選手がユーチューブで相手を分析? 鹿児島U-15の「判断を奪わない」指導と異色のスタイル
選手が勝手に始めたYouTube分析
チームは「子供たちの楽しさ」を重視している 【梶秋幸】
「放置しすぎじゃない?放任しすぎじゃない?という指摘はよくあります。予選からずっと言われていますけど……。それは彼らが嫌いとか、何も伝えないということではありません。『子どもたちの楽しさ』『アイディアを出し合って勝つ喜び』『今までできなかったことができるようなること』を僕らは大切にしています。こちらがあれこれ言って判断を奪いたくない……。それを心がけていると、こういう雰囲気になります」
選手の発想を可能な限り肯定し、アイディアを出す喜びを損なわなかった結果として、彼らは自発的に試合に勝つプランを探求し始めていた。それも昭和や平成のサッカー少年とは違うアプローチで“答え”を見つけていたという。
「子どもたちは必然的に、YouTubeとかで相手の映像を見るわけです。見ろと言ったわけではなく、勝手に映像を見てミーティングをして、話を始めました」
鹿児島U-15が初戦で勝利を挙げたフェルボールは強豪とは言え“街クラブ”だが、動画サイトを検索すれば東海地区予選のハイライト映像がアップされている。本城監督は中学生たちが完遂したスカウティングの中身をこう明かす。
「コーナーキックでも、相手のパターンが分かっていたんです。(フェルボールの)1本目のコーナーは相手がニアに走り込んでスルーして、後ろの選手が打つ狙いでした。でもそれを子どもたちは理解していました」
選手の発想を損なわない
「PDCAサイクルではないですけど、子どもたちが『相手はこうしてきそうだから、こうしよう』と取り組むことを大事にしています。コーチがとやかく言い続けると、せっかくの発想を損なってしまう。自分たちで考えて実行して、それを評価して、また改善して実行に移すサイクルを邪魔するのではないか?とか思います。県予選からずっとそういう形でやって1試合1試合、僕の中では成長が見えました」
“後発”ながら進んでいる環境整備
さらに鹿児島の育成年代は群雄割拠だ。九州は中高一貫の私立中がクラブチームに先行していた土地柄で、鹿児島なら神村学園と鹿児島育英館が「中学二強」だ。神村学園は高校も冬の選手権に5年連続で出場している全国の常連で、今は大迫塁や福田師王、名和田我空ら付属中出身の年代別代表選手を擁している。鹿児島育英館中→鹿児島城西高のルートからは日本代表のエース・大迫勇也が輩出された。さらに古豪の鹿児島実業は2017年に「FC KAJITSU U-15」を立ち上げて、やはり一貫指導体制を整備している。全国の強豪校がこぞって中高一貫体制を整備している昨今だが、鹿児島はその先駆的な地域だ。
鹿児島ユナイテッドはトップが2014年、U-18は2015年のスタートだ。相対的には後発だが、そこから徐々に積み上げている。
「最初の頃は少年団の例えば4番手とか5番手が来て、1・2番手は神村、育英館とかKAJITSU、太陽SCに行っていました。でもこの世代くらいから、徐々に一番手が来てくれるようになっています。少しずつ知名度が出てきているのかな?と思いつつ、でもまだまだです」
練習場は2021年に「unita」(ユニータ)と称する施設が完成。トップ用の天然芝とアカデミー用の人工芝を備えた施設が、鹿児島市街から40分ほどの喜入町に完成した。バスによる送迎は必要だが、土のピッチを転々とする状況からは環境が大幅に改善されている。
鹿児島のアカデミーが全国的な強豪として認知されている、トップに人材をコンスタントに輩出しているという状況にはまだ至っていない。チームが乗り越えるべきハードルはいくつもあるだろう。しかしチームの現状と今後を語る本城監督は楽しそうで、最後まで前向きだった。
南国・薩摩の未来を担う指揮官は言う。
「2040年までにトップチームに在籍している選手のうち4割をアカデミー出身者しようね、というのが目標の一つです。短期でなく長期ですが、どんどん良くなってきていると個人的に思っていますし、(今後が)楽しみです」