Jリーグ2024シーズン終盤戦の焦点

広島か神戸か町田か……混沌の優勝争いの結末は? 識者3人によるJ1クライマックス座談会【前編】

YOJI-GEN

第32節の首位攻防戦で広島に敗れて3位に転落した町田だが、まだチャンスは十分にある。インテンシティの部分で、Jリーグの基準を引き上げた点も評価すべきだ 【(c)J.LEAGUE】

 残り10試合を切っても覇権争いの結末が見えない、混沌とした2024年シーズンのJ1リーグ。熾烈なデッドヒートを制して頂点に立つのは、サンフレッチェ広島か、ヴィッセル神戸か、FC町田ゼルビアか――。ここではJリーグを精力的に取材する3人のジャーナリスト、河治良幸氏、池田タツ氏、舩木渉氏による座談会を開催。意外な伏兵の台頭、優勝候補に挙がっていたクラブの低迷、それぞれの理由も探りながら、クライマックスを展望してもらった。(文中敬称略/座談会は9月15日に実施)

町田はビッグクラブだと認識すべき

──まずはFC町田ゼルビアの話から始めましょう。みなさんはここまでの躍進を予想していましたか?

河治 シーズン序盤から町田が走ったのは想定内。J1のチームは町田にかなり苦しめられるだろうなと予想していました。2巡目に入ると対戦相手も町田のスタイルに慣れてきて、簡単には勝ち点を稼げなくなりましたが、「ここでやられたら厳しいな」という試合も最後まで諦めずに戦い、なんとか乗り切ってきた。8月末の浦和レッズ戦(第29節/2-2)も、土壇場のワンチャンスをものにして追いつきましたからね。飛び抜けたチームが見当たらない今シーズンのJ1リーグにあって、要所をきっちり抑えてきたことが現在の順位につながっているんだと思います。

池田 沖縄キャンプを見ていたので、そのときから優勝候補だと思っていました。シーズン前にそれをみんなに言うと、猛反発を食らいましたけど(苦笑)、なにしろプレシーズンマッチは全勝、しかも無失点と圧倒的でしたからね。練習試合だろうがなんだろうが、目の前の敵を全力でぶっ倒す。ピッチ上の1対1も含めて、そうしたメンタリティを黒田剛監督が植え付けているから、他のクラブとは“ガチ感”がまるで違った。「開幕までにコンディションを上げていきましょう」なんて緩い言葉を口にする選手は1人もいなかったし、だから僕も「少なくとも前半戦は1位だよ」ってずっと言い続けていたんです。

──そして、厳しい夏場の戦いも乗り越えた。

池田 これはもう、みんなが認識すべき事実なんだけど、町田は「ビッグクラブ」なんですよ。だって、どこよりもお金を使っていますから。今のJリーグは、シーズン中にしっかり補強できたチームしか勝てないという現実があって、それが優勝するための、あるいは上位をキープするためのマスト条件になっています。夏になると、主力選手がどんどん海外に流出してしまいますからね。その意味で言うと、町田は補強面でも結果を出した。平河悠(ブリストル・シティ)が移籍した一方で、中山雄太、相馬勇紀という現役日本代表選手を獲得している。まだ多くの人がJ1に昇格したばかりのひよっ子程度に思っているかもしれませんが、予算規模でもすでに町田はビッグクラブだってことを、そろそろ認めなきゃいけない。はっきり言いますが、僕は町田が優勝すると思っていますよ。

舩木 平河と藤尾翔太がパリ五輪に出場するためにチームを離れ、そこで1回山が来るだろうなと思っていたら案の定、横浜F・マリノスと国立で戦った試合(第24節)でかなり苦しみ、1-2で敗れましたよね。平河は移籍してしまいましたし、これからどうなるのかと心配していたんですが、そうしたらそれ以上の補強をしてきた(笑)。中山、相馬の2人はまさにプロフェッショナルで、監督や戦術がどうこうではなく、自分たちのやるべきことに集中し、チーム力を引き上げられる選手。相乗効果でエリキも状態を上げてきましたし、同時に彼らの加入によって出番を減らした選手たちの不満や不安も、巧みなマネジメントで抑え込みましたよね。

池田 「Jリーグで高校サッカーをやっている」って馬鹿にする人たちがいますけど、本当に愚の骨頂だなと。高校サッカーってハードワークの極みですから、馬鹿にするっていうことはつまり、全力でプレーすることを否定しているわけですよね。町田は常に極限まで、120パーセントまで出し切るサッカーをJリーグに持ち込んだ。それはものすごく刺激的で、欧州と比べてインテンシティや強度において劣ると見られがちなJリーグに、間違いなく一石を投じたと思っています。また、そのやり方は常に限界を超えていくので選手も伸びますよ。

舩木 2019年に優勝したマリノスにちょっと似ていませんか。アンジェ・ポステコグルー監督が「アタッキング・フットボール」を掲げて2年目で優勝し、多くのチームが「この強度がなきゃ優勝できないんだ」と感じて、Jリーグの基準がガツンと上がった。あれから5年が経ち、町田がまた違った形でJリーグの基準を引き上げてくれている。メディアやファンはいろいろ言いますが、なにより同じピッチで戦った相手チームの選手たちが町田のサッカーを認めている発言をしているのをよく耳にします。

池田 ホント、そこだよね。

舩木 ちょっと荒っぽく見えるプレーも、対戦した選手たちはそこまで荒いとは感じていない。そこが大きいなと。ただ、僕はぶっちゃけて言うと、今シーズンはまだ町田に優勝してほしくない。それは、意地を見せてほしいクラブがいくつかあるからなんです。

広島はステージをワンランク上げた

新スタジアムのディスアドバンテージも克服した広島。センターバック荒木の復帰以降、3バックが安定感を増した上に、夏の補強も抜かりがなかった 【(c)J.LEAGUE】

──意地を見せて、町田の「J1初昇格・即優勝」の偉業を阻止するとしたら、どのチームになりそうですか? ここまで激しく首位の座を争ってきたサンフレッチェ広島が最有力でしょうか。それともディフェンディングチャンピオンのヴィッセル神戸?

河治 広島は今シーズンから新スタジアムに移って観客数も増え、興行面では素晴らしい成功を収めていますが、まだ不慣れな移転1年目って、ホームアドバンテージがほとんど出せないんですよね。そこが突き抜けられない理由の1つかもしれない。とはいえ、開幕前に期待されながらだらしないチームが多いなかで、広島と神戸の2チームに関しては、ここまでチーム状態を保って、まずまず順調に来ていると思いますよ。

池田 町田を止めるとしたら、広島かなと思います。河治さんが言うように、広島は新スタジアムに慣れるまでのディスアドバンテージが4~5月くらいに如実に出て、ホームで引き分けたり、敗れた時期もありましたが、すでにその状況からは脱しています。なにより大きかったのは、センターバック荒木隼人の復帰。彼が怪我で不在の序盤戦は、守備から崩れるケースが多かったですからね。さらに大卒2年目の中野就斗も台頭。佐々木翔、荒木、中野の3バックが固まってから失点が減り、広島の快進撃が始まったんです。加えて、町田と同様にシーズン中の補強も抜かりがない。

──今季加入の大橋祐紀(ブラックバーン・ローバーズ)が夏に移籍したときにはどうなるかと思いましたが、新たに外国籍選手を2人(トルガイ・アルスランとゴンサロ・パシエンシア)獲得し、さらに川辺駿もスタンダール・リエージュから復帰しました。

池田 これも新スタジアム効果の1つかもしれませんね。大橋の移籍金もあったかもしれませんが、入場料収入が増えて、予算規模という意味で広島はクラブとしてのステージをワンランク上げる可能性がある。それがこの強気の補強にも出ています。

舩木 広島で1つ懸念しているのは、この秋からACL2に参戦しなきゃいけないこと。補強をしたとはいえ、全てのポジションに2チーム分の戦力があるわけではないし、特にディフェンスラインは層が薄いですからね。広島は国際大会に出場すると顕著に移動の負担が大きくなるクラブでもあるので、厳しい日程を乗り切れるかどうか。それでも優勝争いに絡み続ける地力はあるでしょうし、町田と神戸との三つ巴状態が続くと予想しています。

河治 神戸に関しては、ラジオ番組でも「5位以内」という予想をしていて、その最低ラインは越えたなと。ただ、ACLエリートとの過密日程がカギだと開幕前から考えていたので、まだここからですね。残り6試合~7試合というところで昨年は無縁だった過密日程との戦いは避けられない。その中で酒井高徳と汰木康也が怪我から復帰してきたのは大きいなと思います。

池田 神戸も沖縄キャンプを取材したんですけど、練習を見て驚きました。練習がとにかくピリピリしている。監督が求めるというより選手同士が高い水準を要求し合っていて、ロンド1つとっても厳しさと激しさがあり、異様な緊張感がある。日本ではなかなか見ない光景でした。これが、昨季の優勝の要因だということは想像がつきました。ただ、どこかでこのピリピリした雰囲気が壊れてしまうのではないかという危うさも感じていたんです。選手基準で作っていたそれが壊れたときに、一気に失速するのではないかと。だから優勝を予想しなかったんですけど、蓋を開けてみたら、そんな心配は杞憂でしたね。

──現在4位の鹿島アントラーズはどうですか?

舩木 よくやっているというより、ちょっとずつ歯車がかみ合わないまま来て、この順位にいる印象ですね。柴崎岳が思った以上に稼働できなかったし、前線では新外国籍選手のチャヴリッチが怪我で長期離脱したり……。夏には三竿健斗がベルギーのルーヴェンから復帰しましたけど、ボランチというポジション柄、安定感はもたらしても強力なブーストにはなっていません。

河治 僕は逆に頑張ってるなと感じていて。もともと少数精鋭のチーム。後ろは植田直通と関川郁万が出ずっぱりですからね。チャヴリッチに加えて、FWから中盤にコンバートされてサプライズを提供してくれた知念慶も戦列を離れる時期があったけど、それでも最小限の怪我人でここまで乗り切ってきた。とはいえ、やっぱり出ずっぱりの何人かの選手たちはここに来て、勤続疲労が隠せなくなってきているのも確か。最終的に目標を達成できなかった場合に、ポポさん(ランコ・ポポヴィッチ監督)だけでなく、チーム編成への批判が強まっても仕方ないでしょうね。あと、ボールを奪ったら縦に速く攻めるというポポさんのサッカーには、良くも悪くも奥深さがないんです。それがいくつか勝ち点を落としている理由だと思います。

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