連載:カタールW杯組分け決定!「日本は世界で勝てるのか」

ザックがW杯で日本の躍進を信じる理由 「メンタル的な壁さえ乗り越えれば……」

片野道郎
 2010年8月30日の就任から約4年間、日本代表監督を務めたアルベルト・ザッケローニ。当時“史上最強”と呼ばれた代表チームは、なぜ14年のブラジル・ワールドカップ(W杯)でグループリーグさえ突破できなかったのか。当時の問題は、今も根強く残ると指摘するザックは、しかしその一方で、今回のカタールW杯における日本の躍進を信じて疑わない。ドイツ、スペインという強豪国と同じグループに組み込まれたが、「相手がどこだろうと、世界を驚かすことができるはずだ」と断言する。

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「欧州や南米に対するコンプレックスを捨てるべき時期に来ている」と強調するザック。ドイツやスペインを、逆に振り回すような戦いも可能だという 【YOJI-GEN】

問題は私が代表監督だった頃と同じだ

――カタール・ワールドカップ(W杯)のグループリーグで、日本代表は優勝候補のドイツ、スペインと同じ組に入りましたね。まずはその感想から聞かせてください。

 厳しいグループであることは確かだが、日本はいつも私を驚かせてくれるからね。最近の試合を見たが、相変わらず質の高いプレイヤーが揃っているし、チームとしてもよく組織されていた。ドイツやスペインが相手でも勝機を見出すことは可能だと思うよ。個人的には、日本とドイツに勝ち上がってほしい。日本は私にとって第二の故郷だし、ドイツ代表のゼネラルディレクターは、かつて私の下で(ウディネーゼとミランで)6年間プレーした(オリバー・)ビアホフだからね。彼は私にとって息子のような存在だよ。

――ドイツ代表に関する意思決定は、すべて彼が担っているんでしたよね。

 A代表はもちろん、育成年代から女子までドイツ代表のすべてのカテゴリーを統括しているのが彼だよ。

――今大会でも優勝候補の一角に推されるドイツですが、昨夏に(ヨアヒム・)レーヴから(ハンジ・)フリックに監督が代わって以降、ポゼッション志向がやや弱まった分、縦への意識が強くなった印象があります。総じてフィジカル能力が高く、戦術的によく組織されている上に、個のクオリティも高いですよね。

 ドイツは本当に強い。優勝候補の筆頭だと私は見ている。それに比べるとスペインはパフォーマンスにムラがあるからね。日本にとって、決勝トーナメント進出の直接のライバルとなるのはスペインだと思うよ。

――これだけの強敵と、日本はどのように戦うべきだとお考えですか。

 問題はおそらく、私が代表監督を務めていた頃(就任期間は2010年8月~14年6月)と同じだ。私の日本代表は、14年のブラジルW杯に臨むまでのアプローチに関して、まったく申し分がなかった。それまでの4年間で思い描いた通りの成長を遂げ、あとはその成果を本番で発揮するだけだった。実際、私はアメリカでの直前キャンプを終えた時点で、「このチームは頂点を目指して戦うための準備がすべて整っている」と確信を抱いていたからね。しかし本番で明らかになったのは、技術、戦術、フィジカルが万全だった一方で、唯一メンタル面がまだその域に達していなかったということだ。自分たちは相手よりも劣っている、格下なんだという意識が完全に抜け切っていなかった。

 日本はもう、ヨーロッパや南米に対するコンプレックスを捨てるべき時期に来ている。ハードルを高く設定して、正面からそれにチャレンジすべきなんだ。フィジカル的にも戦術的にも、個のクオリティにおいても組織においても、日本は「夢を見る」に値する。これまで到達したことのない高みへと上り詰める力を、すでに備えていると思うよ。

――前回のインタビュー(20年11月公開)でも、そう話されていましたよね。日本は強豪相手にリードを奪い、優位に立ったその瞬間から、気持ちが守りに入って萎縮し、それまでの勇気や大胆さを失ってしまうと。

 ああ。ブラジルW杯の初戦(コートジボワール戦/1-2で敗戦)が、まさにそうだった。先制した後、私は2点目、3点目を奪いに行くことだけを考えていたし、チームにもそれを求めていた。しかし追加点を決め損ねた後、気持ちが守りに入ってしまってね。さらに上を目指すべき状況にいたにもかかわらず、そこで歴史を振り返ってしまったんだ。今まで一度もW杯で主役を演じたことがないという歴史をね。日本がやるべきは、過去に縛られず、新たな歴史の1ページを書き記すことなんだよ。

90分を通して戦う燃料はドイツよりも多い

ザックが率いたブラジルW杯のコートジボワール戦に続き、ロシアW杯でもベルギーに逆転負けを喫した日本代表。今回こそメンタル面の課題を克服したい 【Getty Images】

――それから4年後のロシアW杯でも、ラウンド16のベルギー戦で同じような状況を迎え、同じ罠にハマりました(2-0のリードをひっくり返されて2-3の逆転負け)。この心理的な壁を乗り越えることはできるのでしょうか。

 今の日本にはそれができるはずだ。私の時代はもちろん、4年前と比べても海外でプレーし、経験を重ねている選手は増えているからね。

――イングランドやドイツから、ポルトガル、オランダ、ベルギーまで、UEFAランキング上位15カ国の1部リーグだけで、在籍する日本人選手は40人を超えています。

 私が監督になった時点では長谷部(誠)、本田(圭佑)、吉田(麻也)など、海外でプレーする選手はほんの数人に過ぎなかった。11年1月のアジアカップで優勝してから、徐々に増えていったのを覚えているよ。

――基本的なクオリティに加えて、これだけの経験値があれば、たとえドイツが相手でも、ボールを支配して攻撃的に振る舞う自分たちのスタイルで真っ向勝負を挑めるとお考えですか。

 というか、日本にそれ以外の戦い方はできないだろう。違うタイプのサッカーをする基盤を持っていないからね。マリーシアを前面に打ち出すなんて想像できるかい? 日本にいた頃、「私たちにはマリーシアが足りない」という言葉を何度も聞いたが、そもそもマリーシア(狡猾さ、ずる賢さ)というのはフルビツィア(イタリア語で「抜け目のなさ」)のネガティブな表現だ。日本のサッカーにはもともと存在しない要素だよ。以前にも言ったと思うが、私は本来、ピッチ上でマリーシアを使うことには反対なんだ。アンフェアだからね。ただ、抜け目なく振る舞うことは必要だ。ヨーロッパでプレーしている選手たちは、少しずつそれを学んでいるはずだよ。

――ドイツのようにフィジカルなチームが前線から強烈なプレスを仕掛けてきたとしても、後方からのビルドアップでそれをかわし、攻撃を組み立てていくべきだと?

 ああ。それが日本のサッカーだからね。日本のテクニックとプレースピードがあれば、ドイツよりも速くボールを動かすことは可能だ。ただ、横にではなく縦に、前方のスペースへとパスをつないでいく必要がある。そして、試合は90分あることを忘れてはならない。持久力は日本の強みの1つで、この点でも間違いなくドイツを上回っているからね。歴史と実績、経験値では敵わないかもしれないが、それらはピッチに立てば一旦忘れるべきだ。大事なのは、ピッチ上でチームがどう振る舞い、どう戦うか、それだけだからね。日本は組織力と個々の献身性においてもドイツを上回っているし、繰り返しになるが持久力に優れている。90分を通して戦うための燃料を、ドイツよりも多く持っていることを自覚すべきなんだ。

――忍耐強く戦うべきだということですか。

 いや、そうじゃない。自分たちのリズムを押し付けて、相手を振り回すんだ。忍耐はプレーをスローダウンさせる。日本はスローダウンしてはいけない。90分間、高いインテンシティを保って戦い切る持久力。これこそが日本の大きな強みであり、それを最大限に活かすべきだ。

――ドイツはヨーロッパで最もインテンシティの高いチームの1つですが、日本はそれを上回っていると?

 日本はドイツよりも高いインテンシティを保てる。90分間、あるいはそれ以上の時間を通してのインテンシティなら、間違いなく上だ。

――短い時間の最大値ではなく、90分を通しての平均値ということですね。

 そう。ハイペースの試合展開を続けてドイツを走らせること。そうやって日本サッカーの特徴、良さを活かすんだ。相手にボールを持たせるのではなく、自分たちが持ち続ける。ポゼッションをするためではなく、縦に運んでゴールを奪うためにね。1タッチ、2タッチで素早くボールを動かすことで、ドイツを走らせ、疲弊させる。日本には90分を通してそれをやり切るクオリティとインテンシティが備わっている。

――人とボールが前方のスペースに向かって動きながら、チーム全体が前進していくイメージが浮かびます。

 オフ・ザ・ボールで前方のスペースをアタックし、そこにパスを送り込む。それこそピンボールのようにボールを動かしながらね。

――背後のスペースを過剰に心配せず、ボールのラインより前にどんどん人を送り込む?

 もちろんだよ。そこで後ろ髪を引かれるとどうなるかは、過去のコートジボワールやベルギーとの戦いで経験したはずだ。

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著者プロフィール

片野道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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