ああ書きづらい。スティッフェなんとか。 「競馬巴投げ!第175回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

お返し、ほんとにありがとうございました

[写真1]スティッフェリオ(左)とダンビュライト 【写真:乗峯栄一】

 いつも世話になっているからと、今回の拙著『競馬妄想辞典』を進呈したら、何人かの人から、その何十倍もの価値のお返しをもらってしまった。

 松田調教師、宇治の肉牛牧場経営者・飯田孝明さん、生野の競馬男・橋本社長など、ここはそういうことを書く場所ではないかもしれないけど、ほんとにありがとうございました。

 なかでも、この洋酒二本には驚いた。[番外写真]

[番外写真]お返しでいただいたカティサーク(左)とドンペリ 【写真:乗峯栄一】

 スコッチ・ウィスキー「カティサーク(の中でも何とかというレア物らしい)」をくれたのは、加用厩舎でシルバードリームとサザンボルケーノの姉弟などを担当している前田厩務員だ。(洋酒にめちゃくちゃ詳しい様子だ)

 これだけではない。本一冊進呈しているのに、それ以外に10冊を自費で買ってくれて、色んな人にプレゼントしてくれたし、あと、厩舎スタッフ仲間を集めて、栗東のステーキハウス「ボストン・コモン」で「出版記念会」までやってくれた。なんで、そこまでしてくれるの?という感じだ。

 前田功士厩務員は42、3歳の独身。でも嫁を呼べない訳ではない。細身のスラッとした体型だし、なかなかのハンサムだ。でも、一人が好きらしい。草津駅前の渡辺薫彦調教師(薫彦調教師は嫁と子供、3人か4人かで住んでいる)らが、一家で住んでいるマンションにたった一人で住んでいる。なんで、そんなに優雅な生活が送れるんだろう?

 寄生虫好きという点では、ぼくと似たところがあって、飲み会の席で、ぼくが「東京目黒に寄生虫博物館というのがあって、行ったことがある」と自慢すると、事もなげに「ぼくは3回行きました。来月4回目の訪問をしてきます」と言う。そして寄生虫博物館に行くたびに“サナダムシTシャツ”などの土産をくれる。

 もちろん、愛用させてもらっていて、女性が「そのTシャツの模様何ですか?」と聞いてきて「サナダムシ」と答え、女性が「キャッ!」と反応するのを喜ぶ。このあたりの感性が前田厩務員と相通じるところがあるのかもしれない。

“ハギノ”の姉妹オーナー

[写真2]クロコスミア 【写真:乗峯栄一】

 もう一本のシャンパン(いわゆるドンペリというやつで、よく分からないが、けっこう高級な方のドンペリらしい)は“ハギノ”の馬名冠で有名な日隈(ひのくま)良江、安岡美津子姉妹のオーナーからの返礼だ。返礼の方が何十倍も高い。

 何度も書いた、古い話をする。

 22年前の1996年春、ぼくは複勝コロガシと単・複“買い間違い”が重なり単勝63万、複勝63万、馬連合わせて130万の馬券を買い、ダービーのたった2分半で破裂した。

 ちょうどその頃、近所の安岡歯科というところに行き始めた。

 先生が「乗峯さんて競馬予想してるんですよね? 馬券かなり買うの?」と聞く。

「くくく」と思わず含み笑い。「先生、それは聞いちゃいけない質問だ」と思いつつ「この前のダービーは130万ほど買いました、バカですね」とことさら自嘲気味に言う。

 普通はここで「ヒャ、130万!」と仰天リフレインが発生する。例外なく発生する。でも先生はカルテ書く手を休めず「へえ、結構買うんですね」と言った。

「何? その日常的反応は?」と振り向くと「うちもこの前3千万で馬買いました。うちのオヤジなんか1億8千万で馬買いましたからね、なお一層バカですね。知ってます? カムイオーって馬?」

 ここ「安岡歯科医院」と言うが、奥さんはカムイオーの日隈(ひのくま)オーナーの娘さんだった。日隈さんが亡くなってからハギノの馬はこの安岡さんとお姉さんの日隈良江さんで管理している。

 きっととんでもないカネ持ち、孔雀の扇を揺らしながら「おカネ? そりゃ少しはあるわよ、ホホホ」と笑うゴージャス姉妹に違いないと思っていた。

ドンペリとはそういう酒だ

[写真3]サウンズオブアース 【写真:乗峯栄一】

 でも想像13年にして初めて実物に会う。08年有馬記念の翌々日、凱旋ダイワスカーレットを見に行った松国厩舎に二人で来ていた。

 どちらも普通に美しい婦人だ。

 スカーレットを見たあと、全員で調教師室に入ると、ダイワスカーレットは自分のところの馬でもないのに、姉妹二人の名前で豪華な胡蝶蘭が飾ってあり、「まあ、お祝いに一杯だけ」と、写真と同じドンペリ2本が、その場にいる10人ほど全員に振る舞われた。

 よく聞くと、お姉さんの良江オーナーもうちのすぐ近所(うちは貧民団地だが、近所には高級住宅街がある)らしく、それ以来、雲の上の存在と思っていた馬主階層の中で、ハギノ・オーナー姉妹とだけは親しくさせてもらっている(“親しく”といったって、高級料理店でご馳走になるばかりだが)。

 今回のドンペリもまた、わが夫婦で論議を呼んでいる。

「これって、いつ飲むものなの?」

「いつって、そりゃ何かの祝い事のときだろうが?」

「祝い事って、何?」

「今度、お盆で兄弟が集まるから、そのときにでも」

「でも、お盆て、死んだ先祖が帰ってくる日でしょ? それって祝い事?」

「それもそうやなあ」

 と、二人で腕を組む。ドンペリとはそういう酒だ。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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