甲子園にとどまらない、高校野球のあり方 日本各地で吹く“新風”とは?
「高校野球のイメージを一言で書いてみてください」
甲子園にとどまらない、高校野球の価値を発揮する動きが日本各地で行われている 【写真は共同】
2月7日、<今だからこそ伝えたい高校野球の必要性>をテーマにオンラインで開催された「プレゼン甲子園」の冒頭で、協力者である桜丘高校野球部の中野優監督はそう呼びかけた。パソコンの画面上にQRコードが表れ、読み込むと参加した高校生や保護者らによって入力されたイメージが次々と文字になって浮かび上がってくる。
「青春、文化、人間力、かっこいい、憧れ、全力、人生、一生懸命、坊主、ワクワク、古い、甲子園第一主義……」
100年以上の歴史を誇る高校野球には、各々のイメージがある。高校3年間をかけて打ち込む球児や、おにぎりを握る女子マネジャー、休日出勤や残業もいとわない指導者が典型的な姿である一方、旧来的というネガティブな印象を持つ者も少なくない。
高校野球を最も象徴する舞台は甲子園だ。数多くの激闘が“聖地”で繰り広げられ、日本の文化として定着した。
球児による熱闘は見る者を引きつける一方、高校野球の真価は甲子園にとどまらない。全国には3932の加盟校があり、各チームが独自の価値を発揮している。
とりわけ昨今はスマホやテクノロジーの普及が進み、ダイバーシティの重要性が問われるなか、高校野球のあり方も多様化してきたように感じる。なかでも顕著なのが、甲子園に届かない者たちによって作り出されている価値だ。高校生たちが自チームの活動について語ったプレゼン甲子園では、8校の興味深い取り組みが紹介された。
プレゼン甲子園の興味深い発表の数々
<今だからこそ伝えたい高校野球の必要性>をテーマにオンラインで行われたプレゼン甲子園では、8校の学校が多用な高校野球のあり方を発表した 【写真提供:桜丘中学高等学校・硬式野球部】
東京都北区にある私立桜丘高校は、チームのモットーをそう説明した。強豪校のように野球にすべてを注ぐわけではないが、平日2時間という限られた時間をいかに効率的に使い、楽しみながら成長できるかを追求している。
「自分たちの野球なんだから、自分たちで考えなよ」。中野監督はそう促し、練習メニューはすべて選手自身で組み立てられる。決して強くはないが、部員たちは自立を求められ、チームのあり方は先進的だ。
「夏は暑いから、半袖半ズボンで練習しよう」。中野監督はそう呼びかけたが、日本球界の伝統に反する考え方だ。昨夏、東京ヤクルトが「練習で短パンOK」となったことがニュースで報じられたくらい、日本球界では常にユニフォームの着用が求められてきた。それが野球選手の“正装”という観念だが、世界から見ると“非常識”と言える。例えば常夏の中南米では効率や健康優先で、半袖半ズボンで練習する。桜丘は物事を合理的に考え、同様のスタイルに至った。
「野球のことや、体の作りについて科学的に考えて行っていきます」
日本では感覚で指導されるケースが多いなか、千葉県の市立松戸高校では科学的根拠を大切にしている。例えば普段の練習から投球分析システム「ラプソード」を活用し、個々の課題を可視化する。1人の投手は速球の回転数が少ないと判明し、スナップを鍛えるトレーニングを重点的に行った結果、球速アップにつながったという。
野球人口減少を課題に感じる都立新宿高校は、「新宿ベースボールアカデミー」とう取り組みを発表した。選手たちの出身チームの小学生を招いて練習会を行い、トレーニングや障害予防の講座を実施、さらにマネジャーがスコアの付け方を教える。「野球教室ではなくアカデミー」と位置づけ、一方的に教えるのではなく、双方向性を持たせていることが特徴だ。「野球を始める子を増やすだけではなく、選手自身に臨機応変の対応力、場を仕切る力がつく」という。