「選手権制覇」の名将は千葉U-18を“県リーグ”からどう引き上げようとしているのか?

大島和人

朝岡隆蔵・千葉U-18監督 【大島和人】

 7月24日、群馬県内で第46回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会が開幕した。今大会は出場32チームがすべてJのアカデミーチーム。メディアの注目度は高校サッカーに比べると低いが、チームと個の平均値は率直に言ってクラブの方が高い。レノファ山口、ブラウブリッツ秋田のような2010年代にJリーグへ参入したクラブのU-18も既に全国レベルへ達し、底上げが進んでいる。

 ジェフユナイテッド千葉U-18も関東の予選を勝ち抜き、3年連続でこの大会に参加していた。初戦で大分トリニータに2-2と引き分けたものの、第2戦は川崎フロンターレに0-1、第3戦はツエーゲン金沢に1-2で惜敗。グループステージの突破はならなかった。

「育成のジェフ」が現在は県1部

「育成のジェフ」という表現をよく目にしたのは、おおよそ20年前のことだ。ジェフ(当時はジェフユナイテッド市原)のアカデミーは現・湘南ベルマーレ監督の山口智、ワールドユースナイジェリア大会の準優勝に貢献した酒井友之といった人材を続々とトップに送り出していた。特に強烈だったのは阿部勇樹、佐藤寿人、佐藤勇人と後の代表選手が固まりで名を連ねていた1981年度生まれの世代だろう。

 しかし今はどのクラブもアカデミーの強化に力を入れていて、競争が激化し、選択肢は増えた。近年も櫻川ソロモンのような人材が輩出されているし、環境や指導者の質が劣っているわけではない。ただ千葉は県リーグ1部からなかなか「関東」「東日本」の上位カテゴリーに届かないでいる。

 U-18を任されて4シーズン目を迎えているのが朝岡隆蔵監督だ。1994年の第73回全国高等学校サッカー選手権大会では市立船橋の初制覇を経験。監督としても母校を2011年の第90回大会制覇に導いた。選手、監督として選手権制覇を経験した史上初の人物でもある。

 彼は公立高の教員という安定した立場を捨て、プロクラブの現場に飛び込んだ。今大会初戦の大分戦後に、その朝岡監督から話を聞いた。テーマはU-18の現状、高校とクラブの違い、そして彼が千葉U-18の指導者として持つ“野心”だ。

「ポジショナルプレー」がコンセプト

 群馬で見た千葉U-18は“グッドチーム”だった。布陣は可変式の[4-3-3]。両サイドのウイングは攻撃時に外へ張り、守備時は1トップが引いてウイングが絞る[4-4-2]に変わる。「外」「間」の立ち位置や距離感が整理され、相手を迷わせるような動きを繰り出してくる。サッカー用語を使って説明すれば「5レーン」「ポジショナルプレー」の発想を導入している。

 朝岡はこう説明する。

「クラブとしてのコンセプトを持って、しっかりボールを動かして、スペースを見てフリーを見つけて、優位性を使いながら、主導権を取って押し込んでいくサッカーをしています。[4-3-3]の5レーンで、位置的な優位性をとにかく取る、サイドで優位性を作るところは基本コンセプトですね。最初は立ち位置だけで優位性を取ってやっていましたけど、それだけだと立ち行かないことがある。『どうアクションを起こすか』っていうモビリティ(動き)のところまで今はやっています」

 もっとも彼が市船の監督として2011年度の選手権でやっていたスタイルと、今の千葉U-18ではかなりの違いがある。難易度の高いサッカーに取り組んでいる分、千葉U-18のサッカーはやや完成度が低く、率直に言って隙もある。大分戦の2失点はいずれも自陣の低い位置で相手にボールを奪われる“安い失点”だった。とはいえ彼らが取り組んでいるのは「人を育てる」「先につながる」サッカーなのだろう。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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