J2降格の鳥栖が「13試合ぶり」の白星 “J初得点”の二人が町田戦で見せた奮起

大島和人

寺山翼(左)、鈴木大馳(右)はいずれも「J初得点」だった 【(C)J.LEAGUE】

 サガン鳥栖は前節(10月19日/第34節・京都サンガ戦)でJ2降格が決まっていた。さらに7月6日の第22節・アルビレックス新潟戦(4◯3)を最後に4カ月近くも勝利から遠ざかっていて、今季12得点のFWマルセロ・ヒアンは3試合の出場停止中。前半戦の主力だった横山歩夢、河原創、長沼洋一、菊地泰智、手塚康平が移籍でチームを去ったこともあり、特に前線は人材不足に陥っていた。

 そんな鳥栖は11月3日のFC町田ゼルビア戦で、3位の強敵を2-1で退けている。ボール保持率、枠内シュートの本数といった指標を見れば町田が勝った90分だった。一方で鳥栖は走行距離、スプリントの本数で町田に上回った。ボールを持たれても忠実にスペースを消し、相手がフリーな状況を作らせず、攻撃はサイドバック(SB)の背後にロングボールを入れて町田の強みを消していた。

 ミスをした側が負ける拮抗した展開の中で、しびれを切らして痛いミスを犯したのは町田だった。

17歳が決めた先制点

鈴木は得点以外でも貢献を見せていた 【(C)J.LEAGUE】

 20分の先制ゴールを決めた鈴木大馳(だいち)は、サガン鳥栖U-18に所属する17歳。J1出場3試合目で、先発は初めてだった。鳥栖は65分にセットプレーから追いつかれたが、交代で起用された寺山翼がコーナーキックに合わせてヘッドを押し込んで勝ち越しに成功。鈴木、寺山の「J初得点」がチームを勝利に導いた。

 木谷公亮監督は鈴木の起用をこう説明する。

「大馳は高校生ですけど、トレーニングから良いプレーを沢山していました。来季に向けての経験でなくて、今日勝つために一番いい選択をしました」

 鈴木の先制点は右SB原田亘の低いクロスに、点で合わせたストライカーらしい形だった。殊勲の17歳はこう振り返る。

「練習からずっとクロスの入り方のタイミングなどを、コーチとかに教えてもらっていました。それをずっとやっていて、その形で取れたので、練習通りです」

 鈴木は富樫敬真と2トップを組み、82分にピッチを去るまで攻守両面で十分な仕事をしていた。

 13年にわたってJ1で戦い続ける間に、鳥栖は全国トップレベルのアカデミーを築き上げていた。「高校生のJ1デビュー」はこのクラブにとって決して珍しい起用ではない。

 鈴木はこうコメントしている。

「今年はずっとトップチームでやっていて、試合に絡めていなかったので、ずっと悔しい気持ちを持っていました。ここでやっと結果が出て、スタートラインには立てたけど、でも遅かったと思います」

 鳥栖のアカデミーはまずU-15が先に全国レベルになった。しばらくは逸材が高体連の強豪に抜かれる「草刈り場」のような状況だったが、今は九州だけでなく全国からU-18に人材が集まってくる。鈴木はFC.フェルボール愛知の出身で、U-16日本代表で活躍しているFW谷大地のように海外(韓国)でプレーしていた人材が鳥栖を選ぶ例もある。鈴木の活躍は、未来に向けた一つの希望だろう。

出番を失っていた寺山がFW起用で決勝点

寺山は苦境の中で結果を残した 【(C)J.LEAGUE】

 寺山は8月にFC東京からの期限付き移籍で加わった選手だ。180センチと大柄で技術も高いボランチだが、FC東京では2シーズン半でリーグ戦出場が12試合にとどまっていた。鳥栖加入直後は2試合続けて先発で起用されたが、その後は出番をほぼ失っていた。

 第30節以降は出場が合計わずか10分。さらに直近の2試合はベンチからも外れていた。しかも町田戦は人手不足に陥っているFWでの起用だった。

 もっともそこは寺山の強みが生きるポジションだ。彼は小学6年だった2012年の第36回全日本少年サッカー大会で、新座片山FCのセンターフォワードとして得点王に輝き、チームを優勝に導いている。いがぐり頭だった12歳の彼は「クロスへの飛び込み」「ヘディング」に強みを見せていた。

 寺山は町田戦で託された自らの役割をこう振り返る。

「僕自身、FWに入ったときは『収めるプレー』ができる方なので、簡単に跳ね返させないところを意識しました。守備は上手く(相手のパスコースを)限定して、前から圧力をかけて、いいボールを蹴らせないことを考えました」

 84分の決勝弾はDFのマークを振り切り、西矢健人の右CKがファーへ流れたところに斜めからヘッドで合わせたものだった。

「ああいう感覚は小学生時代に培われて、そこに飛び込むのは自分の得意なプレーの一つです。理想の形で取れたかなと思います」(寺山)

 13試合ぶりの勝利についてはこう口にする。

「僕が移籍をしてきてから一度も勝てず、降格が決まってしまって、本当に申し訳ない気持ちです。ただ今日のゲームは降格が決まった中でも、スタジアムに足を運んで、僕らを後押ししてくれるサポーターのために勝たなければいけなかった。新たな一歩を踏み出す試合になるのは間違いないし、自分たちが『ここで終わりじゃない』と見せなければいけなかった。勝利を届けられて良かったです」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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