連載:コロナで変わる野球界の未来

甲子園は、何のために存在するのか イレギュラーな夏に考える「高校野球」

中島大輔
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強豪校と新興校を通じて見る「1試合の甲子園」

例年の全国高校野球選手権大会が中止となり、「2020年甲子園高校野球交流試合」が行われた今夏の甲子園 【写真は共同】

 たった1試合の甲子園――。

 新型コロナウイルスの影響により、8月10日から異例の形式で開催された「2020年甲子園高校野球交流試合」に出場した32校は、それぞれの思いを胸に臨んだ。

 前年夏の優勝校で、春夏通算13回目の出場を果たした履正社の岡田龍生監督はこう話している。

「甲子園から人生が花開いた者がおれば、甲子園に出たばかりに人生潰しているヤツもおる。その経験をどうするかは本人次第。それぞれの考え方、取り組み方ちゃいますか」

 静岡から初出場した加藤学園の米山学監督は、夢の舞台をこう見据えた。

「この1試合の経験を大きくしないといけないと思っています。ここから先の加藤学園のことを考えて」

 全国に名を轟かす履正社と、創部24年目の新興校である加藤学園では当然、その位置づけは異なる。果たして“聖地”と言われる舞台は、選手、監督、学校にとって、どんな意義があるのか。例年通りの「甲子園」が中止を余儀なくされた今年、大阪の雄と静岡の初出場校のフィルターを通して見つめ直すことは、高校野球の未来を考える上で示唆があるのではと考えた。

「甲子園がなくなっても、高校野球の価値は変わらない」

大阪の独自大会でもライバル・大阪桐蔭に勝利。今シーズン負けなしで終わった履正社は岡田監督(写真左)のもと、選手自身が考えて練習する環境が整っている 【中島大輔】

「たとえ甲子園がなくなっても、高校野球の価値は変わらないと思います。だって、ほとんどの人間が甲子園に行かれへんですよ。甲子園に出ないと、高校野球が0点になるわけではない。甲子園に出なくても、高校野球を100点にできる」

 そう語る指揮官の下、履正社の選手たちは卒業後の進路を明確に意識して門をたたいてくるという。例えば元阪神の関本賢太郎を父に持ち、強肩強打の捕手として今秋のドラフト候補に挙げられる関本勇輔は、進学先に選んだ理由をこう話した。

「自分は強いチームに所属したことがなく、周りにものすごい選手がいるのはどういう環境なんだろうと興味を持っていました。それが甲子園(を狙える可能性)より大きくて」

 同じくドラフト候補の内野手、小深田大地は履正社の独特な環境に魅力を感じた。
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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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