町田はいつ「常勝軍団」になるのか? 新加入選手から占う“黒田ファミリー”の未来
昨季の主将だった昌子源(写真)ら町田の主力はおおよそ残留している 【(C)FCMZ】
2024シーズンの最終節・鹿島アントラーズ戦を終えた直後、親会社サイバーエージェントのトップでもある町田の藤田晋社長はこう述べていた。
「監督と私もよく話しているのですがJ1の常勝軍団、いつも上位を争うクラブとなるのには何年もかかると思っています。1年目からこのような健闘ができたので、何年もかかるのを1年でやってしまおうという気持ちで強化しました」
昨季の町田は初昇格ながら「5位以内」を目標に掲げ、それを達成した。第15節から第30節まで首位を保ち続けるなど、優勝争いにも絡んだ。最終節まで優勝の可能性を残した末に、首位・ヴィッセル神戸と勝ち点6差の3位でシーズンを終えている。
黒田剛監督はなかなか「優勝」の二文字を口にしようとしなかった。町田は発展途上のチームで、選手たちの経験値も決して高くない。期待値の上昇と「言葉のひとり歩き」は危険で、ピークはまだ先という感覚もあったはずだ。
ただ藤田社長が口にしたように、町田は昨季の半ばから意欲的な補強を敢行していた。2024年夏に加入した相馬勇紀、中山雄太は日本代表級で、今まで手が出なかったレベルの人材だった。さらに今オフも、ピンポイントの補強でアップデートを図っている。
町田に揃った96年度世代
相馬勇紀(写真)は昨夏に加入した町田の中心選手 【写真は共同】
藤田社長はこうも述べていた。
「黒田監督就任初年度、今年のJ1初年度とかなり選手も入れ替わったので、この辺で落ち着きたい。今いる選手を中心に強豪クラブを築き上げたいと考えています」
町田の編成責任者、原靖フットボールダイレクター(FD)はこう説明する。
「黒田監督の戦術をすぐに理解できる外国籍選手が少なかろうと思います。新たに獲ってくるのは少しリスキーかなと話はしていました」
確かに過去2シーズンに比較して、継続の姿勢を強く感じる編成だ。もっとも派手なビッグネームこそ呼んでいないが、守備的なポジションを中心に他クラブの主力級を引き入れている。注目度が高いのはDF岡村大八、DF菊池流帆、MF前寛之、FW西村拓真の4名。岡村は札幌、前は福岡の「柱」と言い得た存在で、菊池と西村もビッグクラブの戦力だった。
原FDはそのような人材の獲得について、こう背景を口にする。
「神戸さん、鹿島さん、ガンバさんは(全試合の)4分の3、つまり75%以上に出ている選手が8人9人といますが、ウチは4人しかいなかった。J1で出ていなかったりした状態の野心のある選手が揃ったので、うまく多くの選手を使えました。その反面、最後の詰めのところで、ずっと一緒に戦っているメンバーは阿吽(あうん)の呼吸が分かります。実績ある選手をなるべく増やそうという狙いで、こうなりました」
また「実績ある新加入」の4名は世代が近い。前は1995年生まれだが、残る3名は早生まれも含めて1996年度の生まれ。昨季の半ばに加入した中山、相馬も含めて町田には同学年が5名も揃っている。
生年月日順に並べるとこうなる。
西村拓真:1996年10月22日
菊池流帆:1996年12月9日
岡村大八:1997年2月15日
中山雄太:1997年2月16日
相馬勇紀:1997年2月25日
現在27〜28歳の「1996年度世代」が24年夏、25年冬でこれだけ加わった。街を歩くとglobeや安室奈美恵、華原朋美の歌が流れている――。そんなTK(小室哲哉)ファミリー最盛期に生まれた世代が、町田の新たな中核だ。
町田が「代表を目指せる」クラブに
原靖FDは2023年から強化のトップを任されている 【撮影:大島和人】
「すごい実績を残している選手にも、国内外から関心を持っていただきました。ただ昌子(源)くんを中心に、谷(晃生)くん、相馬くん、中山くんといった年齢層の選手が既にいて、彼らを中心にチーム力をアップさせていこうと考えています。もう1回代表に戻る、代表が集まっている中で刺激を得たいという(選手が集まった)ことで必然的にそうなりました。脂が乗って、これから3年4年にかけてチームを引っ張っていく世代が揃った印象です」
一般論として20歳代後半はサッカー選手の最盛期。27〜28歳なら「3年4年とチームを引っ張っていく」ことも期待できる。神戸の連覇を支えた大迫勇也(34歳)、山口蛍(34歳)、酒井高徳(33歳)、武藤嘉紀(32歳)に比べると町田の新・中核世代はざっと5~6歳若い。
町田は谷、中山、望月ヘンリー海輝が2024シーズン中に日本代表の招集を受けた。相馬も2021年の東京五輪や、2022年のカタールW杯に招集されている。さらに昨季はミッチェル・デュークがオーストラリア、オ・セフンが韓国代表に招集された。特に谷、望月、オ・セフンは町田での成長、復活がなければ代表には届かなかった。
報酬や人のつながりも重要なファクターだが、トップアスリートほど「自分が生きる場」「自分を成長させられる環境」を選ぶ。町田は練習が厳しく、選手への要求も細かいため、決して楽に稼げるチームではない。しかし「自分の価値を上げてもらえるクラブ」という評価は今後につながる部分だ。
黒田監督も初日のトレーニングを終えてこう口にしていた。
「町田のカラー、我々のチーム作りを求める、またはここにフィットすると感じてきてくれる選手たちが増えてきた。それは我々が町田らしさを作り上げてきた部分に対する評価だし、すごくありがたい」
もちろん日本代表の主力はJ1でなくヨーロッパにいて、町田が獲得できるのはバリバリの日の丸でなく「ギリギリ」のレベルかもしれない。とはいえそのクラスの人材が、町田を選んでくれるようになった。