逆転優勝の可能性を残す町田 負傷者復帰、システム変更「だけ」ではない復活の背景
フィットしてきた途中加入の「大物」
相馬勇紀は直近の2試合で3得点に絡んでいる 【(C)FCMZ】
町田は開幕前に「5位以内」を目標に掲げていたが、チームは「高望みのさらに上」へ躍り出た。しかし相次ぐ負傷者と、平河悠の移籍がチームを苦しめた。
平河はJ2時代からチームを支えたサイドハーフだが、U-23代表で活躍し、ブリストル・シティFCに移籍した。「平河の代役探し」「平河不在のシステム探し」は今思えばかなりの難題だった。
相馬は平河と似た特徴を持つアタッカーだが、当然ながら違いもある。町田は最後の3試合でようやく「相馬を活かすシステム」を見出した。
相馬はFC東京戦、京都戦の合計4点中3点に絡んでいる。京都戦は「今日は逆にちょっと身体が軽すぎた」と口にしていたが、彼は前線のアドバンテージになっている。
相馬は2022年のカタールW杯出場メンバーで、中山も負傷がなければ同大会に出ていた可能性が高い人材。そんな大物がシーズン途中に「高校サッカーの監督」が率いるチームへ加わることに対して、悪い方向の期待をしている論者は間違いなく多かった。
例えば黒田監督のコメントを「選手への責任転嫁」と批判する意見も多く目にした。筆者のもとにも「チームがバラバラになっているらしい」というような風評が、町田を取材していないライターから耳に入ったこともある。
プライドの高い大物が、選手を高校生扱いする監督に反発する――。そのようなストーリーを期待した人がいるのは理解できる。相馬の不発が続く状況を、補強の失敗と評価するのも一つの見識だ。
しかし試合や練習を見ていて、二人がネガティブな影響を及ぼしている印象はまったくない。中山はまだ復調の過程だが、とはいえ二人の存在は人間性も含めてシンプルに大きなプラスだ。CBチャン・ミンギュを含めた「負傷者の復帰、復調」も町田復活の背景だ。
昌子がサポーターに感謝した理由
昌子キャプテンはサポーターへの感謝を強調した 【(C)J.LEAGUE】
もちろん町田を批判、否定する人にもそれぞれの考えはあるはずだ。ただ「19チームが敵に回る」「何をやっても嘲笑される」日々は監督や選手だけでなく、サポーターにとっても辛いものだったに違いない。
しかし町田はクラブ全体で難局に耐え、最終節にたどり着いた。キャプテンの昌子はホーム最終戦のスピーチで、サポーターにこう語りかけている。
「試合ごとに増える人数、声量、迫力、期待に色々なものを感じながら戦えました。そしてもう一度、皆さんに感謝したいことがあります。FC町田ゼルビアは今年、様々な意見があり、厳しい環境で戦いました。それでもホーム、アウェー関係なく、このユニホームを着て、90分間跳び続け、声を出し続け、堂々と振る舞っていた皆さんを見て、誇りに思っています。尊敬しています」
町田はJFL、J3の時代から「苦しいときにも崩れない」カルチャーを持っている。それはJ1に上がっても、サポーターが増えても維持されていて、チームの復活を支えた。
町田は京都戦の勝利で、4位・ガンバ大阪に対して勝ち点3、得失点で「10」のアドバンテージを得た。出場枠の確定は2025年春だが、ヴィッセル神戸の天皇杯優勝もあり、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)エリートの出場に大きく近づいている。
また最終節の鹿島アントラーズ戦は「町田が勝つ」「神戸と広島が敗れる」という極めてレアなケースに限られるが、逆転優勝の可能性が残った。
中山と荒木の復帰が間に合った。相馬が調子を上げ、戦術的にもフィットしてきた――。最終戦の結果と、最終順位がどうなるかは神のみぞ知る領域だ。しかし町田は選手とサポーターが久しぶりの「清々しい気持ち」を取り戻して、シーズンのクライマックスに臨もうとしている。