.ドイツ)を8月25日に沖縄アリーナで戦う。大一番に向けた強化合宿が、6月26日に東京都内でスタートしている。

 26日の練習公開には27日に欠場が発表された八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)と、W杯には出場する予定だがNBA選手会のルールで代表への帯同期間が制限される渡邊雄太(ブルックリン・ネッツ)が不在だった。ただシーズンの重複で参加できない活動が多かった海外組の馬場雄大、富永啓生(ネブラスカ大)は初日から帯同している。

東京五輪からメンバーが大きく入れ替わる

 日本代表のメンバーは2019年のW杯中国大会、21年の東京五輪から大半が入れ替わった。そして若返った、2016年のBリーグ開幕とともに進んだ様々な取り組みが、若手の発掘と成長に寄与している。

 河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)は22歳になったばかりだが、2022-23シーズンのBリーグMVPを受賞している。キャプテンの富樫勇樹とともに、ポイントガード(PG)としてチームの司令塔を任されることになるだろう。

 富永啓生(22歳)は昨年7月のFIBAW杯アジア地区予選ウィンドウ3(オーストラリア戦、チャイニーズ・タイペイ戦)で2試合35得点の活躍を見せた。金近廉(20歳)は今年2月のW杯予選ウィンドウ6・イラン戦で20得点と見事な代表デビューを飾った。そんな「U22組」がトム・ホーバス率いる日本代表に主力として絡んできそうだ。

 3人を見れば分かるように、逸材のキャリアパスは多様化している。河村と金近はいずれも東海大を中退し、他の選手より2年早いタイミングのBリーグ入りを選択した。冨永は愛知・桜丘高を卒業後にレンジャー・カレッジ(短大)に留学し、在米2年目からはネブラスカ大に転校。アメリカの生存競争に身を起きつつ、ステップアップに成功している。選手全員にとって中退、留学がベストの選択とは限らないが「正しいタイミングで正しい場にいる」ことはキャリアにおける鉄則だ。

 さらにいうと渡邉飛勇(琉球ゴールデンキングス)、ジェイコブス晶(NBAアカデミー)のような「アメリカで生まれ育った日本人」の発掘も増えた。これは東野智弥技術委員長の熱意と人脈が奏功している部分だ。

富永は1年10キロ増でプレーの幅を広げる

 富永は桜丘高時代から3ポイントシュートの名手として知られているシューティングガード(SG)。父・啓之さんは身長211センチの元日本代表センターで、母・ひとみさんは三菱電機でプレーした左利きシューターという二世選手だが、母のスキルと父の体格が合わさったプレーヤーになっている。

 息子は高校入学後に身長が伸びた晩熟型で、高3のウインターカップ時は185センチ・72キロと細身だった。ただ今の彼は見違えるほどに逞しくなっている。26日の取材“この1年間で強化したところ”を問われた富永は「当たりのフィジカルとディフェンス」と即答していた。

 本人のコメントによると体重が去年より10キロ増え、現在84キロ(JBAの登録は188センチ・80キロ)。NCAAⅠ部の名門・ネブラスカ大に転校したことで生活、トレーニングの環境が変化した。ウエイトトレーニングは専門のトレーナーがマンツーマンで見る手厚いサポートを受け、オフコートでも「1日5、6食を頑張って食べる」日々を送っている。そんな成果がコート上に現れつつある。

「ネブラスカの1年目はなかなか思うようなプレーができなかった。ずっと言われてきたフィジカルが、自分も大事だなと思っていました。2年目にそこを強化し始めたら、プレーの幅がもっと広がりました。フェイスガード(ボールを持たせないように1対1で張り付く対応)をされたときの振り切れる力がついて、ディフェンスも当たり負けをしづらくなった」(富永)

 本人が口にしていたもう一つの成長は「オフボールの動き」だ。ネブラスカ大でも日本代表でも、当然ながら危険性の高いシューターである彼は厳しいマークを受ける。ボールを受けさえすれば高確率で決められるのだからズレを作る、マークを外す駆け引きのレベルが上がれば鬼に金棒だ。かくして富永は守備、シュート以外のオフェンスも含めたオールラウンドな選手に脱皮しつつある。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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