少頭数なら我が意をエタリオウ 「競馬巴投げ!第176回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

“寄生虫師匠”の加用厩舎・前田厩務員

 先月末、編集担当者から「9月の予想コラム、一回はGIのスプリンターズSとして、もう一回はどのレースにしましょう?」と聞かれる。

「月末に重なって悪いけど、神戸新聞杯にしてくれる?」と頼む。ダービー馬や皐月賞馬が出るという噂もあるし、何より、神戸新聞杯の週に写真を撮りにトレセンに行けば、スプリンターズSの馬も撮れる可能性が高い(GIゼッケンは2週前から装着するので)。

 ゴソッと入れ食い状態で、カメラの中が有名馬の宝庫になることもありえる。

 しかし、ほんのちょっと遅刻した。栗東トレセン倉見門到着、午前5時31分だった。10月末までは午前6時馬場開場なので、5時半までなら、マスコミも車で入れるのだが、屈強な保安係が「ダメー、1分過ぎてるから、とびら開けてあげなーい」と両手で力強く×印を作る。

 仕方なく、Uターンして、事務所前の駐車場に車を置いて、トボトボ歩いて、また倉見門に戻る。

「いま厳格にやることになってね。ごめんね」と保安係の屈強なおじさんが言う。

「いえいえ、いいんですよ、ぼくが悪いんです」と、このあたりは自分でも驚くほど殊勝だ(単に気が弱いとも言えるが)。

 車がないと、トボトボ歩いて坂路上まで上がらねばならない。

 引き運動している、馴染みの加用厩舎・前田厩務員(現在サザンボルケーノ、ゴールドドリームの姉弟などを担当している)と出会い、「あ、数分の遅れで車、入れなかったんですね」と声を掛けてくれる[番外写真1]。ズボシだ。

[番外写真1]前田厩務員とサザンボルケーノ 【写真:乗峯栄一】

 前田厩務員は寄生虫、病原菌などに極端に詳しく、それはぼくも非常に興味のあることなので“寄生虫師匠”と呼んでいる。“寄生虫Tシャツ”もたくさんもらった。またわが新刊を10冊も買い込んでくれて、みんなにプレゼントし、先日は出版記念食事会まで催してくれた。

優しい浅見厩舎・山吉助手

 厩舎地区を歩いて抜けるのは、それほどでもないが、徒歩で坂路上に行くには広い馬場の1コーナーから2コーナーの外周道路(春には桜がきれいなんだけど)を歩かねばならない。これが大変だ。[番外写真2・写真の奥に見えるのが坂路コース]

[番外写真2]坂路へと続く外周道路 【写真:乗峯栄一】

 早朝なのに、汗を垂らしながら歩いていると「やあ、乗峯さん、あれ? チャリンコ乗ればいいのに」と言う人がいる。振り向くと、山吉助手がチャリンコ乗って通り過ぎようとしている。浅見厩舎でメジロブライトやソングオブウインドなどGI馬を担当した人だ。[番外写真3]

[番外写真3]浅見厩舎の山吉助手 【写真:乗峯栄一】

「ああ、あの自転車ねえ。ぼくも乗りたいんだけど、○の中に大きく「調」って書いてあるし、日本調教師会って後ろにもちゃんと書いてあるし。もし“キミは調教師か!”って怒鳴られたらどうしようと思って」[番外写真4・橋口調教師と宮本調教師の5年ほど前のツーショット。宮本調教師の乗っているのが憧れの“マル調自転車”]

[番外写真4]宮本調教師(左)が乗っているのが憧れの“マル調自転車” 【写真:乗峯栄一】

「そんな、誰でも乗っていいんですよ。それに乗峯さん、もう大概の調教師は乗峯さんよりキャリア浅いじゃないですか。オレは調教師より先輩だって言えばいいんですよ」と笑う。

 山吉助手は優しい。ソングオブウインドで菊花賞勝ったとき「山吉さんはぼくが知っているトレセン・スタッフの中で一番顔が長い(もちろんいい意味で)。だからメジロブライトもソングオブウインドも厩舎でリラックスして、GI取れたんだ」てなコラムを書いた。内心ドキドキしていたが、翌週トレセンで顔を合わすと「いいコラム、ありがとうございました」と笑っていた。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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