連載:コロナで変わる野球界の未来

トミージョン手術後は絶望ではない――東海大・山崎伊織の可能性を秘めた決断

中島大輔
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取材から3週間、一転して提出したプロ志望届

10月8日にプロ志望届を提出した東海大・山崎伊織。社会人野球入りが報じられていた中での進路変更だった 【中島大輔】

 順調に行けば、2020年ドラフト会議で“目玉候補”の1人になっているはずだった。

「1位で行きたいなと思い、進路はプロ一本で考えていました」

 ちょうど1年前の今頃、東海大学の右腕投手・山崎伊織は心にそう秘めていた。右のスリークオーターから最速153キロの速球やカットボール、シュート、フォークを制球良く操り、スライダーは「伊藤智仁(元東京ヤクルト)を彷彿させる」と評されるほどのキレ味だ。即戦力性と伸びしろを併せ持ち、周囲の評価は高かった。

 それから1年後の2020年10月8日。山崎がプロ志望届を提出したというニュースは、驚きとともに伝えられた。前年秋に右肘を痛めてトミージョン手術(靭帯再建術)を受け、社会人野球に進むと報じられていたからだ。

「今、この肘と向き合っています。『2年後にプロに行きたい』とか、今は言ってられないと思うので。一番の目標はキャッチボールを始めるところまで持っていくことです」

 山崎が東海大の合宿所でそう話したのは、神奈川県平塚市を残暑が包む9月17日のことだった。患部にメスを入れてから3カ月。その言葉は生々しい。

「ズキズキして結構痛いですね。リハビリはこんなにしんどい感じではなく、もう少し簡単にいくかと思っていました」

大学最終年に下した、投手として重い決断

トミージョン手術の決断は投手として重い決断だ。しかし「落ち込んだときも1日くらいありました。自分はあまり深く考えないほうなので」と笑う(山崎は写真左) 【中島大輔】

 引き金となったのは、たった1球だ。東海大が4年ぶりに明治神宮大会への切符を獲得した2019年10月31日、関東地区大学野球選手権の上武大戦。当時3年生の山崎は5回2安打無失点の好投を見せたが、緊急降板した。

「5回くらいに投げた1球でブチンと靭帯の上側が切れたという感じです。(右肘が)熱くなってきて、全然動かなくなって」

 病院では靭帯が炎症を起こしていると診断され、まずは自然治癒を待とうとなった。しかし痛みが全然引かず、炎症では済まないのではと山崎は疑念を募らせた。
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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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