選手がユーチューブで相手を分析? 鹿児島U-15の「判断を奪わない」指導と異色のスタイル

大島和人

鹿児島ユナイテッドは今夏のクラブユース選手権U-15に初出場を果たした 【梶秋幸】

初出場の異色チーム

 第37回日本クラブユースサッカー選手権(U-15)大会が、8月15日から北海道で開催されている。全国の予選を突破した、中学生年代でもよりすぐりの48チームが参加するトーナメントだ。世代トップの有望選手が集合する大会で2年後、3年後にはもうJリーグのピッチに立つような選手もきっといるだろう。

 この夏のクラブユース選手権U-15を取材して、異色のチームを発見した。それは鹿児島ユナイテッドFC U-15。今季のJ3で首位争いを繰り広げている鹿児島ユナイテッドFCのアカデミーで、同大会は初出場だった。強豪の揃うグループに入ったこともあり、1勝2敗でノックアウトステージ(決勝トーナメント)への進出は逃したが、印象深いサッカーを見せていた。

「謎」の多いスタイル

 試合を見てこれだけ「謎」を味わったのは久しぶりだった。このチームは何をしようとしているのか?そもそも布陣は何だ?ピッチで起こる現象を必死に追っても、なかなか答えが出ない。

 フォーメーションはどうやら[4-3-3]だが、中盤の3人が流動的に動くし、前後左右の配置も定かでない。守備はマンマークで相手を「捕まえに行く」対応をするのだが、一方でスペースはしっかり埋まっている。攻撃になるとマークを捨てて果敢に飛び出すが、全体のバランスは崩れず、リスク管理もできていた。

 試合中の変化も大きかった。FC.フェルボール愛知からリードを奪った後半はポジションを下げて徹底的にスペースを消し、粘り強く耐える守備に切り替えた。終了間際にカウンターから1点を追加し、3−1の勝利を飾っていた。

 強いて例えるとイビチャ・オシムが指揮を取っていた時代のジェフユナイテッド千葉と近いスタイルだ。ただ融通無碍であるがゆえに観察していてもチームの約束事、位置取りの法則性が見えなかった。

 もう一つ不思議だったのは、ベンチが全くと言っていいほど指示を出さないことだった。バレーボールを中心に「監督が怒ってはいけない大会」というムーブメントが広がっていることはよく知っている。とはいえポジティブな内容も含めてこれだけ「声をかけない」ベンチはサッカーでも珍しい。

「相手にとって嫌なこと」がテーマ

 試合が終わってすぐ、筆者はチームのベンチに向かって指揮官に「謎」をぶつけた。

 鹿児島U-15の本城宏紀監督は35歳。鹿児島実業3年の冬にDFとして全国高校サッカー選手権に出場し、決勝で野洲に敗れたものの準優勝を果たした。なお鹿実の同期だった西岡謙太は2019年まで現役を全うしたのち、現在は鹿児島U-13の担当コーチだ。

 本城は福岡教育大を経て地元の「ヴォルカ鹿児島」に加わった。病院職員として勤務をしつつJFLでプレーを続けていた2014年、ヴォルカはFC KAGOSHIMAと合併してJ3入りに向けた新クラブが発足する。彼は新生・鹿児島ユナイテッドで1シーズンプレーしたのち引退し、コーチとしてU-18の立ち上げに参加した。その後U-15の監督に移り、今に至っている。

 チームのフォーションについて尋ねると、このような答えが帰ってきた。

「相手にとって嫌なことをテーマに、子どもたちのアイディアをなるべく肯定しながら……というのをやり続けて、ああなっています」

 数的優位はサッカーにおける守備の鉄則だが、一方で育成年代では違うアプローチも有用だ。本城監督は「1対1で守り切る」ことを重視している。

「もちろんチームで勝ちたいですけど、まず『1対1のマッチアップをどう勝つか』をずっと促していました。チームというより個人としてどう守ろうか?あのような相手にどう優位に立とうか?それが君のスキルアップだよね?という感じでやっていました」

鹿児島U-15の指揮を執る本城宏紀監督 【大島和人】

傍からは「バラバラ」に見える?

 こちらが「チームの狙いを掴みかねていました」と問いかけると、35歳の指揮官は我が意を得たりの様子で、「ですよね?」と食いついてきた。

「どの方にも結構言われますが、傍から見ているとバラバラな感じに見えるみたいです。『そう思われるだろうな』と分かっています。もちろんチームとしてやらなければいけないこともありますけど、でも僕らは個にフォーカスして全国の舞台でもやりたかった」

 鹿児島U-15の攻守は、確かに発想が他のチームと大きく違う。一方で話を聞けばシンプルで、むしろ「スタンダード」「基礎」を突き詰めているのかもしれない。

 チームの攻撃について、本城監督はこう原則を説明する。

「例えば相手がリトリート(後退)しているときはどうする?とか、中央が固かったらどうする?とか、相手が広がったらここが空いてくるよね?とか……。そもそも崩すのでなく、ミドルシュートもありますよね。そういった超シンプルなことを言って、その価値を高める考えで取り組んでいます」

1/2ページ

著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント