連載:コロナで変わる野球界の未来

慶大・木澤に感じる計り知れない伸びしろ 155キロ右腕が持つ、一流の“思考力”

中島大輔
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名伯楽が認める、秘めたポテンシャル

ケガで終わった高校時代を経て、野球に対する思考力を磨き、ドラフト1位候補になった木澤 【中島大輔】

 2020年のドラフト会議で「1位指名の12人に入る」と評価される慶應義塾大学の右腕投手、木澤尚文に数年後のビジョンを尋ねると、まるで予想外の答えが返ってきた。

「正直、上でやっていけるビジョンは微塵(みじん)もないので。今で手いっぱいです。早川(隆久/早稲田大学)を見ても、レベルの差を感じますし」

 183cm、85kgと恵まれた体格から最速155キロの速球を投げ込み、スライダーやカットボール、チェンジアップ、カーブと多彩な変化球を操る。周囲からは早稲田大のエース・早川らと並んで「大学最高峰」の一人とくくられる一方、本人は「自分には足りないところだらけ」と話すのだ。

 逆に言えば、こうした姿勢にこそドラフト1位候補にふさわしいポテンシャルが秘められているのかもしれない。
「社会人もそうですけど、伸びしろがあってプロに入っていくという選手じゃないと、なかなかプロの世界で通用しないと思うんですね」

 昨冬から慶應大の指揮をとる堀井哲也監督はそう語った。社会人のJR東日本時代に田中広輔(広島)や吉田一将、田嶋大樹(ともにオリックス)ら数々の選手をプロに送り込んだ名伯楽が続ける。

「プロに行ってから覚えればいいよ、という要素もありますし。例えばボールの精度。大学で完成することもないですし、完成させる必要もない。ボールの勢いで勝負できる年齢では、それでいけばいい。そういう意味で木澤は、まだまだ伸びしろがあります」

 大学生や社会人のドラフト候補が“即戦力性”を求められることは、もちろん堀井監督もわかっている。その上で伸びしろがなければ、プロで突き抜けることはできない。その好例が、30代中盤になっても成長を続けるダルビッシュ有(カブス)だろう。

 野球選手を語る上で「伸びしろ」は、よく使われる表現だ。木澤がここまで歩んできた道のりと、今後へのビジョンを聞くと、改めてその正体を考えさせられる。

練習過多でケガを繰り返した高校時代

 木澤は幼少時から名の知れた投手だった。小学6年でロッテジュニアに選ばれ、藤平尚真(東北楽天)らとともにNPB12球団トーナメントで優勝。中学3年春には八千代中央シニアで全国制覇を成し遂げた。

 当時から身長180cmの早熟で、いわゆる“スーパー中学生”と言われるタイプだ。実績を積み上げ、文武両道の最高峰である慶應高校にAO入試で合格した。
 その後に待っていたのが、高校野球の壁だった。
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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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