町田はいつ「常勝軍団」になるのか? 新加入選手から占う“黒田ファミリー”の未来

大島和人

強化の成功による副作用も

オ・セフンは2024年の活躍で一挙に評価を上げた大型FW 【(C)FCMZ】

 選手の成長が今季の編成を難しくした部分もある。オ・セフンは空中戦、ハードワークで前線の軸になったFWだ。ただし昨季は清水エスパルスからレンタルで、その実力からヨーロッパへの移籍もあり得た。

 原FDは明かす。

「清水さんも昇格して『同じJ1のチームに移籍されるのは困る』という事情がありました。J1でしっかりプレーができて、かつ韓国代表にも入った選手は海外に売った方がもっと価値が上がる状況もあります。(完全移籍への移行は)困難を極めました」

 準レギュラーだった藤本一輝、荒木駿太、安井拓也や、二番手GK福井光輝の移籍も痛手だろう。特に荒木、安井は複数のポジションで起用可能な万能選手で、ベンチに置けると試合運びが楽になる存在だった。

「選手が(外から)集まりやすい中で、選手を残していく作業もしていました。荒木くんや安井くんも、みんなオファーを出していました。しかし考えてみると、町田は守備ができて、鍛えられた選手が多い。選手たちも『もうスーパーサブでいられる年齢ではない』というような、プロフェッショナルな決断でした。痛いのは痛かったですけど送り出しました」(原FD)

 町田にいたことでレベルと「値段」が上がり、他クラブから狙われるようになる。それは強化の成功による副作用だ。

 J1の移籍期間(ウインドウ)は3月26日までオープン。「ポリバレントプレイヤー」については、開幕後も含めて追加で獲得する可能性もありそうだ。また出場経験が必要な若手などを、レンタルで外に出すオペレーションも必要になる。

 原FDは8日の取材で、そんな事情も率直に認めていた。

「ポリバレントな、色々なポジションができる選手は大事にしようと思っていました。そのような選手が2人、ギリギリのタイミングで抜けてしまったことは痛手です。黒田さんと話して、3月末まで出し入れは継続していこうと話をしています」

夢ではない「常勝軍団」の実現

昨季の終盤は「悔しさ」も味わった 【(C)FCMZ】

 町田は「5位以上」「タイトル奪取」といった目標を掲げて、2025シーズンに踏み出した。勝負へのこだわりは黒田監督の特徴で、それは過去2シーズンと同様だ。一方で今季の編成や藤田社長、原FDのコメントからはJ1の上位に定着するチームを築くための中長期的な視点も見て取れる。

 J1を2連覇中の神戸は引き続いて強力だし、2位・サンフレッチェ広島も精力的な補強を進めている。J1全体を見渡したとき、町田が「昨季以上」の結果を得ることは決して容易でない。

 しかしクラブは2025年とその先に向けて、安定した成績を残し続けるための布石を打った。J1最少失点を誇ったチームが岡村、前と働き盛りの強力な守り手を迎えたのだから“鉄壁黒田ファミリー”はさらに固くなっている。

 それが2025年になるとは断言できないが――。町田がタイトルを取る、かつてのTKファミリーのように何度も連続してJ1の上位を占める日は、決して遠くないのではないだろうか。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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