三笘の背後に迫るアディングラの足音 2戦連続スタメン落ちは酷使による疲れが原因だが…
2位アーセナルをホームに迎えた一戦。2試合連続でベンチスタートとなった三笘は、チームが同点に追いついた直後の後半17分から出場した 【Photo by Shaun Brooks - CameraSport via Getty Images】
1試合だけでなく2戦連続ベンチとなれば…
1月4日のブライトン対アーセナル。キックオフ1時間前に、ベンチ入り選手も含む両軍のチームシート(試合のメンバー表)が記者室で配られると、「ウォ」という低いうめき声が所々で漏れた。
そして英国人記者の1人が、「見ろよ、このチームシート。ブライトンのチームが奇妙なことになっているぞ」とそばにいる同僚に話しかけているのが聞こえた。
その1枚の紙には、不動のセンターバックである主将ルイス・ダンクが軽い故障でベンチ外となって、やんちゃなイメージのブラジル代表FWジョアン・ペドロが代わりにキャプテンのアームバンドを巻くという意外な事実も記されていたが、やはり三笘薫がまたもや先発メンバーから外されていたことが、どよめきの最大の理由だった。
三笘は前節のアストン・ヴィラ戦でも先発を外れていた。1試合だけならプレミアリーグ特有の年末年始の過密スケジュールに対応した“ローテーション”だと言える。実際、アストン・ヴィラ戦の後に三笘に先発を外された理由を聞いたが、「それは監督に聞いてください」という当然の言葉が返ってきて、ベンチスタートの理由は不明のままだった。
試合後に三笘と話をしようとすると、監督会見には出られない。ミックスゾーンと呼ばれる選手との接触が許されるエリアで日本代表MFの出待ちをするからだ。こういう時に人間は“体が2つあれば”と思うものである。
けれども前節に続き、ホームのアーセナル戦という大事な試合でも、これまでは不動の先発だった三笘がベンチに下げられたとなると、チームシートを見た記者団が「ウォ」とうなって“いったい、どうなっているんだ!?”というリアクションをしたように、これは事件である。
1試合だけでなく、2試合連続で先発を外れたとなれば、軽い故障、もしくはチーム内での序列が下がったという可能性もある。だから筆者は2025年の初取材となったアーセナル戦後に、三笘の出待ちを捨て、アメリカ生まれの31歳のドイツ人指揮官、ファビアン・ヒュルツェラー監督の会見に出席した。
冒頭のコメントは、そこで筆者が「三笘が2試合連続で先発から外れたが、その背景となる理由は?」という質問をして返ってきたものだ。
技術は三笘と遜色なくゴールへの貪欲さは上
アストン・ヴィラとの24年最終戦で、三笘の代わりに左ウイングに入ったアディングラは開幕戦以来の得点。貪欲にゴールを狙う積極性は日本人エースを上回る 【Photo by Andrew Kearns - CameraSport via Getty Images】
近年のフットボールではこうしたチームマネジメントの部分にも大きな注目が集まり、シーズンを通した選手のやりくりを“スクワッド・ゲーム”と呼ぶ。
まずヒュルツェラー監督は三笘をベンチに置いた理由として、ブライトンのスクワッドが「大きい」と発言した。続けて、そのスクワッドのなかには日本代表MFと遜色ないプレーができる“可能性がある選手”がいると言った。
それがコートジボワール代表FWシモン・アディングラであることは明白である。
2002年元日生まれで23歳になったばかりのアディングラは、2年半前の2022年6月、20歳でブライトンと4年契約を結ぶと、そのシーズンは前季の三笘と同じく、ブライトンの兄弟クラブであるベルギーのユニオンSGにレンタル移籍して、昨季からブライトンに加わった。
右利きのウインガーだから、三笘の明らかなチーム内ライバルである。左サイドからの仕掛けは、スピードと大きな切り返しを武器とする27歳日本代表MFに軍配が上がると思うが、自力でゴールを狙う貪欲さはアディングラが上か。ボールを扱う技術は三笘と遜色なく、その能力は2024年1~2月に開催されたアフリカネーションズカップに出場して、大会の最優秀若手選手に選出されたことでも実証済みだ。ナイジェリアとの決勝で2アシストを記録し、2-1の勝利に大貢献して母国をアフリカ王者に導いた。
その才能豊かなアディングラと比較し、今季前半戦、ヒュルツェラー監督は常に三笘を選んだ。ところが、ブライトンで連戦をこなしたうえで、ロシア上空を飛べない最近では直行便でも片道の飛行時間が14~15時間にも及び、夏は8時間、冬は9時間の時差が生じる日本に移動して代表戦でもプレーして、年末年始の過密日程に突入した27歳MFに疲れが見えて状況が変わった。
アフリカ一の若手選手でありながらベンチスタートに甘んじ、虎視眈々と三笘を抜こうと狙っていたはずのハングリーなコートジボワール代表FWが、ライバルである大黒柱に疲れが見えて“ここがチャンス”とばかりに練習場でさらにギアを上げ、監督へのアピールに成功して先発を勝ち取った。
三笘の2戦連続ベンチスタートにはこうした下剋上が存在していた。