甲子園にとどまらない、高校野球のあり方 日本各地で吹く“新風”とは?
ラグビー部から気づきを得る武田高校
武田高校が今冬訪れたのは、14年連続で花園に出場している尾道高校ラグビー部だった 【写真は共同】
2019年のドラフトで谷岡楓太がオリックスに育成2位で指名され、昨夏の広島大会でベスト4に入った同校の取り組みはスポーツナビでも紹介した。平日の練習時間は50分と限られるなか、トレーニングを重視し、個の成長を求めることで結果につなげるチームづくりは日本球界全体で見ても先進的と言える。
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「ラグビーのミーティングは、どのスポーツより進んでいます」。四国アイランドリーグでプレーし、指導者に転身した岡嵜監督にとって、初めて受け持った部活が神戸甲北高校ラグビー部だった。学童からトップの日本代表まで明確なピラミッド型で形成されているわけではない野球界と異なり、ラグビーでは一気通貫の組織構成があることにカルチャーショックを受けたという。“ジャパン”(日本代表)が日本ラグビー界の頂点にあり、そこを強化するための方法や指針が下の世代まで伝えられてくるのだ。
「ジャパンがここを目指しているから、うちの高校もそこを目標にしようとなっていく。だからジャパンのミーティングで話し合われる内容を、高校の指導者まで知っています」
尾道高校ラグビー部は14年連続で花園出場を果たしている強豪だ。エリートを選りすぐるわけではないが、効率的な練習で結果を残し続けている。「14年連続で花園に行く組織には、それなりの理由があるはずだよ」。同部の田中春助監督にマネジメントの相談をよくする岡嵜監督は、選手たちに事前に伝えた。
「No walk!」。1人の選手が声を張り上げると、周囲も連呼する。指導者が「練習中にグラウンドを歩くな」と一方通行で指示するより、選手たちの共通言語を作ることでチーム全体の意識が統一され、自発的に動くようになる。グラウンド内では常に選手同士でディスカッションが行われ、練習の質を少しでも高めようと意見が飛び交っていた。
練習はユニット別に行われ、全体で合わせる必要があるメニューだけ一緒に実施する。その日の練習内容は事前に張り出されて全員が認識、終わった者から次のメニューの準備に移っていく。チーム全員でノックを受け、終わったら一斉にグラウンド整備を行い、バッティング練習に入るという野球界の伝統的スタイルと比べ、はるかに効率的に映った。
「同級生にここまでチームのことを考えているヤツらがいるのか」。練習後、尾道高校ラグビー部と意見を交わし合った主将の道下黎哉は大いに刺激を受けたという。得た学びを帰って部員たちに還元し、チーム全体がうまく回り始めた。
こうして武田が他競技から積極的に学ぶ背景には、岡嵜監督のバックボーンに加え、時代の変化に敏感なことがある。
「今後の高校野球において、“野球を教える”ことはたぶんなくなっていくと感じています。うまくなる方法はすでに確立されていて、例えば専門家によるトレーニング方法や、中南米のアカデミーの練習の動画を見ることもできます。でも、漠然と見ているだけでは効果が薄い。いいタイミングでその子にマッチした材料を見せてあげ、『今の君にはここが足りていない』とガイドするのが指導者の仕事になっていくと思います」
コロナ禍で不可欠になった高校野球のアップデート
その一つが、リーグ戦の導入だ。負けたら終わりのトーナメントでは出場選手が限定されやすく、投手の登板過多を招きやすい。リーグ戦のほうが、選手の成長につなげられる。そう考える高校が新潟や長野、大阪で独自のリーグ戦を開始し、他県にも波及していきそうな気配だ。
また、中学硬式野球のポニーリーグはU18のカテゴリーを新設し、高校野球でドロップアウトした子に「次の大きな夢」を提供していくと発表した。これも広義で言えば、“新たな高校野球”のあり方だ。
新型コロナウイルスの感染拡大により、未来へ前向きな変化を求められる時代が到来した。少子化、野球人口減少に直面させられる高校野球も、ちょうどそんなタイミングを迎えている。
長い歴史の中で築き上げた甲子園という価値に、何を加え、どう変化させていくべきか。日本高校野球連盟が掲げる「200年構想」を実現するためには、高校野球のアップデートこそ不可欠だ。
そうした意味で、必ずしも「甲子園」にとらわれない者たちが、新風を吹き込んでいるのは示唆的である。上から降りてくる変化をただ待つのではなく、自ら変えようと動く者が増え始めているのは、高校野球界にとって明るい兆しのように感じられる。