逆転優勝の可能性を残す町田 負傷者復帰、システム変更「だけ」ではない復活の背景

大島和人

町田は京都戦で荒木駿太(左)と中山雄太(右)が戦列に復帰した 【(C)FCMZ】

 2024年のJ1最終節は12月8日の開催で、3チームが優勝の可能性を残している。首位・ヴィッセル神戸(勝ち点69/得失点差22)が有利なことは確かだが、2位・サンフレッチェ広島(勝ち点68/得失点差31)と3位・FC町田ゼルビア(勝ち点66/得失点差22)にも逆転優勝の可能性がある。

 町田は今季の「台風の目」だが、第30節を最後に首位から遠ざかっている。9月21日の第31節・コンサドーレ札幌戦を引き分け(0△0)で終えると、そのまま5試合勝ちなしの「トンネル」に入った。第32節・広島戦(0●2)と第33節・川崎フロンターレ戦(1●4)は今季初の連敗で、第34節・柏レイソル戦(1△1)も後半アディショナルタイムのPKで辛うじて追いつく展開。さらに第35節・サガン鳥栖戦(1●2)も、既に降格が決まっている相手に敗れた。

 町田は第37節を終えてJ1最少の31失点という堅守のチームだが、この5試合では合計9失点を喫している。しかし町田は最後の最後にようやくよみがえった。第36節・FC東京戦(3◯0)、第37節・京都サンガ戦(1◯0)はいずれも無失点勝利で、内容も明らかに改善されていた。

システム変更で2試合連続完封勝利

黒田剛監督は11月3日の鳥栖戦後に「システム変更」を決断した 【(C)FCMZ】

 11月30日の京都戦は、後半戦好調の難敵にしっかり勝ち切った。67分の決勝点は相手GKのパンチングミスによるオウンゴールだが、ファーに藤尾翔太が詰めていて「キーパーが触らなければ僕が触れた状況」(藤尾)という形だった。

 復調、復活の理由はまずシステムの変更だろう。町田はFC東京戦、京都戦ともイブラヒム・ドレシェヴィッチ、チャン・ミンギュ、昌子源が3バックを形成する[3-1-4-2]で戦った。ワイドは2枚から1枚に減るが、FWエリキやMF相馬勇紀が流動的にスペースへ「流れる」ことで、相手に先手を打てている。

 黒田監督は布陣変更について、京都戦を前にした取材でこう説明していた。

「鳥栖戦の帰りの移動中に自分で決断をしました。オフでコーチ陣に共有して、次は3バックでやっていこうと伝えました。前にホームで負けた広島戦(4月3日/1●2)も3バックにしたけどウイングバックが落ちすぎて、平河(悠)がまったく生きなかった反省材料だけは持っています。そうならないように気をつけながら、トレーニングをしました」

 町田は2023年のJ2終盤戦を3バックで戦った。黒田監督が振り返るように、今季は3バックで試合を開始したのが4月の広島戦だけで、成功もしなかった。とはいえFC東京戦の成功を見ると、もっと早く3バックへ切り替えて良かったようにも思える。

 ただ指揮官は「ブレる」ことを嫌った。

「結果が出なかったらすぐ3バック、それでまた負けたら次また4バックという一貫性のないことだけはしたくなかった。システムの問題ではなくて、単純に我々の志向しているものから逸脱したプレーが見え始めてきていて、まずはベースを戻すことが先でした」

京都戦では中山、荒木が復帰

京都戦は中山(左)と荒木(右)の連携が終盤の展開を落ち着かせた 【(C)FCMZ】

 そもそも低迷期の町田は、3バックを組みたくても人を欠いていた。センターバック(CB)のチャン・ミンギュは6月12日の天皇杯で負傷し、復帰が第35節・鳥栖戦。途中加入の中山雄太も9月14日の第30節・アビスパ福岡戦で右膝を傷め、試合から遠ざかっていた。

 それが終盤戦に入ってベストメンバーを揃えられる状況となっている。中山も途中出場ながら、京都戦で復帰を果たした。

 さらに荒木駿太は攻守の献身性を持ち、展開に応じて色んな使い方ができる「スーパーサブ」で、彼も京都戦で3カ月ぶりの復帰を果たした。

 負傷前の中山はCBとして起用されていたが、京都戦は左のウイングバックでプレーした。黒田監督はこのように述べる。

「海外でプレーしている際はウイングバックやアンカー(での起用)が多かったと聞いています。ポリバレント(=万能)性を持ち、どのポジションでもチームをしっかりとマネジメントできる選手です」

 京都戦は中山、荒木が1-0とリードした状況で、揃って78分に投入された。荒木は相馬との交代で、そのまま「左シャドー」の位置に入った。短い時間だったが、中山と荒木の連携は試合に落ち着きを与えた。

 荒木はこう振り返る。

「守備も攻撃も(中山)雄太くんと連動してやるように言われていて、うまくやれたと思います。(中山は)ヘディングが強いですし、足元も上手いし、パスを出せる。短い時間でしたけれど『ここが見えているんだ』と驚くところがあって、すごくやりやすかったです」

 京都が前掛かりとなる状況で、中山はボールの落ち着きどころとなり「リスクを負わずに相手の急所を突く」配球を繰り返した。そこに動き出しのいい荒木が絡み、町田は前線の優位性を持ち続けられていた。中山と荒木の復帰、そして二人が見せた連携は京都戦における町田の収穫だ。

 荒木も1-0というスコア、時間帯を考えた「賢い」プレーに徹した。

「アシスト、得点が欲しかったですけど、(ケガで)チームに迷惑をかけた分、裏に抜けたり、セカンドを拾ったり、第一にチームのことを考えました。クロスを上げなかったシーン、コーナーを取りに行ったシーンもありました」(荒木)

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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