GMの手腕次第でクラブの未来は変わる── 識者3人によるJ1クライマックス座談会【後編】
6月に長期離脱から復帰以降、違いを生み出していた大島だが、9月末の名古屋戦でふたたび負傷。怪我人続出の川崎は、タレントの質を欠いて中位にとどまる 【(c)J.LEAGUE】
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中途半端なままイデオロギーだけが……
舩木 思った以上にタレントの質が足りていませんでした。6月に大島僚太が長期離脱から復帰して、みんなが「やっぱり大島はすごい」って言っていましたけど、ある川崎OBは「僚太を圧倒的だなんて言っているようじゃ……」と苦々しい顔をしていましたよ。確かに守田英正、田中碧、板倉滉、三笘薫と、あれだけのタレントを抜かれてチーム力を維持するのは、相当難しいことでしょうけど。しかも、復帰後に素晴らしいパフォーマンスを披露していた大島が、この前の名古屋グランパス戦(第31節)でまた怪我をしてしまった。鬼木達監督も大胆な勝負師タイプではないし、サプライズ的な要素も少ないですよね。
池田 僕も川崎は優勝候補の一角だと見ていました。ジェジエウと新戦力の丸山祐市のセンターバックコンビが沖縄キャンプでとてもよく見えたし、この2人に成長株の高井幸大がいれば大丈夫だなって思えたんです。それに新外国籍ストライカーのエリソンも、キャンプでの印象は強烈でしたからね。もともと中盤は人材がそろっているので、こうしてセンターラインが固まれば、走る可能性は十分にあったはずなんです。でも、ふたを開けてみたらジェジエウも丸ちゃんも怪我で全然出られないし、エリソンもシーズン途中に戦列を離れた時期があった。結局、怪我人の見込みが甘かったということです。
舩木 即戦力として期待した外国籍選手が、軒並み出場時間を伸ばせなかったのは誤算でしたね。ゼ・ヒカルドとかパトリッキ・ヴェロンとかも。とくにエリソンはモチベーションがパフォーマンスにすごく影響を及ぼすタイプだと思いますが、そこが落ちてきたときに、同胞で在籍6年目のジェジエウが離脱中ということもあって、きちんとケアができなかった。ブラジル人たちの中で最もJリーグでの経験が豊富かつ橋渡し役を担えるジェジエウの不在によって、日本人選手たちとのコミュニケーションが不足してしまったのかなと。もし彼らのチームや日本サッカーへの適応がもっとスムーズに進んでいたら、違った流れになっていたかもしれません。
河治 僕は最初からかなり苦戦すると思っていましたよ。理由はACL(2023/24)でもっと勝ち進むと予想していたから。ただ、それが意外と早く終わってしまった(ベスト16敗退)にもかかわらず、思った以上に怪我人が出てしまった。これに関しては昨年の天皇杯からACL、スーパーカップと続いたなかで、オフとキャンプの期間が異様に短かったことも影響しているかもしれない。あとは、ボールを握ってゲームを支配しようとするんだけど、そこで突き抜けられないから、中途半端なままイデオロギーだけが残ってしまっている印象。トランジションスピードに全振りしてくるようなチームには、もう勝てない。それを凌駕(りょうが)するほどの支配力を示せなくなってしまったんです。
──名古屋も苦しんでいますね。
河治 ここは予想通りですかね。下手をしたら残留争いに巻き込まれかねないと思っていました。この前のルヴァンカップ準々決勝でサンフレッチェ広島に勝って意地を見せましたけど、爆発力がないから連勝もなかなかできない。ただ、三國ケネディエブスの台頭はかなりポジティブな要素です。ここ数試合、無失点で連勝している理由はルヴァンでのタイトル獲得も含めて、(長谷川)健太さんが手堅いサッカーに割り切っているところもありますが、ケネディの成長なくして語れない。ジュビロ磐田戦は(日本代表の)森保一監督も視察に来ていましたが、センターバック陣の状態次第で代表招集もあるかもしれませんよ。
池田 名古屋はキャンプで見たときから、あまりうまくいってない印象でした。チームに刺激を与えるために3バックとか可変システムとかいろいろと試していましたが、それを選手たちが楽しみながらトライしている感じがなくて、逆に疲弊してしまっていた。
舩木 質の高い選手はそろっているんですけど、良くも悪くも“健太さんらしいチーム”ですよね。堅い感じで。個人的には今シーズン限りでの退団を表明しているミッチ(ランゲラック)を、いい形で送り出してあげてほしいです。彼はこの10年のJリーグベストGK。ただの外国籍選手の1人として終わらせてはいけないと思うんです。
河治 GKだと、ランゲラック、キム・ジンヒョン(セレッソ大阪)、チョン・ソンリョン(川崎)。この3人の功績ってすごく大きくて、その中でもランゲラックはスペシャル。今シーズンの名古屋がなんとか持ちこたえているのも、結局、最後尾に彼がいるからなんですよ。
池田 日本サッカー界全体として、今後、彼との関係をどう築いていくのかってことを、ちゃんと考えなきゃいけない。それくらいの選手だと思いますよ。
好対照のシーズンを送るFC東京と新潟
第29節の広島戦後に仲川が流した涙が刺激となったのか、その後3連勝を飾ったFC東京。しかし、すべての責任を監督に押し付ける強化部の体質は相変わらずだ 【(c)J.LEAGUE】
池田 僕がとにかく伝えたいのは、クラブ全体が抱える雰囲気です。責任をすべて監督に負わせて解任や交代を繰り返し、毎年同じようなシーズンを送っている。一体誰に責任があるのか。クラブとしてのメッセージも、顔も見えてこない。首都らしいサッカーというのはあまりにも抽象的で、社長などが言うのならいいのですが、チームの方向性を決める強化部などから具体的な発信がないのが迷走している理由なんじゃないでしょうか。
長友佑都や松木玖生(ギョズテペSK)、仲川輝人は勝者のメンタリティを持った選手たちだと思いますが、彼らをもってしてもチームの空気がピリッとしないのは、よほど問題が根深いんだと。8月末の広島戦(第29節)に敗れた後、仲川が涙を流していましたが、あれは「お前ら、監督のせいにしてばかりで、本気で戦う気はあるのか?」というチームメイトに対する想いが溢れたんだと思います。
──横浜F・マリノスで優勝経験がある仲川にしてみれば、現状がもどかしくて、悔しくて仕方がないんでしょうね。
池田 たとえ選手が監督と違う考えを持っていたとしても、ピッチ上では全力でプレーするって、プロとして最低限の仕事ですからね。FC東京には若く、才能溢れる選手が多いんですけど、いつの間にかクラブのぬるい体質に染まって、伸び悩んでしまったりする。このままでは、誰が監督になってもうまくいかないと思いますね。
河治 東京に関しては、それがすべてかもしれないね。一方、東京とは対照的なのが、アルビレックス新潟。もし、このチームに絶対的なストライカーがいたら、優勝争いに絡んでいてもおかしくなかった。そう思わせるくらいにクオリティの高いサッカーをしています。ポゼッションをしっかりと構築しながら、それでいて必要なときに割り切ってカウンターも繰り出せる。サポーターの熱量なんかも含め、いろんな意味で好感の持てる優良クラブですよ。松橋力蔵監督は本当に良いチームを作っている。準決勝に駒を進めているルヴァンカップを制して、タイトルを獲る喜びを味わってほしいと思います。
舩木 新潟には“町田の倒し方”を見つけたという大きな功績がありますよ(リーグ戦は1勝1分け、ルヴァンカップ準々決勝第1戦では5-0の勝利)。あの超真面目な力蔵さんが、町田のサッカーを逆手に取るという戦い方をやってみせましたからね。
河治 ないのは「お金と環境」くらい。2026年から秋春制に移行するので、どこかのタイミングでドームスタジアムを作るとかして、練習環境も含めて雪国特有の問題が解決できればいいんですけどね。
池田 補足すると、ここは強化部が有能なんです。強化部長の寺川能人さんが超敏腕で、力蔵さんと二人三脚ができているから、フロントと現場の風通しが非常にいい。だから今いる選手たちが成長を続けているし、補強もうまくいくんです。
河治 ただ、新潟って“持っていかれる文化”のクラブですからね。限られた予算のなかであれだけいい運営をしていたら、選手だけじゃなく、監督、フロントも引き抜かれる可能性は高い。サポーターも戦々恐々でしょうね。
舩木 2人ともマリノス出身だから、もしかして……。
池田 でも、あの密な関係性は、新潟のクラブ規模だから成立している部分もあるんじゃないかな。マリノスみたいにいろんな人が口を出してくる環境だと、難しいかもしれない。
舩木 マネジメントの部分で言うと、セレッソ大阪はどこでボタンの掛け違いが起きたのかなと思いますね。サポーターも含めて、小菊昭雄監督から人心が離れてしまっている理由が、外から見ているだけでははっきりと分からない。レオ・セアラがゴールを量産しているわりには、全体のバランスが整わないまま、ここまで来てしまった印象ですね。
河治 夏に清武弘嗣(サガン鳥栖)を放出したのは、ちょっと意外でしたね。ピッチの内外を問わず、彼がチームに与えていた影響って、ものすごく大きかったと思うので。
舩木 彼自身のパフォーマンスが上がり始めたタイミングでしたからね。同じく夏にジュビロに移籍したジョルディ・クルークスなんかも、もっと使い方があったのでは? と思ってしまいます。
河治 北海道コンサドーレ札幌から巨大な2枚、田中駿汰とルーカス・フェルナンデスを引き抜いた効果も、個人はともかく、チームの結果には反映されていない。
池田 セレッソって、清武だ、柿谷曜一朗(徳島ヴォルティス)だ、乾貴士(清水エスパルス)だ、香川真司だって、海外挑戦した選手を全部呼び戻すんだけど、結局それが若手の出場機会、成長するチャンスを奪っている面もありますよね。その結果、若手は育たない、レジェンドたちも結局、出て行く。あまりいいサイクルではないですよね。藤尾翔太(町田)みたいなタレントを外に出している場合じゃないし、北野颯太だってもっと起用して育てないといけない。
河治 生え抜きの若手ではないけれど、鈴木徳真も香川の復帰によって出場機会が減って移籍した。それが、いまやライバルであるガンバ大阪の心臓ですからね。
池田 だからGMって大事なんですよ。GMがどれだけ先を見据えた設計図を描けるかで、そのクラブの未来は大きく変わりますから。
──長谷部茂利監督の今季限りでの退任を発表したアビスパ福岡はどうですか?
河治 昨年のルヴァンカップ優勝で、上位争いに加われるチームになっていく期待感はありました。ただ、何人かの主力が引き抜かれたり、タレントの層という意味では不安があったのも確か。それでも堅守速攻を貫いて健闘していたと思いますけど、前半戦の奮闘ぶりと後半戦の停滞が非常にコントラストとして出ていて。もちろん気が緩んでいるとかはまったくないんですけど、長谷部さんの退任発表と、チームの成績が下降していることは、どうしても結び付けて考えてしまいますよね。
池田 毎年、長谷部監督の出す結果を見て「恐るべし!」と思っています。シーズン前のIN&OUTを見ても、三國ケネディエブス(名古屋)や井手口陽介(神戸)の穴を埋めるのは厳しいだろうなと。ところがそんな心配もどこ吹く風。田代雅也が今季は軸となり、中盤では松岡大起が攻守の要となっている。岩崎悠人もビタッとハマった。ただ、クラブとしてはもっと上の順位を目指していたのかもしれません。
舩木 シーズン開幕後の3月に加入したシャハブ・ザヘディのインパクトはすさまじかったですよね。とにかく空中戦に強く、大事な局面でのゴールもたくさんありました。ただ、契約延長が発表された6月以降、一気にペースダウンして、ほぼ時を同じくしてチーム全体の調子も落ちてしまった。6月までは上位争いをしていたのに7月以降はリーグ戦で一度も勝てていません。そのうえでの長谷部監督の退任発表によって1つのサイクルが終わったことを実感しています。